同期整流バックコンバータの損失は、どこで出ているか
効率 92% のバックコンバータで、残りの 6% がどこで熱になっているかを追うと、対策の優先順位が見えます。MOSFET の RDS(on) だけを下げても、損失の半分はスイッチングとインダクタが占めています。
計算の条件
入力 12V、出力 3.3V、出力電流 3A、スイッチング周波数 500kHz、インダクタ 4.7µH の同期整流バックコンバータを考えます。デューティ比 D = 3.3 ÷ 12 = 0.275。ハイサイド MOSFET の RDS(on) = 20mΩ、ローサイドは 10mΩ、それぞれのゲート電荷 Qg = 10nC、ゲート駆動電圧 5V、スイッチング遷移時間 20ns、デッドタイム 20ns × 2 回、ボディダイオードの順方向電圧 0.8V。インダクタの DCR = 20mΩ。
インダクタのリップル電流は ΔI = (Vin − Vout) × D ÷ (f × L) = 8.7 × 0.275 ÷ (500k × 4.7µ) ≒ 1.0A(ピーク・ツー・ピーク)で、出力電流の 34%。一般的な設計値です。
損失を一つずつ出す
ハイサイドの導通損失。オンしている時間の割合が D なので、I² × RDS(on) × D = 3² × 0.02 × 0.275 = 50mW。厳密にはリップルを含む実効値で計算しますが、リップル 34% なら 1% 程度の差です。
ローサイドの導通損失。(1 − D) の期間オン。3² × 0.01 × 0.725 = 65mW。デューティが小さい降圧では、ローサイドのほうが長くオンしているので、ローサイドの RDS(on) を小さくするほうが効きます。
ハイサイドのスイッチング損失。ターンオン・ターンオフの遷移中は電圧と電流が同時にかかります。近似で 0.5 × Vin × Iout × (tr + tf) × f = 0.5 × 12 × 3 × 40n × 500k = 360mW。この例では最大の損失です。ローサイドは、オフ時にボディダイオードが導通してから切り替わる(ゼロ電圧スイッチング)ので、スイッチング損失はほぼありません。
ゲート駆動損失。Qg × Vdrv × f を 2 石分。10n × 5 × 500k × 2 = 50mW。コントローラ IC の中で発生します。
デッドタイムの損失。両方の MOSFET がオフの間、電流はローサイドのボディダイオードを流れます。Vf × Iout × tdead × 2 × f = 0.8 × 3 × 20n × 2 × 500k = 48mW。ショットキーダイオードを並列にすると Vf が下がって減らせますが、最近のコントローラはデッドタイムを数 ns に詰めるので、あまり効かなくなっています。
インダクタの銅損。I² × DCR = 9 × 0.02 = 180mW。リップル分の交流抵抗(表皮効果)はこの周波数なら小さいです。
インダクタのコア損。リップル電流による磁束の変化で、コア材の損失が出ます。メーカのツールで計算するもので、この条件のフェライトなら 50〜100mW 程度。
出力コンデンサの ESR 損。リップル電流の実効値は ΔI ÷ √12 ≒ 0.29A。ESR 5mΩ のセラミックなら 0.4mW で無視できます。電解コンデンサ(ESR 50mΩ)なら 4mW。
コントローラの消費電流。数 mA × Vin で 20〜50mW。
| 項目 | 損失 | 割合 | 主に効くパラメータ |
|---|---|---|---|
| ハイサイド スイッチング | 360mW | 42% | tr + tf、f、Vin |
| インダクタ 銅損 | 180mW | 21% | DCR |
| インダクタ コア損 | 75mW | 9% | ΔI、f、コア材 |
| ローサイド 導通 | 65mW | 8% | RDS(on)、1 − D |
| ハイサイド 導通 | 50mW | 6% | RDS(on)、D |
| ゲート駆動 | 50mW | 6% | Qg、f |
| デッドタイム | 48mW | 6% | tdead、Vf |
