PoE が 48V をかける前にやっていること

RJ45 のポートには、PoE に対応していない機器も刺さります。PSE はいきなり 48V を出さず、まず数ボルトで相手を確かめ、何ワット要るかを聞いてから投入します。

最終更新: 2026-10-28 PoEIEEE 802.3電源シーケンス電圧降下

相手が PoE 機器とは限らない

PoE 対応のカメラも、ただの PC も、古いハブも同じ RJ45 ポートに刺さります。挿した瞬間に 48V が出ていたら、非対応機器のトランスや PHY を壊します。

そこで PoE は給電の前に、検出で「相手は PoE 機器か」を、クラス分類で「何ワット要るのか」を、48V よりずっと低い電圧で確かめます。どちらも通信ではなく電気的な測定です。

PoE機器への給電前に接続先を確認する様子
PoE機器への給電前に接続先を確認する様子。概念を表すAI生成イラストです。実際の回路・条件は本文の図と説明を参照してください。

検出:2点かけて傾きを見る

PSE は 2.7〜10.1V で電圧をかけ、電流を測ります(5mA 以下に制限)。PD 側は、この範囲で 25kΩ に見えるように作られています(合格範囲は 23.75〜26.25kΩ)。

PD はブリッジ整流器で極性を問わず動くため、経路に常にダイオードが 2 個直列に入り、電流は原点を通りません。1 点だけ測って V ÷ I を計算すると、4V での電流は (4 − 1.4) ÷ 25k = 104µA なので 38.5kΩ になり、25kΩ の PD が規格外と判定されます。

そこで 2 点測って差をとります。4V と 8V なら電流は 104µA と 264µA で、ΔV ÷ ΔI = 4V ÷ 160µA = 25.0kΩ。ダイオードのオフセットは差をとった時点で消えます。電圧を段階的に上げるのは、2 点なければ傾きが求まらないからです。

PoE の検出左は回路で、PSEが2.7から10.1ボルトをかけ、PD側はブリッジ整流器の先に25キロオームの signature 抵抗を持つ。右は電流対印加電圧のグラフで、ダイオード2個ぶん約1.4ボルトのオフセットがあるため直線は原点を通らない。4ボルトで104マイクロアンペア、8ボルトで264マイクロアンペアの2点をとり、その差から4ボルト割る160マイクロアンペアで25キロオームが求まる。1点だけで割ると38.5キロオームになり、規格外と誤判定する。 検出:2.7〜10.1V を2点かけて、傾きから抵抗を出す 電流は5mA以下に制限される。ここではまだ48Vは出ていない PSE(給電側) 2.7〜10.1V を2点かける LANケーブル PD(受電側) ブリッジ整流器 25k ダイオード2個ぶん 約1.4V のオフセットが必ず入る 電流 印加電圧 4V / 104µA 8V / 264µA 傾き=1/25kΩ 原点を通ると思うと外れる 同じPDでも、測りかたで答えが変わる 1点だけ:4V ÷ 104µA = 38.5kΩ → 規格外と判定してしまう 2点の差:(8V − 4V)÷(264µA − 104µA)= 4V ÷ 160µA = 25.0kΩ → 合格(23.75〜26.25kΩ)
図1:検出は2点測定。1点の V÷I ではオフセットが乗る。

クラス分類:電圧をひと段上げて、電流を聞く

検出に通ると、PSE は電圧を 15.5〜20.5V に上げます。PD は要求電力に対応した電流を流し、PSE はその値から確保する電力を決めます。

クラス分類で PD が流す電流と、対応する電力
クラスPD が流す電流PSE が確保する電力PD が使える電力
00〜4mA15.4W12.95W
19〜12mA4.0W3.84W
217〜20mA7.0W6.49W
326〜30mA15.4W12.95W
436〜44mA30W25.5W

クラス 4(Type 2 / PoE+)以上には、分類を 2 回繰り返す「2 イベント分類」か、給電後の LLDP による交渉が必要です。802.3bt(Type 3 / 4)はクラス 5〜8 を加え、PD 側で最大 71.3W まで取れます。

クラス分類は電力の予約です。PSE は確保した電力を他のポートに回せないので、48 ポートのスイッチで電源容量が足りなくなるのは、たいていこの積み上げです。

投入してから通常動作まで

クラスが決まると、PSE は本電圧を出します。一気にではなく、PD の入力コンデンサへの突入電流が規定内に収まるよう、電流を制限しながら上げます。

PoE の給電シーケンス横軸を時間、縦軸をケーブル上の電圧としたグラフ。0ボルトから、まず4ボルトと8ボルトの2段の低い検出パルスが出て、いったん0に戻る。次に18ボルト前後のクラス分類のパルスが出て、また0に戻る。そのあと本電圧の53ボルトまで立ち上がり、通常動作に入る。検出とクラス分類の電圧が本電圧に比べてどれだけ低いかが分かる。 0V から本電圧まで、何がどの順で起きるか 検出とクラス分類は、本電圧よりずっと低い電圧で行われる 10V 20V 50V 57V 0 ケーブル上の電圧 ① 検出 2.7〜10.1V・5mA以下。25kΩを確認 ② クラス分類 15.5〜20.5V。PDが流す電流でクラスを判定 ③ 投入 突入電流を制限しながら本電圧まで立ち上げる ④ 通常動作 PSE 44〜57V。PDは MPS として 10mA 以上を流し続ける MPS が途切れると PSE は給電を止め、①からやり直しになる。省電力設計で電源が落ちる原因はここ
図2:0V から本電圧まで。

