ミレニアムバイパスの動作と、残る寄生容量

3PDTを使わずにLED表示を付けられるので、エフェクターの自作でよく使われる回路です。動作は単純ですが、超高インピーダンスのノードを1つ作るので、そのぶん癖もあります。

最終更新: 2026-10-28 エフェクタースイッチングMOSFET寄生容量

3PDTを使わずにLEDを点ける

フットスイッチには、効果を切ったときに回路を信号経路から外すこと(トゥルーバイパス)と、LEDで状態を示すことの2つの役目があります。素直に配線すると音声に2極、LEDに1極で3PDTが必要ですが、3PDTは高価で、踏み心地も硬く、寿命も短めです。

R.G. Keen が1999年に発表したミレニアムバイパスは、DPDTのまま、余った接点が開いているかをトランジスタで読み取ってLEDを点けます。そのかわり、1011Ω 級のノードが1つできます。

フットスイッチとLED表示を支える小信号回路
フットスイッチとLED表示を支える小信号回路。概念を表すAI生成イラストです。実際の回路・条件は本文の図と説明を参照してください。

DPDTの2極の使いかた

極の割り当ては図の凡例のとおりです。後半の症状の説明の前提になります。

エフェクトの入力は、どちらの状態でも入力ジャックにつながったままです。切り替わるのは出力側だけで、原典の配線図でもそうです。トゥルーバイパスと呼ばれてはいますが、入力側は切れていません。

ミレニアムバイパスの回路図DPDTスイッチの極1が入力ジャックと出力ジャックを直結し、極2がエフェクト出力をセンス線または出力ジャックへ振り分ける。エフェクトの入力は入力ジャックに常時接続されている。センス線はミレニアム2基板へ入り、+9Vから1N914の逆リークでプルアップされたMOSFETのゲートに至る。MOSFETのドレインにLEDと電流制限抵抗が入る。 IN バイパス経路(踏んでいないとき導通) 常時接続。入力は切れない エフェクト回路 常に通電・常に信号が入っている DPDT(2極2投) 図はバイパス状態 開放(未使用) OUT エフェクトON時はこちら 極の割り当て 極1: 入力ジャック ─ 出力ジャック(バイパス時に導通/ON時は開放) 極2: エフェクト出力 ─ センス線(バイパス時)/出力ジャック(ON時) ミレニアム2 基板 センス線 +9V 1N914 逆リーク 10〜15nA 低リーク NPNのC-B接合 BS170 1k〜4.7k LED
図1:DPDTの配線と、ミレニアム2の点灯回路。赤い線がエフェクト入力への常時接続。

検出しているのは「センス線が開放かどうか」だけ

バイパス時は、極2がセンス線をエフェクト出力につなぎます。出力コンデンサの先のボリュームかプルダウン抵抗がグラウンドへの直流路になり、ゲートを0Vに保つので、MOSFETはOFFでLEDは消えています。

エフェクトON時は、極2がセンス線から離れて開放になります。検出回路が見ているのは、センス線が開放かグラウンドに落ちているかだけです。ゲートを引き下げるものが無くなるので、+9V から 1N914 の逆方向リーク電流(10〜15nA)がゲートを持ち上げ、しきい値を超えるとMOSFETがONしてLEDが点きます。

プルアップに抵抗ではなくダイオードのリークを使うのが要点です。10MΩでプルアップすると900nAが流れ、バイパス中にエフェクトの出力コンデンサを充電して、踏み替え時のポップノイズになります。

以下の10〜15nAや寄生容量は動作を説明するための仮定です。1N914の逆方向電流は電圧・温度・個体差で変わります。データシートの最大値は、実際に流れる電流の代表値や最小保証値ではありません。

ミレニアムバイパスの動作バイパス状態では入力ジャックから出力ジャックへ直結した経路に信号が流れ、エフェクト回路にも信号が入り続けている。エフェクト出力はセンス線につながり、ゲート電圧は0Vでランプは消灯。踏むとスイッチの2つの刃が同時に動き、エフェクト出力が出力ジャックへ、センス線は開放になる。ゲート電圧がゆっくり上がりLEDが点灯する。 バイパス(踏んでいない) 入力ジャックが出力ジャックへ直結。エフェクト出力はセンス線へ エフェクトON(踏んだ) エフェクト出力が出力ジャックへ。センス線は開放になる IN エフェクト回路 ゲイン60dB・常に動作中 DPDT(2極2投) OUT センス線 エフェクト出力につながる → ゲートは0V 開放 → リークがゲートを持ち上げる ミレニアム2 基板 ゲート電圧 V(GS) 計算例:10nAで60pFを充電、2Vまで12ms 消灯 点灯(じわっと)
図2:踏み替えの動き。入力側は常に流れたままで、切り替わっているのは出力側とセンス線だけ。

