同期整流バックコンバータの損失は、どこで出ているか
効率 92% のバックコンバータで、残りの 8% がどこで熱になっているかを追うと、対策の優先順位が見えます。MOSFET の RDS(on) だけを下げても、損失の 7 割はスイッチングとインダクタが占めています。
計算の条件
入力 12V、出力 3.3V、出力電流 3A、スイッチング周波数 500kHz、インダクタ 4.7µH の同期整流バックコンバータを考えます。デューティ比 D = 3.3 ÷ 12 = 0.275。ハイサイド MOSFET の RDS(on) = 20mΩ、ローサイドは 10mΩ、それぞれのゲート電荷 Qg = 10nC、ゲート駆動電圧 5V、スイッチング遷移時間 20ns、デッドタイム 20ns × 2 回、ボディダイオードの順方向電圧 0.8V、インダクタの DCR = 20mΩ。
リップル電流は ΔI = (Vin − Vout) × D ÷ (f × L) = 8.7 × 0.275 ÷ (500k × 4.7µ) ≒ 1.0A(ピーク・ツー・ピーク)で、出力電流の 34% です。
損失を一つずつ出す
導通損失は、ハイサイドが I² × RDS(on) × D = 3² × 0.02 × 0.275 = 50mW、ローサイドが 3² × 0.01 × 0.725 = 65mW です。降圧はローサイドのオン時間が長いので、その RDS(on) を下げるほうが効きます。スイッチング損失は、遷移中に電圧と電流が同時にかかるため、近似で 0.5 × Vin × Iout × (tr + tf) × f = 0.5 × 12 × 3 × 40n × 500k = 360mW で、この例では最大です。ローサイドはゼロ電圧スイッチングで、ほぼありません。
ゲート駆動損失は Qg × Vdrv × f を 2 石分で 10n × 5 × 500k × 2 = 50mW、デッドタイムの損失は、両方がオフの間にボディダイオードを流れる分で 0.8 × 3 × 20n × 2 × 500k = 48mW、インダクタの銅損は I² × DCR = 9 × 0.02 = 180mW です。コア損はメーカのツールで計算し、この条件のフェライトなら 50〜100mW 程度。出力コンデンサの ESR 損は 0.4〜4mW、コントローラの消費電流は 20〜50mW です。
| 項目 | 損失 | 割合 | 主に効くパラメータ |
|---|---|---|---|
| ハイサイド スイッチング | 360mW | 42% | tr + tf、f、Vin |
| インダクタ 銅損 | 180mW | 21% | DCR |
| インダクタ コア損 | 75mW | 9% | ΔI、f、コア材 |
| ローサイド 導通 | 65mW | 8% | RDS(on)、1 − D |
| ハイサイド 導通 | 50mW | 6% | RDS(on)、D |
| ゲート駆動 | 50mW | 6% | Qg、f |
| デッドタイム | 48mW | 6% | tdead、Vf |
| コントローラ・その他 | 30mW | 3% | — |
| 合計 | 約 860mW | 100% | 効率 ≒ 92% |
出力 9.9W に対して損失 0.86W で、効率は 92% です。導通損失は合計 115mW で全体の 13% にすぎず、スイッチング損失とインダクタが 7 割を占めます。効率を上げるなら、MOSFET の遷移時間とインダクタの DCR を先に見ます。
周波数を上げると何が起きるか
周波数を500kHzから2MHzに上げると、同じリップル電流に必要なインダクタンスは約1/4の1.2µHになります。遷移時間・ゲート電荷・デッドタイムを固定する近似では、スイッチング損失は360mWから1.44W、ゲート駆動は50mWから200mW、デッドタイムは48mWから192mWへ増えます。ほかの損失を元の値に固定すると、合計は約0.86 + 3 × (0.36 + 0.05 + 0.048) = 2.23W、効率は9.9 ÷ (9.9 + 2.23) ≈ 81.6%です。実際にはインダクタを変更するとDCRやコア損も変わるので、部品を選び直して再計算します。
2MHz を選ぶのは、小型化が最優先の場合と、Vin が低く、Vin に比例するスイッチング損失が小さい場合です(5V 入力なら 12V の半分以下)。高い入力電圧でのスイッチングは損失が大きいので、48V から 3.3V を作るときは、48V→12V と 12V→3.3V の 2 段のほうが効率が良いことがあります。
軽負荷で効率が落ちる理由
出力電流が 3A から 0.3A に減ると、導通損失と銅損は電流の 2 乗で 1/100 になりますが、ゲート駆動損失、コントローラの消費電流、デッドタイム損失の一部、コア損は電流に関係なく残ります。上の例なら固定分が 150mW 程度で、出力 1W に対して効率は 85% 以下です。
同期整流では、インダクタ電流がゼロを下回るとローサイドを通って出力から電流が戻ります。多くのコントローラは軽負荷でこれを検出してローサイドをオフにする(ダイオードエミュレーション)か、PFM モードに移行し、固定損失を周波数に比例して減らします。
レイアウトで決まる損失
計算に出てこない損失があります。入力コンデンサ、ハイサイド、ローサイドで作るループ(ホットループ)には、スイッチングごとに電流が 0 から 3A に立ち上がります。寄生インダクタンスが大きいとスイッチノードにスパイクが立ち、それを吸収するスナバやゲート抵抗の追加で損失が増えます。
ホットループは面積を最小にします。入力コンデンサを MOSFET の直近に置き、ループが 1 つの層で閉じるようにし、スイッチノードのパターンも最短にして面積を広げません。
同期整流バックコンバータの計算機で、この記事の損失計算ができます。
よくある質問
MOSFET は RDS(on) が小さいものを選べばよいですか。
効率を実測したら計算より悪いです。
インダクタのリップル電流はどのくらいにすべきですか。
非同期(ダイオード整流)のバックコンバータと比べてどのくらい違いますか。
参考にした規格・資料
- TI SLVA477, Basic Calculation of a Buck Converter's Power Stage — デューティ比・リップル電流・部品定数の基本計算
- 各 MOSFET メーカのアプリケーションノート(スイッチング損失の計算) — Qgd、遷移時間、ドライバ電流からの損失見積もり
- 各インダクタメーカの損失計算ツール — DCR・交流抵抗・コア損の計算