ホットプラグで12Vが24Vになる:セラミックコンデンサとケーブルのLC共振
通電したままのアダプタを挿す。それだけで、耐圧30Vの入力が壊れることがあります。犯人はケーブルのインダクタンスと、低ESRが売りのはずのMLCCです。ケーブルとコンデンサが直列LC回路を作り、挿した瞬間の電圧ステップに共振して、入力電圧は一瞬だけ供給電圧のほぼ2倍まで跳ねます。
生きたケーブルを挿すと、入力電圧はほぼ2倍まで跳ねる
ACアダプタの出力はすでに12Vが出ています。そのプラグを、電源の入っていない基板のジャックに挿す。基板側から見ると、これは「12Vの電源が、ある瞬間にいきなり接続される」というステップ入力です。
ケーブルはただの導線ではありません。1mの電源ケーブルは0.5〜1µH程度のインダクタンスを持ちます。そして最近の基板は、入力に低ESRの積層セラミックコンデンサ(MLCC)を数µF〜数十µF載せているのがふつうです。ケーブルのL と 入力のC が、直列LC回路を作ります。
電源が付いた電池やアルミ電解コンデンサだけの回路なら、この共振はすぐに減衰して目立ちません。ところがMLCCはESRが数mΩしかなく、ダンピングがほとんど効きません。ステップ入力を受けた直列LC回路は、抵抗がゼロに近づくほど、ピーク電圧が入力電圧の2倍に近づきます。12Vのアダプタを挿すと、入力ノードの電圧は一瞬だけ20V台まで跳ね上がります。
この現象は Linear Technology のアプリケーションノート AN88(Ceramic Input Capacitors Can Cause Overvoltage Transients)でまとまった形で報告されています。以降、この記事の数字はすべて node で計算して確かめます。
なぜ2倍まで跳ねるか:直列LCのステップ応答
直列RLC回路にステップ電圧 V₀ を加えたときの、コンデンサ電圧(=入力ノード電圧)のピークは次の式になります。
Vpeak = V₀ × (1 + e−ζπ/√(1−ζ²)) (ζ < 1、つまり振動する場合)
ζ はダンピング比で、ζ = (R/2)√(C/L)。R はケーブルの抵抗とMLCCのESRを足したものです。ζ が1に近い(強くダンピングされている)ほどオーバーシュートは小さく、ζ がゼロに近づくほど、指数の項が1に近づいてVpeak は 2V₀ に近づきます。
問題は、ζ を決める R の側にほとんど期待できないことです。MLCCのESRは低ESR品で数mΩ、ケーブルの抵抗も1mの電源コードで0.05Ω前後しかありません。「低ESRで高性能」なはずのMLCCが、この状況では逆に牙になります。
L, C, R を振って、ピーク電圧と共振周波数を計算する
1mの電源ケーブル(L ≒ 0.6µH)に、10µFのMLCCが入力についている基板を想定します。ケーブルの直流抵抗とMLCCのESRを合わせた R を振ると、ピーク電圧と共振周波数はこうなります(V₀ = 12V)。
| 合計抵抗 R | ダンピング比 ζ | 共振周波数 f₀ | ピーク電圧 | 目安 |
|---|---|---|---|---|
| 0.02Ω | 0.041 | 65kHz | 22.6V | 太いケーブル・低ESR MLCC単体 |
| 0.05Ω | 0.102 | 65kHz | 20.7V | 1mの一般的な電源コード |
| 0.1Ω | 0.204 | 65kHz | 18.2V | 細いケーブル、または2m |
| 0.2Ω | 0.408 | 65kHz | 14.9V | 抵抗を意図的に足した場合 |
| 0.5Ω | 1.02 | 65kHz | 12.0V | 臨界減衰を超えて振動なし |
共振周波数 f₀ = 1/(2π√LC) は R に依存しません。R をどれだけダンピングに使っても、共振周波数そのものは変わらないのがポイントです。R が効くのはピーク電圧の側だけです。
実機で壊れる場面:20V/12VのUSB PDと24Vの産業機器
この現象が実害になるのは、入力の絶対最大定格に対して余裕が薄いときです。同じ計算を、実際によくある電圧・耐圧の組み合わせで見てみます。
| 系 | 条件 | ピーク電圧 | 耐圧30Vに対して |
|---|---|---|---|
| 12V | 1mケーブル(0.6µH)、10µF MLCC、R=0.05Ω | 20.7V | 余裕あり |
| USB PD 20V | 1mケーブル(1.0µH、細径)、10µF MLCC、R=0.15Ω | 29.3V | ほぼ耐圧に張り付く |
| 24V産業機器 | 2mケーブル(1.2µH)、22µF MLCC、R=0.05Ω | 41.1V | 耐圧を10V以上超える |
