同期整流バックコンバータの損失は、どこで出ているか

効率 92% のバックコンバータで、残りの 8% がどこで熱になっているかを追うと、対策の優先順位が見えます。MOSFET の RDS(on) だけを下げても、損失の 7 割はスイッチングとインダクタが占めています。

最終更新: 2026-10-28 スイッチング電源バックコンバータ損失効率

計算の条件

入力 12V、出力 3.3V、出力電流 3A、スイッチング周波数 500kHz、インダクタ 4.7µH の同期整流バックコンバータを考えます。デューティ比 D = 3.3 ÷ 12 = 0.275。ハイサイド MOSFET の RDS(on) = 20mΩ、ローサイドは 10mΩ、それぞれのゲート電荷 Qg = 10nC、ゲート駆動電圧 5V、スイッチング遷移時間 20ns、デッドタイム 20ns × 2 回、ボディダイオードの順方向電圧 0.8V、インダクタの DCR = 20mΩ。

リップル電流は ΔI = (Vin − Vout) × D ÷ (f × L) = 8.7 × 0.275 ÷ (500k × 4.7µ) ≒ 1.0A(ピーク・ツー・ピーク)で、出力電流の 34% です。

降圧回路の複数の部品から生じる損失
降圧回路の複数の部品から生じる損失。概念を表すAI生成イラストです。実際の回路・条件は本文の図と説明を参照してください。

損失を一つずつ出す

導通損失は、ハイサイドが I² × RDS(on) × D = 3² × 0.02 × 0.275 = 50mW、ローサイドが 3² × 0.01 × 0.725 = 65mW です。降圧はローサイドのオン時間が長いので、その RDS(on) を下げるほうが効きます。スイッチング損失は、遷移中に電圧と電流が同時にかかるため、近似で 0.5 × Vin × Iout × (tr + tf) × f = 0.5 × 12 × 3 × 40n × 500k = 360mW で、この例では最大です。ローサイドはゼロ電圧スイッチングで、ほぼありません。

ゲート駆動損失は Qg × Vdrv × f を 2 石分で 10n × 5 × 500k × 2 = 50mW、デッドタイムの損失は、両方がオフの間にボディダイオードを流れる分で 0.8 × 3 × 20n × 2 × 500k = 48mW、インダクタの銅損は I² × DCR = 9 × 0.02 = 180mW です。コア損はメーカのツールで計算し、この条件のフェライトなら 50〜100mW 程度。出力コンデンサの ESR 損は 0.4〜4mW、コントローラの消費電流は 20〜50mW です。

損失の内訳(12V→3.3V、3A、500kHz)
項目損失割合主に効くパラメータ
ハイサイド スイッチング360mW42%tr + tf、f、Vin
インダクタ 銅損180mW21%DCR
インダクタ コア損75mW9%ΔI、f、コア材
ローサイド 導通65mW8%RDS(on)、1 − D
ハイサイド 導通50mW6%RDS(on)、D
ゲート駆動50mW6%Qg、f
デッドタイム48mW6%tdead、Vf
コントローラ・その他30mW3%—
合計約 860mW100%効率 ≒ 92%

出力 9.9W に対して損失 0.86W で、効率は 92% です。導通損失は合計 115mW で全体の 13% にすぎず、スイッチング損失とインダクタが 7 割を占めます。効率を上げるなら、MOSFET の遷移時間とインダクタの DCR を先に見ます。

同期整流バックコンバータの損失内訳損失項目ごとの横棒グラフ。ハイサイドのスイッチング 360mW、インダクタ銅損 180mW、コア損 75mW、ローサイド導通 65mW、ハイサイド導通 50mW、ゲート駆動 50mW、デッドタイム 48mW、コントローラ 30mW。 損失の 4 割はスイッチング、2 割はインダクタの銅損 12V → 3.3V、3A、500kHz、L = 4.7µH の計算例 ハイサイド スイッチング 360mW インダクタ 銅損(DCR) 180mW インダクタ コア損 75mW ローサイド 導通 65mW ハイサイド 導通 50mW ゲート駆動 50mW デッドタイム 48mW コントローラほか 30mW 0mW 100mW 200mW 300mW 400mW 周波数に比例(f を上げると増える) インダクタ(DCR とコア材で決まる) 電流の 2 乗に比例(軽負荷で消える) 合計 約 860mW、出力 9.9W → 効率 92% RDS(on) を下げても効くのは 115mW ぶん。先に見るべきは遷移時間と DCR。
図1:損失内訳。ハイサイドのスイッチング損失が最大で、導通損失は 2 つ合わせても 13%。

周波数を上げると何が起きるか

周波数を500kHzから2MHzに上げると、同じリップル電流に必要なインダクタンスは約1/4の1.2µHになります。遷移時間・ゲート電荷・デッドタイムを固定する近似では、スイッチング損失は360mWから1.44W、ゲート駆動は50mWから200mW、デッドタイムは48mWから192mWへ増えます。ほかの損失を元の値に固定すると、合計は約0.86 + 3 × (0.36 + 0.05 + 0.048) = 2.23W、効率は9.9 ÷ (9.9 + 2.23) ≈ 81.6%です。実際にはインダクタを変更するとDCRやコア損も変わるので、部品を選び直して再計算します。

