降圧のデューティ比は Vout/Vin で決まらない:最小オン時間とパルススキップ
D = Vout/Vin は、損失もデッドタイムもない理想スイッチを仮定した式です。実機のコントローラはこの式どおりのオン時間を作ろうとしますが、その値がコントローラの最小オン時間を下回ると、狙いどおりの電圧を作れなくなります。24V を 2MHz で 1.0V に落とそうとすると、必要なオン時間はわずか約21ns。多くのコントローラの最小オン時間(代表的に50〜100ns程度)をすでに下回っています。何が起きるか、反対側の壁(最大デューティ)はどうか、そしてどう判断するかを数字で見ていきます。
D = Vout/Vin は出発点にすぎない
降圧コンバータのデューティ比は、教科書では D = Vout/Vin と習います。これは、スイッチとインダクタに抵抗がなく、オン・オフの切り替えが瞬時に起きる理想化されたモデルでの答えです。実機のコントローラは、電圧を見て毎周期デューティを微調整するフィードバック制御で動いているので、この式からのずれは自動的に補正されます。ずれそのものが問題になるのではなく、ずれを補正しきれない状況——具体的には、必要なオン時間やオフ時間がコントローラの物理的な下限を超えてしまう状況——が問題になります。
この記事では、まず D = Vout/Vin からの実際のずれの大きさを数字で確認し(同期整流バックコンバータの損失は、どこで出ているかで見た損失の話と表裏の関係です)、次にそのずれが本質的な壁——最小オン時間と、その裏返しの最小オフ時間(最大デューティ)——にぶつかったときに何が起きるかを見ます。
実際のデューティ:Rds(on) と DCR、デッドタイムでどれだけずれるか
同期整流バックの平均モデルで、負荷電流を I、ハイサイド Rds(on) を Rhs、ローサイド Rds(on) を Rls、インダクタの DCR を RL とすると、電圧・時間積のつり合いから実際に必要なデューティは次の式になります。
D実際 = (Vout + I·(RL + Rls)) ÷ (Vin − I·Rhs + I·Rls)
数値を入れます。Vin = 12V、Vout = 3.3V、I = 3A、Rhs = 30mΩ、Rls = 15mΩ、RL(DCR) = 20mΩ とすると、理想値 D0 = 3.3 ÷ 12 = 0.275 に対し、D実際 ≒ 0.2848。差は+0.98ポイント(理想値に対して+3.6%)です。インダクタの電圧はどこから見た電圧かで見た V = L·dI/dt の関係はこの平均モデルの前提になっています。
デッドタイムも同じ向きにずれを足します。ハイサイドとローサイドが両方オフになる区間では、電流はローサイドの寄生ダイオード(またはボディダイオード)を順方向降下 VF ≒ 0.5〜0.6V で流れます。1周期にデッドタイムは2回(ハイサイドが切れてからローサイドが入るまでと、その逆)あるので、出力電圧への影響はおよそ ΔV ≒ 2·fsw·tdead·VF です。fsw = 2MHz、tdead = 10ns、VF = 0.55V なら ΔV ≒ 22mV。tdead = 20ns なら44mVです。
これらを足し合わせると、コントローラが理想値どおりの D0 = 0.275 でスイッチングした場合の実際の Vout は約 3.16V(目標より約4.2%低い)になります。フィードバックループはこのずれを検知して D をわずかに大きくし、3.3V に収束させます。つまり実際に流れているデューティは、常に Vout/Vin の理想値より少しだけ大きいのが普通です。
このずれ自体は毎周期のフィードバックで自動的に補正されます。問題になるのは、次の節で見るように、補正に必要なオン時間・オフ時間がコントローラの下限を超えたときです。
最小オン時間の壁:24V→1.0V を 2MHz で作ろうとすると
理想デューティでの必要オン時間は ton = D0 ÷ fsw = (Vout/Vin) ÷ fsw です。Vin = 24V、Vout = 1.0V、fsw = 2MHz(周期500ns)なら、ton = (1.0 ÷ 24) ÷ 2MHz ≒ 20.8ns。前の節で見たとおり実際に必要な ton はこれよりわずかに長くなりますが、大勢に影響しません。
