同期整流バックコンバータの損失は、どこで出ているか

効率 92% のバックコンバータで、残りの 6% がどこで熱になっているかを追うと、対策の優先順位が見えます。MOSFET の RDS(on) だけを下げても、損失の半分はスイッチングとインダクタが占めています。

最終更新: 2026-09-14 スイッチング電源バックコンバータ損失効率

計算の条件

入力 12V、出力 3.3V、出力電流 3A、スイッチング周波数 500kHz、インダクタ 4.7µH の同期整流バックコンバータを考えます。デューティ比 D = 3.3 ÷ 12 = 0.275。ハイサイド MOSFET の RDS(on) = 20mΩ、ローサイドは 10mΩ、それぞれのゲート電荷 Qg = 10nC、ゲート駆動電圧 5V、スイッチング遷移時間 20ns、デッドタイム 20ns × 2 回、ボディダイオードの順方向電圧 0.8V。インダクタの DCR = 20mΩ。

インダクタのリップル電流は ΔI = (Vin − Vout) × D ÷ (f × L) = 8.7 × 0.275 ÷ (500k × 4.7µ) ≒ 1.0A(ピーク・ツー・ピーク)で、出力電流の 34%。一般的な設計値です。

損失を一つずつ出す

ハイサイドの導通損失。オンしている時間の割合が D なので、I² × RDS(on) × D = 3² × 0.02 × 0.275 = 50mW。厳密にはリップルを含む実効値で計算しますが、リップル 34% なら 1% 程度の差です。

ローサイドの導通損失。(1 − D) の期間オン。3² × 0.01 × 0.725 = 65mW。デューティが小さい降圧では、ローサイドのほうが長くオンしているので、ローサイドの RDS(on) を小さくするほうが効きます。

ハイサイドのスイッチング損失。ターンオン・ターンオフの遷移中は電圧と電流が同時にかかります。近似で 0.5 × Vin × Iout × (tr + tf) × f = 0.5 × 12 × 3 × 40n × 500k = 360mW。この例では最大の損失です。ローサイドは、オフ時にボディダイオードが導通してから切り替わる(ゼロ電圧スイッチング)ので、スイッチング損失はほぼありません。

ゲート駆動損失。Qg × Vdrv × f を 2 石分。10n × 5 × 500k × 2 = 50mW。コントローラ IC の中で発生します。

デッドタイムの損失。両方の MOSFET がオフの間、電流はローサイドのボディダイオードを流れます。Vf × Iout × tdead × 2 × f = 0.8 × 3 × 20n × 2 × 500k = 48mW。ショットキーダイオードを並列にすると Vf が下がって減らせますが、最近のコントローラはデッドタイムを数 ns に詰めるので、あまり効かなくなっています。

インダクタの銅損。I² × DCR = 9 × 0.02 = 180mW。リップル分の交流抵抗(表皮効果)はこの周波数なら小さいです。

インダクタのコア損。リップル電流による磁束の変化で、コア材の損失が出ます。メーカのツールで計算するもので、この条件のフェライトなら 50〜100mW 程度。

出力コンデンサの ESR 損。リップル電流の実効値は ΔI ÷ √12 ≒ 0.29A。ESR 5mΩ のセラミックなら 0.4mW で無視できます。電解コンデンサ(ESR 50mΩ)なら 4mW。

コントローラの消費電流。数 mA × Vin で 20〜50mW。

損失の内訳(12V→3.3V、3A、500kHz)
項目損失割合主に効くパラメータ
ハイサイド スイッチング360mW42%tr + tf、f、Vin
インダクタ 銅損180mW21%DCR
インダクタ コア損75mW9%ΔI、f、コア材
ローサイド 導通65mW8%RDS(on)、1 − D
ハイサイド 導通50mW6%RDS(on)、D
ゲート駆動50mW6%Qg、f
デッドタイム48mW6%tdead、Vf
コントローラ・その他30mW3%
合計約 860mW100%効率 ≒ 92%

出力 9.9W に対して損失 0.86W、効率 92% です。この内訳で見ると、RDS(on) に関わる導通損失は合計 115mW で全体の 13% にすぎず、スイッチング損失とインダクタが 7 割を占めます。効率を上げるなら、MOSFET の遷移時間(ゲート抵抗、ドライバ能力、Qgd)と、インダクタの DCR を先に見ます。

同期整流バックコンバータの損失内訳損失項目ごとの横棒グラフ。ハイサイドのスイッチング 360mW、インダクタ銅損 180mW、コア損 75mW、ローサイド導通 65mW、ハイサイド導通 50mW、ゲート駆動 50mW、デッドタイム 48mW、コントローラ 30mW。 損失の 4 割はスイッチング、2 割はインダクタの銅損 12V → 3.3V、3A、500kHz、L = 4.7µH の計算例 ハイサイド スイッチング 360mW インダクタ 銅損(DCR) 180mW インダクタ コア損 75mW ローサイド 導通 65mW ハイサイド 導通 50mW ゲート駆動 50mW デッドタイム 48mW コントローラほか 30mW 0mW 100mW 200mW 300mW 400mW 周波数に比例(f を上げると増える) インダクタ(DCR とコア材で決まる) 電流の 2 乗に比例(軽負荷で消える) 合計 約 860mW、出力 9.9W → 効率 92% RDS(on) を下げても効くのは 115mW ぶん。先に見るべきは遷移時間と DCR。
図1:12V→3.3V・3A・500kHz の損失内訳。ハイサイドのスイッチング損失が最大で、次がインダクタの銅損。RDS(on) による導通損失は 2 つ合わせても 13%。