MOSFETがONするまで

MOSFETのゲートは酸化膜で絶縁されていますが、リーク電流はゼロではありません。以下では、ほかの経路へ逃げる電流を差し引いた正味の充電電流を10nA、ゲートと配線の合計容量を60pFと仮定します。電圧の変化は ΔV = I × t ÷ C で見積もれます。

正味の電流を一定とみなす近似では、ゲート電圧は時間に比例して上がります。10nA と60pFを仮定すると0.17V/msです。実際のリークは電圧や温度に依存するため、この傾きが常に成り立つわけではありません。

BS170はNチャネルのエンハンスメント型で、VGS = 0V ではドレイン電流が流れません。デプレッション型だと VGS = 0V でも電流が流れ、消灯状態を作れません。

この仮定では、ゲートが2Vに達するまで12ms、3Vまでは18msです。ただし、データシートの VGS(th) は規定の小さなドレイン電流で測る値で、LEDが必要な明るさになる電圧を直接示しません。MOSFETが十分にオンし、その電圧降下を無視できる場合、赤色LEDの順方向電圧を2.0V、直列抵抗を2.2kΩとすると、電流は (9 − 2.0) ÷ 2200 ≈ 3.2mAです。

MOSFETがONするまで左は回路で、+9Vから1N914の逆リーク約10ナノアンペアがゲートに流れ込み、ゲート容量と配線容量あわせて約60ピコファラドを充電する。右上のグラフは、ゲート電圧が時間に比例して直線的に上がり、しきい値2ボルトを超えたところでLEDが点きはじめる様子。右下は伝達特性で、エンハンスメント型はゲート電圧0でドレイン電流が流れないのに対し、灰色の破線で示したデプレッション型はゲート電圧0でも電流が流れてしまい、消灯状態を作れない。 ゲートに電流が入って電圧が上がり、しきい値を超えたところでLEDが点く ゲートに流れ込む電流 +9V 1N914(逆バイアス) ゲート I(G) ≒ 10nA C(iss) + 配線 ≒ 60pF Nch エンハンスメント型 I(D) +9V LED 2.2k いまのゲート電圧 V(GS) = 0.4V V(GS) = 1.4V V(GS) = 2.0V = V(GS,th) V(GS) = 3.5V I(D) ≒ 0 → 消灯 I(D) が流れる → 点灯 ① ゲート電圧の立ち上がり V(GS,th) ≒ 2V(BS170 は 0.8〜3.0V) ここから点きはじめる 4 2 0 V(GS) [V] 定電流での充電なので直線的に上がる(ΔV = I × t ÷ C) 時間 ② 伝達特性(I(D) 対 V(GS)) 3mA I(D) 0 V(GS,th) V(GS) = 0 で I(D) = 0 エンハンスメント型 デプレッション型 灰色の破線はデプレッション型。V(GS) = 0 でも流れるので、バイパス中も消灯できずこの回路には使えない 点灯後の電流は抵抗が決める:(9V − V(F)) ÷ R = (9 − 2.0) ÷ 2.2k ≒ 3.2mA
図3:ゲートに電流が入って電圧が上がり、しきい値を超えて点灯するまで。右下は伝達特性で、灰色の破線はデプレッション型の場合。

プルアップ電流とクリック音

プルアップ電流 I は、エフェクト出力の直流抵抗 Rint に流れ込んで出力コンデンサを V = I × Rint まで充電し、踏んだ瞬間にクリックとして次段に渡ります。ギターの出力は100mV程度なので、10mV以下に抑えます。

プルアップ電流と、クリックを10mV以下に抑えるために許されるエフェクト出力の直流抵抗
プルアップの方式電流許される Rint適用範囲
10MΩ 抵抗(Rat方式)約900nA11kΩ 以下出力抵抗の低い回路に限られる
22MΩ 抵抗約400nA25kΩ 以下まだ厳しい
1N914 のリーク10〜15nA0.7〜1MΩほぼどの回路でも使える

