反転増幅回路の入力インピーダンスと、ゲイン誤差の出どころ
反転増幅回路は仮想接地のおかげで計算が簡単ですが、その仮想接地が「入力インピーダンス = Rin」を意味することを忘れると、センサをつないだ瞬間にゲインが半分になります。
入力インピーダンスは Rin。それ以上でも以下でもない
反転増幅回路では、オペアンプの負帰還によって反転入力端子が GND と同じ電位(仮想接地)に保たれます。信号源から見ると、Rin の先が GND につながっているのと同じで、入力インピーダンスは Rin そのものです。オペアンプの入力インピーダンスがいくら高くても関係ありません。
出力抵抗 Rs を持つ信号源をつなぐと、Rs が Rin に直列に加わり、ゲインは −Rf ÷ (Rin + Rs) に下がります。Rs = 10kΩ のセンサに Rin = 10kΩ の回路をつなぐと、ゲインは設計値の半分です。誤差を 1% 以内にするには Rin ≧ 100 × Rs が必要で、Rs = 10kΩ なら Rin = 1MΩ。それだけ Rin を大きくすると、後述のノイズと浮遊容量の問題が出ます。
信号源のインピーダンスが高い(数 kΩ 以上)なら、反転ではなく非反転増幅回路を使います。非反転の入力インピーダンスはオペアンプの入力インピーダンス(CMOS で 10¹² Ω 以上)で、信号源の負担になりません。反転を選ぶのは、信号源が低インピーダンス(オペアンプの出力や DAC など)のとき、複数の入力を加算したいとき、入力の同相電圧範囲の制約を避けたいときです。
有限の開ループゲインによる誤差
理想のオペアンプは開ループゲイン A が無限大ですが、実物は直流で 10⁵〜10⁷、周波数とともに −20dB/decade で落ちます。ゲインが有限だと、閉ループゲインは設計値の 1 ÷ (1 + 1 ÷ (A·β)) 倍になります。β は帰還率で、反転増幅では β = Rin ÷ (Rin + Rf)、1 ÷ β はノイズゲイン = 1 + Rf ÷ Rin です。
ゲイン −10(Rf = 100kΩ、Rin = 10kΩ)なら、ノイズゲインは 11。GBW = 1MHz のオペアンプは 10kHz で A = 100 なので、ループゲイン A·β = 100 ÷ 11 ≒ 9。誤差は 1 ÷ (1 + 9) = 10% です。1kHz なら A = 1000、誤差 1.1%。100Hz で 0.1%。
つまり、GBW = 1MHz のオペアンプでゲイン 10 の回路を作ると、1kHz で既に 1% の誤差があります。「帯域は GBW ÷ ノイズゲイン = 91kHz」という −3dB 帯域の計算は、そこで 30% 落ちているという意味で、精度が要る帯域はその 1/100 以下です。
精度を保ちたい周波数で誤差 0.1% 以内にするには、その周波数で A·β ≧ 1000、つまり A ≧ 1000 × ノイズゲインが必要です。ゲイン 10 で 10kHz なら A ≧ 11,000、GBW ≧ 110MHz。汎用オペアンプでは無理で、高速オペアンプの領域です。
| 周波数 | 開ループゲイン A | ループゲイン A·β | ゲイン誤差 |
|---|---|---|---|
| 100Hz | 10,000 | 909 | −0.11% |
| 1kHz | 1,000 | 91 | −1.1% |
| 10kHz | 100 | 9.1 | −9.9% |
| 91kHz | 11 | 1 | −29%(−3dB) |
抵抗の許容差、オフセット、バイアス電流
抵抗の許容差。ゲインは Rf ÷ Rin なので、±1% の抵抗 2 本で最悪 ±2%。0.1% にすれば ±0.2%。分圧と同じです。温度係数も比で効くので、同じシリーズの抵抗を使います。
入力オフセット電圧。Vos はノイズゲイン倍されて出力に出ます。Vos = 1mV、ノイズゲイン 11 で出力 11mV。ゲイン 10 で入力換算 1.1mV。入力信号が 10mV なら 11% の誤差です。精度が要るなら Vos の小さいオペアンプ(100µV 以下、チョッパ型なら 5µV 以下)を選びます。
入力バイアス電流。反転入力に流れる Ib は Rf ∥ Rin を流れ、その電圧降下がオフセットになります。バイポーラ入力のオペアンプ(Ib = 100nA)と Rf = 100kΩ なら 100nA × 9.1kΩ ≒ 0.9mV。非反転入力に Rf ∥ Rin と同じ抵抗を入れて GND に落とすと、両入力で同じ電圧降下が起きて相殺されます(オフセット電流ぶんは残る)。CMOS や JFET 入力(Ib = 数 pA)ではこの抵抗は不要で、入れるとかえって熱雑音が増えます。
帰還抵抗の浮遊容量と、帯域の上限
Rf に並列に、パッドや配線の浮遊容量 Cf が 0.2〜1pF 入ります。これが Rf と作る極 f = 1 ÷ (2π·Rf·Cf) より上でゲインが落ちます。Rf = 100kΩ、Cf = 0.5pF で 3.2MHz。Rf = 1MΩ なら 320kHz で、オペアンプの帯域より先に浮遊容量で帯域が決まります。
逆に、反転入力端子の対 GND 容量(オペアンプの入力容量 + 配線で 5〜10pF)は、Rin ∥ Rf と極を作り、帰還のループに位相遅れを入れて発振の原因になります。フォトダイオードのように大きな容量(数十〜数百 pF)を持つ信号源では顕著で、Rf に意図的に数 pF の Cf を入れて補償します。
これらの理由から、Rf は 1kΩ〜100kΩ の範囲に収めるのが実務的です。1kΩ 以下だとオペアンプの出力が Rf + Rin を駆動する負担が大きく、100kΩ 以上だと浮遊容量とノイズ(100kΩ で 40nV/√Hz)が効いてきます。
計算機での確認
反転増幅回路の計算機は Rf と Rin からゲインを出します。設計の手順としては、まず信号源のインピーダンスから Rin の下限(Rs の 100 倍)を決め、Rf の上限(100kΩ 程度)との間でゲインが取れるかを見ます。取れなければ非反転にするか、2 段に分けます。
次に、精度が要る周波数でのループゲインを GBW から計算し、誤差が許容内かを確認します。最後にオフセットとバイアス電流を入力換算して、信号の最小値と比べます。
よくある質問
反転増幅回路の入力インピーダンスを上げるにはどうすればよいですか。
非反転入力に入れる抵抗(Rf ∥ Rin)は必ず必要ですか。
ゲイン 100 を 1 段で取ってよいですか。
単電源で反転増幅回路を使えますか。
参考にした規格・資料
- Horowitz & Hill, The Art of Electronics — オペアンプ回路の誤差要因
- Analog Devices, Op Amp Applications Handbook — ループゲインと閉ループ誤差、バイアス電流の補償
- 各オペアンプメーカのデータシート — GBW、Vos、Ib、入力容量