同期整流バックコンバータ用のコントローラ IC には、ゲートドライバの伝搬遅延やスロープ補償、電流検出のブランキング時間などから来る最小オン時間という制約があり、代表的な値はデータシートの Electrical Characteristics に 50〜100ns 程度の範囲で書かれています(品種により差があります)。20.8ns は、この範囲の下端よりもさらに一桁近く小さい値です。つまり24V → 1.0V を 2MHz で単段のバックとして作るのは、多くの品種で最初から無理な相談だということが、この一行の計算だけでわかります。
下の表は、Vin・Vout・fsw の組み合わせを変えたときの必要オン時間です。最小オン時間を仮に50ns とすると、これを下回る組み合わせ(表中で太字)は単段では素直に動きません。
| Vin | Vout | fsw | ton |
|---|---|---|---|
| 6V | 1.0V | 2MHz | 83.3ns |
| 12V | 1.0V | 2MHz | 41.7ns |
| 12V | 0.8V | 2MHz | 33.3ns |
| 24V | 1.0V | 500kHz | 83.3ns |
| 24V | 1.0V | 1MHz | 41.7ns |
| 24V | 1.0V | 2MHz | 20.8ns |
| 48V | 1.0V | 1MHz | 20.8ns |
壁を下回るとどうなるか:クランプ、パルススキップ、周波数フォールドバック
必要な ton が最小オン時間を下回ったとき、コントローラに残された手はほぼ2つです。
- ① ton を最小値に張り付かせる(クランプ)。ton を縮められない以上、1パルスあたりに送り込むエネルギーは必要量より多くなります。図2の例では、Vin = 20V で本来必要な ton は25nsですが、最小オン時間50nsに張り付くと、1パルスで送るエネルギーは2倍。fsw をそのままにすれば、平均デューティは0.05 (5%) 必要なところが0.1 (10%) になり、出力は目標の2倍(1.0V → 2.0V)に向かって上昇します。
- ② 平均を合わせるためにパルスを間引く(パルススキップ、周波数フォールドバック)。ton を50nsに固定したまま、2周期に1回だけスイッチングすれば、平均デューティは0.1 ÷ 2 = 0.05に戻り、出力は1.0Vに収まります。ただし実効的なスイッチング周波数は2MHzから1MHzへ半分に下がったことになります。負荷が重くなってさらに ton が必要になれば間引きの間隔は狭まり、逆に軽くなればさらに間引かれる、という形で実効周波数が負荷に応じて動きます。
- 低調波(サブハーモニック)リプル。間引きの周期(上の例では2周期に1回)そのものが、出力フィルタから見ると新しい低い周波数成分(fsw/2 = 1MHz)になります。出力フィルタのコーナー周波数は通常 fsw を基準に余裕をとって決めるため、fsw より低い成分は設計時の見込みより減衰されず、リプルが計算値より大きく出ます。
- EMI の帯域がずれる。EMI 対策は基本波 fsw とその高調波を前提にフィルタやシールドを設計します。パルススキップで実効周波数が負荷に応じて変動すると、スペクトルが1本の線ではなくfsw 以下に裾を引いた形になり、狙った帯域だけを抑えるフィルタでは足りなくなることがあります。可聴帯域(〜20kHz)付近まで実効周波数が落ち込むと、インダクタや出力コンデンサからのコイル鳴き(audible noise)が聞こえることもあります。
反対側の壁:最大デューティとドロップアウト
同じ制約は、デューティが1に近づく側にもあります。同期整流バックの多くは、ローサイド MOSFET のゲートを駆動するブートストラップコンデンサを周期的にローサイドをオンにして再充電する方式なので、ハイサイドを完全に100%オンにし続けることができません。ローサイドに最低限確保しなければならないオン時間(=最小オフ時間)があり、これが最大デューティ Dmax = 1 − toff(min) ÷ T を決めます(100%デューティに対応した専用回路を持つ品種は例外です)。