周波数を上げると何が起きるか

周波数を 500kHz から 2MHz に上げると、インダクタは 1/4 の 1.2µH で同じリップルになり、小型になります。出力コンデンサも減らせます。かわりに、周波数に比例する損失が 4 倍になります。上の例では、スイッチング損失 360mW → 1.44W、ゲート駆動 50mW → 200mW、デッドタイム 48mW → 192mW、コア損もリップルが同じなら周波数の 1.3〜1.5 乗で増えます。

合計は 860mW から 2.4W 程度になり、効率は 80% を割ります。それでも 2MHz を選ぶのは、小型化が最優先の場合と、Vin が低くてスイッチング損失(Vin に比例)が小さい場合です。5V 入力なら同じ計算で スイッチング損失が 12V の半分以下になります。

逆に言うと、高い入力電圧でのスイッチングは損失が大きいので、48V から 3.3V を作るときは、48V→12V と 12V→3.3V の 2 段にしたほうが効率が良いことがあります。

軽負荷で効率が落ちる理由

出力電流が 3A から 0.3A に減ると、導通損失と銅損は電流の 2 乗で 1/100 になりますが、ゲート駆動損失、コントローラの消費電流、デッドタイム損失の一部、コア損は電流に関係なく残ります。上の例なら固定分が 150mW 程度で、出力 1W に対して効率は 85% 以下に落ちます。

さらに、同期整流ではインダクタ電流がゼロを下回るとローサイドを通って出力から電流が戻り、無駄に循環します。多くのコントローラは軽負荷でこれを検出してローサイドをオフにする(ダイオードエミュレーション)か、スイッチングを間引く PFM モードに移行します。PFM では固定損失が周波数に比例して減るので、数十 mA の負荷でも効率を保てます。

電池駆動の機器で「待機時の消費電流が計算より多い」場合、コンバータが軽負荷モードに入っていないことが多いです。データシートで、モードの切り替わる電流と、切り替わったときの出力リップルの増加を確認してください。

レイアウトで決まる損失

計算に出てこない損失があります。入力コンデンサ、ハイサイド、ローサイドの 3 点で作るループ(ホットループ)に流れる電流は、スイッチングごとに 0 から 3A に立ち上がります。このループの寄生インダクタンスが大きいと、スイッチノードにスパイクが立ち、それを吸収するスナバやゲート抵抗の追加で損失が増えます。

ホットループは面積を最小にします。入力コンデンサを MOSFET の直近に置き、ループが 1 つの層で閉じるようにします。スイッチノードのパターンは、インダクタまで最短で、面積を広げないこと。広げると放射ノイズと、隣接パターンへの容量結合が増えます。

同期整流バックコンバータの計算機は、この記事の損失計算を入力値から自動で出します。MOSFET や周波数を変えたときの損失の動きを見るのに使ってください。

よくある質問

MOSFET は RDS(on) が小さいものを選べばよいですか。
RDS(on) を小さくすると一般にゲート電荷 Qg と出力容量が増え、スイッチング損失とゲート駆動損失が増えます。ハイサイドは Qg(特に Qgd)が小さいものを、ローサイドは RDS(on) が小さいものを選ぶのが定石です。導通損失とスイッチング損失が同程度になる品種が最適点に近いです。
効率を実測したら計算より悪いです。
測定の誤差をまず疑ってください。入力・出力の電圧をコンバータの端子で(ケーブルの降下を含めずに)測っているか、電流計の内部抵抗が出力電圧に影響していないか。それでも差があるなら、ホットループのスパイクによるスナバ損失、インダクタの飽和(電流が計算より増える)、コア損の見積もり不足が候補です。
インダクタのリップル電流はどのくらいにすべきですか。
出力電流の 20〜40% が一般的です。小さくするとインダクタが大きく(DCR が増え)、大きくするとコア損と出力リップルが増え、ピーク電流で飽和しやすくなります。飽和電流は Iout + ΔI/2 に余裕を持たせて選びます。
非同期(ダイオード整流)のバックコンバータと比べてどのくらい違いますか。
ローサイドがショットキーダイオード(Vf 0.4V)になると、その損失は Vf × Iout × (1 − D) = 0.4 × 3 × 0.725 = 870mW で、上の例のローサイド導通損失 65mW の 13 倍です。出力電流が大きく、出力電圧が低い(1 − D が大きい)ほど同期整流の利点が大きくなります。

参考にした規格・資料

  • TI SLVA477, Basic Calculation of a Buck Converter's Power Stage — デューティ比・リップル電流・部品定数の基本計算
  • 各 MOSFET メーカのアプリケーションノート(スイッチング損失の計算) — Qgd、遷移時間、ドライバ電流からの損失見積もり
  • 各インダクタメーカの損失計算ツール — DCR・交流抵抗・コア損の計算

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