ミレニアムが後付けしやすいのは3行目のためで、プルアップをダイオードのリークに変えただけで、使える回路の幅が2桁変わっています。

プルアップ電流とクリック左は 10MΩ の抵抗で +9V からプルアップする場合で、電流は約900nA。右は 1N914 の逆リークでプルアップする場合で、電流は 10〜15nA。どちらも電流はセンス線を通ってエフェクト出力に入り、出力コンデンサの先の直流抵抗 Rint に流れて V = I × Rint の電圧を作る。クリックを 10mV 以下に抑えるのに許される Rint は、左が 11kΩ 以下、右が 0.7〜1MΩ。 バイパス中のプルアップ電流が、踏み替えのクリックを作る 電流が Rint に流れて V = I × Rint が生じ、踏んだ瞬間に次段へ渡る。ギターの出力は 100mV 程度 10MΩ の抵抗でプルアップ +9V 10MΩ 約 900nA センス線 Rint V = I × Rint Cout エフェクト 出力 クリック 10mV 以下なら Rint は 11kΩ 以下 1N914 の逆リークでプルアップ +9V 1N914 10〜15nA センス線 Rint V = I × Rint Cout エフェクト 出力 クリック 10mV 以下なら Rint は 0.7〜1MΩ
図4:プルアップ電流が出力コンデンサを充電し、V = I × Rint がクリックになる。

LEDがゆっくり点く理由

点灯時間は、ゲートに流れ込む正味の電流と容量に依存します。たとえば、容量60pFを0Vから2Vまで充電するのに0.5秒かかると仮定すると、I = C × ΔV ÷ t から正味の電流は240pAです。これは条件を仮定した計算例で、当サイトの実測値ではありません。ダイオード、MOSFET、基板表面のリークによって正味の電流は変わるため、点灯時間だけで遅れの原因を断定することはできません。

検出ノードの容量は、Ciss、配線、ダイオード2本の接合容量で合わせて30〜80pFです。

ミレニアムバイパスに残る寄生容量上段左は、バイパス中に開いているスイッチ接点に0.3から1ピコファラドの接点間容量が残る様子。その下は、センス線とバイパス線が並走することで生じる配線間容量。右は検出ノードにぶら下がる寄生容量で、MOSFETの入力容量と配線容量をあわせて30から80ピコファラド。下段は、この容量をリーク電流で充電するのに要する時間の式。 ① 信号経路に残る容量(バイパス中) 接点は開いていても、容量としてはつながったまま エフェクト出力 歪んだフル出力 約1V 開放(未使用) OUT 接点間容量 C(sw) 0.3〜1pF センス線(フル出力が乗っている) バイパス線(正規の音) 配線間容量 ② 検出ノードに残る容量 10¹¹Ω のノードを数nAで充電している +9V 1N914(10〜15nA) 検出ノード 低リーク クランプ C(iss) + 配線容量 30〜80pF MOSFETのゲートへ 計算例:60pF × 2V ÷ 10nA = 12ms(0.5秒と仮定すれば正味240pA) 実効電流は、プルアップのリークからクランプ側・ゲート・基板表面のリークを差し引いた残り
図5:バイパス時に残る寄生容量。左が信号経路(開いた接点と、センス線・バイパス線の間)、右が検出ノードそのものの容量。

実装上の注意

  • フラックスの拭き残しや湿気でLEDが点かなくなります。表面の抵抗が数百MΩまで落ちると10nAはそちらへ逃げるので、洗浄を省けません。
  • ノードを指で触ると点灯が変わります。1011Ω に対しては、人体もハンダの汚れも導体です。
  • 高インピーダンスのノードはハムを拾います。センス線を電源やトランスの近くに這わせると、LEDがちらつくことがあります。
  • 点灯が遅いのは仕様で、リークの大きい金ドープ品(1N914、1N4148)が向きます。R.G. Keen が2004年に低リークのダイオードを避けるよう注記したのもこのためです。

バイパス中に音が漏れる

一番多い相談は、バイパスなのにファズやディストーションの音がうっすら聞こえる、です。バイパス中もエフェクトの入力は切り離されていないので、60dBのゲイン段は歪んだフル出力を作り続けていて、それを止めているのは開いたスイッチ接点1つだけです。

接点は開いていても 0.3〜1pF の容量が残ります。0.5pFとして、次段の入力インピーダンス1MΩに対する減衰を計算するとこうなります。

接点間容量 0.5pF、負荷1MΩ、エフェクト出力1Vrms(歪んで振り切った状態)としたときの漏れ
周波数|ZC|減衰出力ジャックでの漏れ電圧
100Hz3.2GΩ−70dB0.31mV
1kHz318MΩ−50dB3.1mV
5kHz63.7MΩ−36dB15.7mV
10kHz31.8MΩ−30dB31mV