USB PD の 20V や 12V は、ケーブルが長く細くなりがちな上に相手側の電源はすでに立っている状態から接続されるので、この現象がそのまま起こり得ます。耐圧30Vと聞くと余裕があるように見えますが、20V系では静的な余裕(10V)のほとんどをホットプラグのオーバーシュートで使い切ります。
24V の産業機器はさらに厳しく、ケーブルが長い(配電盤から2m、3m は珍しくない)うえに、フィールド機器側の入力にMLCCを並べて高周波ノイズ対策をしているケースが多いためです。41V という数字は、多くのDC-DCコントローラの絶対最大定格を素直に超えます。実機では、挿すたびではなく「たまたま悪いタイミングで挿したとき」だけ壊れるので、原因の特定が遅れがちです。
MLCCのDCバイアスが、さらに効いてくる
話をさらに悪くする要因があります。MLCCはDC電圧をかけると容量が減ります。10µFのX7Rに12Vをかけると、実効容量はカタログ値の半分以下、品種によっては3〜4µFまで下がることがあります。
容量 C が下がると、ダンピング比 ζ = (R/2)√(C/L) は小さくなる方向に動きます。R も L も変わらないのに、C が下がるだけでオーバーシュートが悪化するということです。
| MLCCの実効容量 | 共振周波数 f₀ | ピーク電圧 |
|---|---|---|
| 10µF(カタログ値) | 65kHz | 20.7V |
| 4µF(DCバイアス後の実効値の例) | 103kHz | 21.8V |
ピーク電圧の差は1V程度ですが、共振周波数はほぼ1.6倍に上がっています。データシートの容量で計算した f₀ より、実機の共振は高い周波数で起きることを覚えておいてください。オシロで波形を確認するときの時間軸の見立てが変わります。
突入電流の側:コネクタ接点が荒れる、上流の電源が落ちる
同じ現象を電流の側から見ると、突入電流です。電圧が跳ね上がる過程で、ケーブルには C を充電するための大きな電流が一瞬流れます。
USB のようにコネクタを日常的に抜き差しする規格では、この突入電流を制限するためにローカルなバルク容量の上限が決められています。USB 2.0 の仕様では、バスパワードデバイスが VBUS 直下に持てる容量は 10µF までとされ、それを超える場合は突入電流を制限する回路を入れることになっています。10µF という値そのものが、突入電流を実用的な範囲に収めるための上限です。
| 合計抵抗 R | ピーク突入電流 |
|---|---|
| 0.05Ω(太めのケーブル、接点良好) | 27.5A |
| 0.1Ω(一般的なケーブル) | 22.4A |
| 0.2Ω(細いケーブル、接点がやや荒れている) | 16.1A |
USBのコネクタ1ピンの連続定格電流はせいぜい1.5〜3A程度です。表の電流はその一桁上ですが、続くのは数µsだけなので、コネクタがその場で溶けるようなことはまずありません。問題は繰り返しです。抜き差しのたびにこの電流が接点を叩くと、微小なアーク放電で接点表面が荒れ(フレッティング、黒ずみ)、接触抵抗がじわじわ上がっていきます。接触抵抗が上がるとRが増えてオーバーシュートは減りますが、こんどは発熱と電圧降下の問題に置き換わるだけです。
もう一つの症状が、上流の電源が一瞬だけ落ちるというものです。上流の電源にヒューズやポリスイッチ、電流制限つきの電源ICが入っていると、この突入電流のピークを過電流と誤検知して、保護回路が働いてしまいます。ホットプラグした瞬間に電源LEDが一瞬消える、電源ICのPGが一瞬Lowになる、といった症状があれば、まずこの突入電流を疑ってください。
対策① アルミ電解コンデンサを並列に足す:ESRでダンピングする
いちばん手を付けやすい対策は、MLCCの隣に、ESRを持つアルミ電解コンデンサを並列に足すことです。低ESRが仇になっているなら、意図的にESRを持ち込んでダンピングを効かせます。
目安になる抵抗値は2つあります。1つは直列LC回路の特性インピーダンス Z0 = √(L/C)。L = 0.6µH、C = 10µFなら Z0 ≒ 0.245Ω で、R = Z0 のとき ζ = 0.5 となり、オーバーシュートはかなり減りますが完全には消えません。もう1つは臨界制動 Rcrit = 2√(L/C) ≒ 0.49Ω(ζ = 1)で、これを超えると振動そのものが止まります。
100µFクラスの小型アルミ電解コンデンサのESRは100kHz前後で0.2〜0.3Ω程度のものが多く、ちょうど Z0 と Rcrit の中間に収まります。振動を完全には止めなくても、ピーク電圧を絶対最大定格の下まで下げられれば実用上は十分なので、Z0〜Rcritの範囲のESRを狙うのが現実的な設計目標です。
電解を足しても、ケーブルのLとMLCCのCそのものは変わらないので共振周波数は変わりません。変わるのはピーク電圧だけです。電解が受け持つのは、共振1回ぶんのエネルギーをESRで熱に変えて捨てる役目です。
R とピーク電圧の関係をグラフで見る