2MHz を選ぶのは、小型化が最優先の場合と、Vin が低く、Vin に比例するスイッチング損失が小さい場合です(5V 入力なら 12V の半分以下)。高い入力電圧でのスイッチングは損失が大きいので、48V から 3.3V を作るときは、48V→12V と 12V→3.3V の 2 段のほうが効率が良いことがあります。

周波数を上げたときの損失500kHzと2MHzを比べた横棒グラフ。ハイサイドのスイッチング損失は360ミリワットから1.44ワット、ゲート駆動は50から200ミリワット、デッドタイムは48から192ミリワットと、周波数に比例して4倍になる。インダクタは4.7マイクロヘンリーから1.2マイクロヘンリーに小さくできる。 周波数を上げると 4 倍になる損失(500kHz → 2MHz) 500kHz(L = 4.7µH) 2MHz(L = 1.2µH) ハイサイド スイッチング 360mW 1.44W ゲート駆動 50mW 200mW デッドタイム 48mW 192mW 他の損失を固定した比較:合計約2.23W、効率約81.6%
図2:周波数に比例する損失(500kHz と 2MHz)。

軽負荷で効率が落ちる理由

出力電流が 3A から 0.3A に減ると、導通損失と銅損は電流の 2 乗で 1/100 になりますが、ゲート駆動損失、コントローラの消費電流、デッドタイム損失の一部、コア損は電流に関係なく残ります。上の例なら固定分が 150mW 程度で、出力 1W に対して効率は 85% 以下です。

同期整流では、インダクタ電流がゼロを下回るとローサイドを通って出力から電流が戻ります。多くのコントローラは軽負荷でこれを検出してローサイドをオフにする(ダイオードエミュレーション)か、PFM モードに移行し、固定損失を周波数に比例して減らします。

軽負荷での損失の残り方負荷電流3アンペアと0.3アンペアの損失を比べた積み上げ棒グラフ。導通損失と銅損は電流の2乗で100分の1になって見えなくなるが、ゲート駆動、コントローラの消費電流、デッドタイム損失の一部、コア損からなる固定分は約150ミリワットのまま残り、出力1ワットに対して効率は85パーセント以下になる。 負荷電流が 3A から 0.3A に減ったときの損失 3A 0.3A 導通損失と銅損 電流の 2 乗で 1/100 固定分 約 150mW 固定分 約 150mW 固定分は電流に関係なく残る ゲート駆動、コントローラの消費電流、 デッドタイム損失の一部、コア損 出力 1W に対して効率は 85% 以下
図3:負荷電流 3A と 0.3A の損失。固定分は電流が減っても残る。

レイアウトで決まる損失

計算に出てこない損失があります。入力コンデンサ、ハイサイド、ローサイドで作るループ(ホットループ)には、スイッチングごとに電流が 0 から 3A に立ち上がります。寄生インダクタンスが大きいとスイッチノードにスパイクが立ち、それを吸収するスナバやゲート抵抗の追加で損失が増えます。

ホットループは面積を最小にします。入力コンデンサを MOSFET の直近に置き、ループが 1 つの層で閉じるようにし、スイッチノードのパターンも最短にして面積を広げません。

同期整流バックコンバータの計算機で、この記事の損失計算ができます。

よくある質問

MOSFET は RDS(on) が小さいものを選べばよいですか。
RDS(on) を小さくすると Qg と出力容量が増え、スイッチング損失とゲート駆動損失が増えます。ハイサイドは Qg(特に Qgd)が小さいもの、ローサイドは RDS(on) が小さいものを選ぶのが定石です。
効率を実測したら計算より悪いです。
まず入出力の電圧を端子で測っているか確認します。それでも差があるなら、ホットループのスパイクによるスナバ損失、インダクタの飽和、コア損の見積もり不足が候補です。
インダクタのリップル電流はどのくらいにすべきですか。
出力電流の 20〜40% が一般的です。小さいとインダクタが大きく、大きいとコア損と出力リップルが増えます。飽和電流は Iout + ΔI/2 に余裕を持たせます。
非同期(ダイオード整流)のバックコンバータと比べてどのくらい違いますか。
ローサイドがショットキーダイオード(Vf 0.4V)だと、損失は 0.4 × 3 × 0.725 = 870mW で、上の例のローサイド導通損失 65mW の 13 倍です。

参考にした規格・資料

  • TI SLVA477, Basic Calculation of a Buck Converter's Power Stage — デューティ比・リップル電流・部品定数の基本計算
  • 各 MOSFET メーカのアプリケーションノート(スイッチング損失の計算) — Qgd、遷移時間、ドライバ電流からの損失見積もり
  • 各インダクタメーカの損失計算ツール — DCR・交流抵抗・コア損の計算

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