MPS が切れると電源が落ちる

給電後も、PSE は相手がいるかを見ています。これが MPS(Maintain Power Signature)で、PD は最低 10mA を流し続けなければなりません。PD がスリープして 10mA を下回ると、PSE は「抜かれた」と判断して給電を止めます。省電力にしたら電源が落ちる症状は、たいていこれです。

対策は、スリープ中もダミー負荷で 10mA(約 0.5W)を確保するか、パルス的に電流を引くことです。

PoE の MPS と給電停止PD の電流を時間で表した 3 つのグラフ。上は、通常動作では 10 ミリアンペアを超えているが、スリープで 10 ミリアンペアを下回ると、PSE が給電を止めて電流が 0 になる。中は、スリープ中もダミー負荷で 10 ミリアンペア以上を保つ対策。下は、パルス的に 10 ミリアンペアを超える電流を引く対策。 PD の電流が 10mA を下回ると、PSE は給電を止める MPS:PD は最低 10mA を流し続ける スリープすると MPS が切れる 10mA PD の電流 時間 通常動作 スリープ:10mA 未満 給電停止 対策 1:スリープ中もダミー負荷で 10mA を確保 10mA PD の電流 時間 対策 2:パルス的に電流を引く 10mA PD の電流 時間
図3:10mA を下回ると給電が止まる。

PD の最低電圧はケーブルの電圧降下で決まる

PSE と PD で最低電圧が違うのは、ケーブルの電圧降下のためです。Type 1 は最大 350mA、チャネル抵抗の上限 20Ω で、44V − 0.35A × 20Ω = 37V。Type 2 は最大 600mA、4 対化でチャネル抵抗の上限が 12.5Ω になり、50V − 0.6A × 12.5Ω = 42.5V。どちらも規格の値に一致します。PD の最低入力電圧は、最悪ケースのケーブルで最大電流を流したときに残る電圧です。

効いてくるのは 電圧降下 です。Cat5e の 24AWG は 1 本あたり約 9.4Ω/100m で、2 対で往復すると 100m で 9〜10Ω になります。

PoE の電圧の収支Type 1 は、PSE の最低出力44ボルトから、最大350ミリアンペアとチャネル抵抗20オームによる7.0ボルトの降下を引いて、PD の最低入力電圧37ボルトになる。Type 2 は、PSE の最低出力50ボルトから、最大600ミリアンペアとチャネル抵抗12.5オームによる7.5ボルトの降下を引いて、42.5ボルトになる。 PD の最低入力電圧は、ケーブルの電圧降下から出ている 覚える数字ではなく、引き算の結果 Type 1(802.3af・最大 350mA) 44V PSE の最低出力電圧 − 0.35A × 20Ω = 7.0V チャネル抵抗の上限は 20Ω = 37V PD の最低入力電圧 Type 2(802.3at・最大 600mA) 50V PSE の最低出力電圧 − 0.6A × 12.5Ω = 7.5V 4対化でチャネル抵抗は 12.5Ω = 42.5V PD の最低入力電圧 Cat5e の 24AWG は1本あたり約 9.4Ω/100m。2対で往復すると 100m で 9〜10Ω になる 入力電圧が下がると、同じ電力を取るのに電流が増え、電圧降下がさらに増える
図4:PSE の最低電圧からケーブルの電圧降下を引くと、PD の最低電圧になる。

実機で引っかかるところ

  • 検出用の 25kΩ にコンデンサをぶら下げないでください。PSE は短時間で 2 点を測るので、ノード容量が大きいと電流が落ち着かず、抵抗値が正しく読まれません。
  • クラスを超えて電流を引くと、PSE によっては過電流で切ります。実消費に合うクラスを申告します。
  • 100m の Cat5e は 10Ω 前後で、最大電流では 6〜7V 落ちます。入力電圧が下がると同じ電力でも電流が増え、降下がさらに増えます。
  • 非標準の「パッシブ PoE」は、検出もクラス分類もせず常時 48V を出します。非対応機器を挿すと壊れます。

よくある質問

なぜ検出で2点も測るのですか。1点で足りませんか。
電流が原点を通らないためです。4V の 1 点だと 25kΩ の PD が 38.5kΩ に見え、規格外と判定されます。2点の差をとれば、オフセットが消えて傾きだけが残ります。
PoE 機器がスリープすると電源が落ちます。
MPS を疑ってください。PD が 10mA を下回ると、PSE は切断されたと判断して給電を止めます。スリープ中もダミー負荷で 10mA を確保するか、間欠的に電流を引きます。
PD の最低電圧が 37V と 42.5V で違うのはなぜですか。
ケーブルでの電圧降下が違うからです。Type 1 は 44 − 7 = 37V、Type 2 は 50 − 7.5 = 42.5V で、規格の数字はこの引き算の結果です。
クラスを高く申告しておけば安心ですか。
PSE 側でその電力が予約されます。全ポートが過大申告すると、電源容量が先に尽きて給電できないポートが出ます。実消費に合わせたクラスにしてください。

参考にした規格・資料

  • IEEE 802.3(Clause 33 / 145) — 検出・クラス分類・MPS の規定と、PSE / PD の電圧・電流の範囲
  • IEEE 802.3af / 802.3at / 802.3bt — Type 1 / 2 / 3 / 4 の電力とクラスの定義
  • TIA-568 / ISO-IEC 11801 — Cat5e / Cat6 の導体抵抗。電圧降下の見積りに使用

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