R を連続的に振ったときのピーク電圧を、対数軸でプロットするとこうなります。特性インピーダンス Z0 = √(L/C)(ζ = 0.5)と、臨界制動 Rcrit = 2√(L/C)(ζ = 1)を境界として示します。Rcritを境に、それより右(R が大きい)ではオーバーシュートがほぼ消え、左(R が小さい)では急激に立ち上がります。
対策② TVS、対策③ ロードスイッチ/ホットスワップコントローラ
TVSダイオードは、共振そのものは止めません。電流は同じようにL–C間で行ったり来たりしますが、電圧がクランプ電圧を超えた瞬間だけTVSが導通し、それ以上電圧を上げさせません。12Vレールなら、常時の最大電圧(リップルや許容差を含めて)より高いスタンドオフ電圧(例えば15V)を持つ品種を選びます。この種のTVSは、規定のサージ電流でのクランプ電圧がスタンドオフの1.3〜1.4倍程度(15V品なら24V前後)になるものが多く、20V台前半でオーバーシュートを頭打ちにできます。ただしクランプしている間はTVSが電流を吸収して発熱します。共振のエネルギー自体は減らないので、TVSがそのぶんを毎回肩代わりすることになります。
ロードスイッチ/ホットスワップコントローラは、根本から違うアプローチです。プラグの機械的な接触とは別に、電子的なスイッチで出力の立ち上がりを意図的にゆっくりにします。直列LC回路の共振周期は 1/f₀ で、この記事の例では 1/65kHz ≒ 15µs。立ち上がり時間をこれよりずっと長く(1〜10ms程度)取れば、回路を励振するステップ入力そのものがなくなり、共振はほとんど起きません。ランプが共振周期の数十〜数百倍ゆっくりなら、電圧はLC回路の自由振動を誘発せずに、ほぼランプ波形どおりに立ち上がります。
対策の効果と副作用
3つの対策は、効くメカニズムも副作用も別物です。どれか1つで万能というものではなく、組み合わせて使うのがふつうです。
- 1mあたり0.5〜1µHでケーブルのLを見積もり、入力のMLCCの容量(DCバイアス後の実効値)とあわせて f₀、ζ を計算する。
- ζ が小さい(0.2以下)なら、ホットプラグ時のピーク電圧が入力電圧の1.5〜2倍に達し得ると見て、入力部品の絶対最大定格と比較する。
- 余裕がなければ、まず低コストなアルミ電解の並列追加を検討する。ESRが特性インピーダンス Z0 = √(L/C) から臨界制動 2Z0 の範囲に入る品種を選ぶ。
- 電解だけでは電圧が高すぎる、または面積が取れないなら、TVSでクランプ電圧を頭打ちにする。抜き差し頻度からTVSの平均損失を見積もる。
- 抜き差しが頻繁で接点の劣化や上流の誤保護動作も気になるなら、ロードスイッチ/ホットスワップコントローラで立ち上がり自体を共振周期よりゆっくりにする。
| 対策 | 効くメカニズム | 副作用・注意点 |
|---|---|---|
| アルミ電解を並列 | Z0 = √(L/C)〜2Z0(臨界制動)の範囲のESRでダンピング。共振エネルギーを熱として消費 | 実装面積が増える。ESRは低温で数倍に上がることがあり、効きが季節・環境で変わる。電解自体に寿命(使用時間・温度で規定)がある |
| TVS | クランプ電圧を超えた分だけ吸収。共振周期やダンピングには影響しない | 共振エネルギーそのものは減らないので、抜き差しのたびにTVSが発熱を肩代わりする。頻繁な抜き差しでは平均電力に注意。通常時もわずかな漏れ電流がある |
| ロードスイッチ/ホットスワップコントローラ | 立ち上がり時間を共振周期より十分長くし、そもそも励振しない | 部品コストと基板面積が増える。オン抵抗ぶんの電圧降下・発熱がある。機械的な接点バウンスなど、電子的な制御が届かない速い過渡には別途対策が要る |
よくある質問
MLCCの容量を増やせば解決しますか。
MLCCの代わりにタンタルやポリマーコンデンサを使えばどうですか。
ホットプラグしなければ問題ないのでは。
オシロで確認するときの注意点はありますか。
参考にした規格・資料
- Linear Technology (Analog Devices), Application Note AN88, "Ceramic Input Capacitors Can Cause Overvoltage Transients" — ケーブルインダクタンスと低ESRセラミックコンデンサの直列共振によるオーバーシュートを扱ったアプリケーションノート
- USB Implementers Forum, Universal Serial Bus Specification Revision 2.0 — バスパワードデバイスのVBUS直下のローカル容量の上限と、突入電流制限の考え方
- 各社 TVS / アルミ電解コンデンサのデータシート・アプリケーションノート — TVSのスタンドオフ電圧とクランプ電圧の関係、アルミ電解コンデンサのESR周波数特性