例えば fsw = 2MHz(周期500ns)、最小オフ時間を代表的な値として80ns とすると、Dmax = 1 − 80 ÷ 500 = 0.84。Vout = 3.3V を保つのに必要な Vin の下限は Vinmin = Vout ÷ Dmax = 3.3 ÷ 0.84 ≒ 3.93Vです。
これは 5V → 3.3V のような電源では普段は意識しません(D = 0.66、toff = 170ns で余裕があります)。問題になるのは、4.2Vで満充電のリチウムイオン電池から3.3Vを作るような、入力と出力の差が小さいアプリケーションです。電池の電圧は放電とともに下がっていくので、以下のように状況が変わります。
| Vin | 必要デューティ D | 必要 toff | 状態 |
|---|---|---|---|
| 5.0V(USB電源) | 0.660 | 170.0ns | OK |
| 4.2V(満充電) | 0.786 | 107.1ns | OK |
| 3.93V | 0.840 | 80.2ns | 壁ぎりぎり |
| 3.7V(電池の公称電圧) | 0.892 | 54.1ns | ドロップアウト、Vout ≒ 3.11V |
| 3.5V(放電末期) | 0.943 | 28.6ns | ドロップアウト、Vout ≒ 2.94V |
3.7Vまで電池が放電すると、必要な toff は54nsまで縮みますが、コントローラは80nsより短くできません。ここが最小オン時間側との決定的な違いです。最小オン時間側にはパルススキップという逃げ道がありましたが、最大デューティ側はすでにデューティが上限に張り付いているので、それ以上デューティを上げて追いつく手段がありません。結果は、Dmax = 0.84 に張り付いたまま Vout = Dmax·Vin と Vin に比例して下がっていく、文字どおりのドロップアウトです。3.7Vでは Vout ≒ 0.84 × 3.7 ≒ 3.11V(目標より約5.8%低い)、3.5Vでは Vout ≒ 2.94V(約10.9%低い)まで垂れ下がります。
禁止領域を Vin–fsw の平面で見る
ここまでの最小オン時間側の話を、Vout を固定してVin と fsw の平面に描くと、単段のバックコンバータで作れる領域と作れない領域が一目でわかります。ton = (Vout/Vin) ÷ fsw ≥ ton(min) を fsw について解くと、fsw ≤ Vout ÷ (Vin · ton(min))。この不等式を満たさない(Vin と fsw の組み合わせが右辺の曲線より上にある)領域が禁止領域です。
下の図は Vout = 1.0V を仮定し、最小オン時間50ns(濃い塗り)と、それより速い30ns品(点線、参考)の2本の境界を描いたものです。24V → 1.0V を 2MHz で作ろうとする点(×印)は、どちらの境界より内側(禁止領域側)にあります。最小オン時間が速い品種を選ぶだけでは、この組み合わせは解決しません。一方、12V → 1.0V を 2MHz で作る場合(○印)は、50ns品では禁止領域に入りますが、30ns品なら境界の外(動作可能)に出ます。禁止領域が「Vinがどこまでなら速い品種で救えるか」の目安になります。
判断:周波数を下げる/2段にする/最小オン時間の短い品種を選ぶ
最小オン時間の壁に当たったときの選択肢は、実質的にこの3つです。
| 対策 | 効果 | 代償 |
|---|---|---|
| 周波数を下げる | 500kHz〜1MHz程度まで下げれば ton は83〜167nsまで伸び、代表的な最小オン時間の範囲に収まる | インダクタ・出力コンデンサが大きくなる。過渡応答が遅くなる。EMIの主要な帯域が下がり、別の規格の周波数帯(放送帯など)と重なる可能性がある |
| 2段構成にする(例:24V→5V→1.0V) | 各段の Vin/Vout 比が緩む。2段目は Vin=5V なので、fsw=2MHz でも ton = (1.0/5)÷2MHz = 100nsと余裕が生まれ、1段目は速度を要求されないので低いfswで組める | 部品点数・コスト・実装面積が増える。段間の効率が掛け算になるため、全体効率はどちらか1段だけの効率より少し下がる。帰還ループが2つになり設計・評価の手間が増える |