正規のギター信号は約100mVなので、5kHzで15.7mVは −16dB で、無音時にはっきり聞こえます。漏れは周波数が上がるほど増える(20dB/dec)ので、高域だけが漏れてジリジリしたノイズになります。

ハイゲイン時の音漏れ入力ジャックから出力ジャックへ向かう正規のバイパス経路の下に、漏れの経路がある。入力ジャックから常時接続のエフェクト入力へ入り、ゲイン60デシベルの歪み段を通って約1ボルトになり、開いたスイッチ接点の0.5ピコファラドを通って出力ジャックに戻る。5キロヘルツでの収支は、ギター出力100ミリボルトに対し漏れは15.7ミリボルト、マイナス16デシベル。 バイパス中なのに音が漏れる経路 入力が切れないので、歪み段は踏んでいなくてもフル出力を作り続けている IN 正規のバイパス音 約100mV OUT 歪み段(ゲイン60dB) バイパス中も動作 → 出力 約1V 開放(未使用) 開いた接点の容量 0.5pF 5kHz で 63.7MΩ レベルの収支(5kHz) 100mV ギター出力(基準 0dB) 約1V 歪み段の出力(+20dB) −36dB 0.5pF と 1MΩ の分圧 15.7mV 出力ジャックでの漏れ(−16dB) 周波数が上がるほど漏れは増える(20dB/dec)ので、低音ではなく高域だけがジリジリと残る
図6:バイパス中の漏れ経路と、レベルの収支。入力が切れないので、歪み段は踏んでいない間もフル出力を作っている。

漏れを減らすには

「入力が切れていない」「歪み段のゲイン」「接点間容量」の掛け算なので、対策もこの3つのどれかに向けます。

  1. 接点間容量を減らす。使う接点を端側に寄せ、隣は空けると数分の1になります。
  2. センス線を短くするか、シールド線にする。歪んだフル出力が乗っているので、バイパス線と並走すると接点間容量より大きな結合になることがあります。
  3. エフェクト出力側にプルダウンを追加する。漏れは減りますが、下げすぎるとポップノイズが出るので Rint は数百kΩまでです。
  4. 入力も切る。これが一番効きますが、極がもう1つ要るので3PDTに戻ることになります。

ゲインの高いペダルほどミレニアムとは相性が悪いということです。バッファやブースト、モジュレーションのように出力が数百mVで収まる回路なら、漏れは −50dB 以下に埋もれるので実用上問題になりません。

いま作るなら

今は3PDTが安いので、ゲインの高い回路なら入出力とも切るほうが確実です。それでも、接点を1つ減らすかわりに超高インピーダンスのノードを作るトレードの例として読む価値があります。そうしたノードでは、寄生容量と表面リークが設計値になります。

よくある質問

ミレニアムバイパスは本当にトゥルーバイパスですか?
出力側は切り離されるので、エフェクトが音を汚さないという目的は達しています。ただし入力は常時つながったままで、エフェクトの入力インピーダンス(多くは0.5〜1MΩ)がギターに並列に載ります。
MOSFETはエンハンスメント型でなければだめですか?
はい。デプレッション型は VGS = 0V でも電流が流れ、バイパス中にLEDが消えません。BS170 や 2N7000 はどちらもNチャネルのエンハンスメント型です。
LEDが点きません。何を疑えばよいですか?
まず基板の洗浄です。フラックスの残りが数百MΩの漏れ経路になると、10nAのプルアップ電流はそちらへ逃げます。次にダイオードで、低リーク品だと点灯まで数秒かかるか点きません。最後に、極2でセンス線が本当に開放になっているか確認します。
LEDが点くのが遅いのを速くできますか?
ΔV = I × t ÷ C なので、C を減らすか I を増やすかです。センス線を短くしても効果は限定的で、リークの大きいダイオードで I を増やすほうが効きます。0.1秒以下にしたいなら3PDTかリレーにします。

参考にした規格・資料

  • R.G. Keen, "The Millenium Bypass", GEOFEX (1999、2004年更新) — 原典。ミレニアム1(JFET)とミレニアム2(MOSFET)の回路図、Rat方式との比較、低リークダイオードに関する注記
  • R.G. Keen, "The Technology of Bypasses", GEOFEX — バイパス方式の系譜と、それぞれの損失・ノイズ
  • onsemi BS170 データシート — VGS(th) の範囲、Ciss、ゲートリークの規格値。本文の見積りに使用
  • onsemi 1N914 / 1N4148 データシート — 逆方向リークの上限値と試験条件(2ページ)。9Vで10〜15nA流れることを保証する規格ではありません。

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