| コントローラ・その他 | 30mW | 3% | — |
| 合計 | 約 860mW | 100% | 効率 ≒ 92% |
出力 9.9W に対して損失 0.86W、効率 92% です。この内訳で見ると、RDS(on) に関わる導通損失は合計 115mW で全体の 13% にすぎず、スイッチング損失とインダクタが 7 割を占めます。効率を上げるなら、MOSFET の遷移時間(ゲート抵抗、ドライバ能力、Qgd)と、インダクタの DCR を先に見ます。
周波数を上げると何が起きるか
周波数を 500kHz から 2MHz に上げると、インダクタは 1/4 の 1.2µH で同じリップルになり、小型になります。出力コンデンサも減らせます。かわりに、周波数に比例する損失が 4 倍になります。上の例では、スイッチング損失 360mW → 1.44W、ゲート駆動 50mW → 200mW、デッドタイム 48mW → 192mW、コア損もリップルが同じなら周波数の 1.3〜1.5 乗で増えます。
合計は 860mW から 2.4W 程度になり、効率は 80% を割ります。それでも 2MHz を選ぶのは、小型化が最優先の場合と、Vin が低くてスイッチング損失(Vin に比例)が小さい場合です。5V 入力なら同じ計算で スイッチング損失が 12V の半分以下になります。
逆に言うと、高い入力電圧でのスイッチングは損失が大きいので、48V から 3.3V を作るときは、48V→12V と 12V→3.3V の 2 段にしたほうが効率が良いことがあります。
軽負荷で効率が落ちる理由
出力電流が 3A から 0.3A に減ると、導通損失と銅損は電流の 2 乗で 1/100 になりますが、ゲート駆動損失、コントローラの消費電流、デッドタイム損失の一部、コア損は電流に関係なく残ります。上の例なら固定分が 150mW 程度で、出力 1W に対して効率は 85% 以下に落ちます。
さらに、同期整流ではインダクタ電流がゼロを下回るとローサイドを通って出力から電流が戻り、無駄に循環します。多くのコントローラは軽負荷でこれを検出してローサイドをオフにする(ダイオードエミュレーション)か、スイッチングを間引く PFM モードに移行します。PFM では固定損失が周波数に比例して減るので、数十 mA の負荷でも効率を保てます。
電池駆動の機器で「待機時の消費電流が計算より多い」場合、コンバータが軽負荷モードに入っていないことが多いです。データシートで、モードの切り替わる電流と、切り替わったときの出力リップルの増加を確認してください。
レイアウトで決まる損失
計算に出てこない損失があります。入力コンデンサ、ハイサイド、ローサイドの 3 点で作るループ(ホットループ)に流れる電流は、スイッチングごとに 0 から 3A に立ち上がります。このループの寄生インダクタンスが大きいと、スイッチノードにスパイクが立ち、それを吸収するスナバやゲート抵抗の追加で損失が増えます。
ホットループは面積を最小にします。入力コンデンサを MOSFET の直近に置き、ループが 1 つの層で閉じるようにします。スイッチノードのパターンは、インダクタまで最短で、面積を広げないこと。広げると放射ノイズと、隣接パターンへの容量結合が増えます。
同期整流バックコンバータの計算機は、この記事の損失計算を入力値から自動で出します。MOSFET や周波数を変えたときの損失の動きを見るのに使ってください。
よくある質問
MOSFET は RDS(on) が小さいものを選べばよいですか。
効率を実測したら計算より悪いです。
インダクタのリップル電流はどのくらいにすべきですか。
非同期(ダイオード整流)のバックコンバータと比べてどのくらい違いますか。
参考にした規格・資料
- TI SLVA477, Basic Calculation of a Buck Converter's Power Stage — デューティ比・リップル電流・部品定数の基本計算
- 各 MOSFET メーカのアプリケーションノート(スイッチング損失の計算) — Qgd、遷移時間、ドライバ電流からの損失見積もり
- 各インダクタメーカの損失計算ツール — DCR・交流抵抗・コア損の計算