| 最小オン時間の短い品種を選ぶ | 同じ fsw のまま、より低い Vout やより高い Vin まで単段でいける範囲が広がる(30ns品なら図4の境界が右上へ広がる) | 24V→1.0V@2MHz のような極端な比では、最速クラスの品種でも足りないことがある(30ns品でも境界は16.7Vまでしか広がらない)。速いスイッチングはゲート駆動損失・ノイズが増えやすく、選択肢も限られる |
実務では、この3つは排他ではなく組み合わせます。極端な降圧比(24V→1V級)は2段構成が現実的な解になることが多く、中程度の比(12V→1V級)は最小オン時間の短い品種と多少の周波数低下の組み合わせで単段のまま収まることが多い、というのが目安です。判断の起点は、常にこの記事の式—— ton = (Vout/Vin) ÷ fsw と、使おうとしている品種のデータシートに書かれた最小オン時間の数字——を並べて比べることです。
実機で引っかかるところ
- 効率カーブが、高Vin・軽負荷側でだけ悪化する。パルススキップに入ると、1パルスあたりのエネルギーが過剰になり、スイッチング損失に対して伝達効率が悪化します。効率カーブを Vin ごとに測ると、Vin が高いところだけ谷が深くなっているのはこのサインです。
- リプルが計算値よりずっと大きい、または波形が毎周期同じ形にならない。出力フィルタの設計はリプル周波数を fsw と仮定しています。パルススキップでリプルの周期がfswより低い周波数(サブハーモニック)に飛ぶと、計算どおりのリプルにならず、スコープで見ると波形が数周期ごとに違う形になります。
- EMI測定で、fswの整数倍以外の場所にピークが立つ。実効周波数が負荷やVinに応じて変動するパルススキップ動作のサインです。設計時に想定したfswの高調波列だけを抑えるフィルタでは対策になりません。
- 電池駆動の機器で、電池残量が減ると出力レールがじわじわ下がる。電圧監視の閾値に達する前に、最大デューティのドロップアウトで先に電圧が垂れ下がっている場合があります。電池電圧と出力レールを同時にログして、ドロップアウトの計算値(Dmax·Vin)と実測が一致するか確認します。
- スコープでスイッチノードの ton(または toff)を測ると、VinやVoutを振っても一定幅で止まって見える。最小オン時間(または最小オフ時間)に張り付いている直接の証拠です。データシートの Minimum On-Time / Minimum Off-Time の値と比べます。
- データシートで見る項目。「Minimum On-Time」「Minimum Off-Time」「Maximum Duty Cycle」「100% Duty Cycle Operation」の有無。可変周波数コントローラでは「PFM/Skip-Mode Frequency」も、パルススキップの実効周波数の目安になります。
よくある質問
必要なオン時間が最小オン時間を下回ると、コントローラは壊れますか。
最大デューティ側のドロップアウトは、どうやって見分けますか。
周波数を下げれば必ず解決しますか。
2段構成にする場合、1段目にも最小オン時間の制約はかかりますか。
参考にした規格・資料
- Robert W. Erickson, Dragan Maksimović, "Fundamentals of Power Electronics" — ボルト秒平衡によるバックコンバータのデューティ比の導出(損失を含めた平均化モデル)
- 各社 同期整流バックコンバータ IC データシート「Electrical Characteristics」 — Minimum On-Time、Minimum Off-Time、Maximum Duty Cycleの仕様欄。値は品種ごとに異なる
- TI, SLUA887 "Bootstrap Circuitry Selection for Half-Bridge Configurations" — ブートストラップコンデンサの再充電と、ローサイドの最小オン時間・最大デューティの関係