パッシブフィルタとアクティブフィルタ:どちらで作るか、用途別の落とし穴
「アクティブのほうが高性能」ではありません。電源ラインや RF ではアクティブは使えず、ADC の前段ではパッシブだけでは足りないので、信号の周波数・電力・インピーダンスで方式が決まります。
何が違うのか
パッシブフィルタは抵抗・コンデンサ・インダクタだけで作ります。前後の回路のインピーダンスがそのまま特性に入り込みます。
アクティブフィルタはオペアンプと R・C で作ります。オペアンプが前後を切り離すので影響を受けず、ゲインも取れます。オペアンプの帯域・スルーレート・出力振幅・ノイズが上限になります。
| パッシブ(R・L・C) | アクティブ(オペアンプ + R・C) | |
|---|---|---|
| ゲイン | 1 以下(損失のみ) | 1 以上も可 |
| 入出力インピーダンス | 前後の回路に依存。特性が変わる | 入力高・出力低。前後を切り離せる |
| 周波数の上限 | GHz まで(LC) | オペアンプの GBW で決まる。数 MHz が実用上限 |
| 扱える電力・電流 | 大電流・高電圧も可 | オペアンプの出力(数十 mA、電源電圧以内) |
| 2 次以上の特性 | インダクタが要る(大きい・非線形) | R と C だけで作れる |
| 電源 | 不要 | 必要。静止電流を消費 |
| ノイズ | 抵抗の熱雑音のみ | オペアンプの電圧・電流雑音が加わる |
| 部品感度 | 低い | Q が高いと部品誤差に敏感 |
パッシブの落とし穴:前後の回路が特性を変える
RC ローパスの fc = 1 ÷ (2πRC) は、信号源のインピーダンスがゼロで負荷が無限大のときの式です。信号源の出力抵抗 Rs は R に足され、負荷 RL は C に並列に入って、直流ゲインも fc も変わります。パッシブフィルタは単体では特性が決まらず、つないだ相手込みで決まります。
LC フィルタでは終端の抵抗が Q を決めます。50Ω 系で設計したものを高インピーダンスの回路につなぐと、通過帯域にピークが立ち、遮断特性が崩れます。EMI フィルタのカタログが「50Ω 系での減衰量」なのはこのためで、実際の電源ラインのインピーダンス(数 Ω〜数百 Ω、周波数で変わる)では減衰量が大きく違います。
同じ RC を 2 段重ねると、2 段目が 1 段目の負荷になり、−40dB/decade になりません。2 段目の R を 10 倍以上にするか、間にバッファを入れます(その時点でアクティブフィルタです)。
パッシブ 3 段で信号が 1/2 になれば、後段のアンプで 2 倍にする必要があり、そのアンプのノイズも 2 倍で効きます。
アクティブの落とし穴:オペアンプの限界がそのまま出る
GBW は、2 次のサレンキーで fc = 100kHz、Q = 0.7 を作るなら、fc の 100 倍以上(10MHz 以上)が欲しいところです。目安は GBW ≧ 100 × fc × Q で、GBW = 1MHz の汎用オペアンプなら fc = 10kHz 程度までです。
サレンキー(VCVS)型は、帰還コンデンサがオペアンプの出力につながっています。オペアンプの出力インピーダンスは高周波で上がる(GBW の先で数十〜数百 Ω)ので、fc の 100 倍あたりから入力がこのコンデンサを通して出力に漏れ、減衰が −40〜−60dB で止まり、さらに上では戻ってきます。ADC のアンチエイリアスでは、サンプリング周波数の高調波が通ります。対策は、オペアンプの後に小さな RC を 1 段足すか、反転構成で漏れ経路のない多重帰還(MFB)型を使うことです。
大振幅信号では、スルーレート SR ≧ 2π × f × Vpeak が要ります。100kHz で 5V ピークなら 3.1V/µs です。出力は電源レールの内側までしか振れず、単電源では中点バイアスが必要です。
Q = 5 のような鋭い特性では、R と C の 1% の誤差で Q と fc が数 % ずれます。Q の低い段に分けて縦続するほうが安定します。X7R は DC バイアスと温度で容量が動くので、コンデンサは C0G かフィルムにします。
オペアンプの電圧雑音(数〜数十 nV/√Hz)も加わります。µA 級の低消費電流品は GBW が数十 kHz しかありません。
用途別:どちらを選び、何に気をつけるか
| 用途 | 方式 | 注意点 |
|---|---|---|
| ADC のアンチエイリアス | アクティブ(2〜4 次) | 必要な減衰量から次数を決める。サレンキーなら後段 RC。ΔΣ ADC は 1 次の RC で足りることが多い |
| 電源ライン(DC-DC の出力、IC の電源ピン) | パッシブのみ(LC、フェライトビーズ + C) | 電流が流れるのでオペアンプは使えない。LC は負荷変動で共振しやすく、ダンピング抵抗か ESR のあるコンデンサを併用する |
| RF(数十 MHz 以上) | パッシブ LC | オペアンプの帯域が足りない。50Ω 終端で設計し、実装ではインダクタの自己共振とコンデンサの ESL が特性を決める |
| センサ信号(数 Hz〜数十 kHz、mV 級) | アクティブ | 高インピーダンスの信号源は非反転入力で受け、ゲインとフィルタを同じ段で取る。オフセットと 1/f ノイズに注意 |
| オーディオ(20Hz〜20kHz) | アクティブが主 | セラミックの歪みを避けてフィルムコンデンサを使う |
| EMI 対策(ケーブル・コネクタ) | パッシブのみ(コモンモードチョーク、フェライトビーズ、Y コンデンサ) | 減衰量は前後のインピーダンスで大きく変わるので、実測する |
| 電池駆動の低消費電流回路 | 可能ならパッシブ | アクティブなら、必要な fc が取れる最小電流のオペアンプにする |
| デジタル信号のなまし(チャタリング除去、エッジ緩和) | パッシブ RC | 後段はシュミットトリガ入力にする |
| ノッチ(50/60Hz の除去) | アクティブ(ツイン T + オペアンプ) | パッシブのツイン T は Q が 0.25 で幅が広すぎる。デジタルフィルタのほうが安定することが多い |
判断の手順
- 信号の周波数と、止めたい成分の周波数の比が 10 倍未満なら、1 次では足りない。
- 電流が mA を超える、電圧が電源レールを超える、周波数が 1MHz を超えるなら、パッシブ(LC)にする。
- 信号源が高インピーダンス、または負荷が変動するなら、アクティブ(かパッシブ + バッファ)にする。
- 試作で、通過帯域の平坦さ、遮断域の減衰量(特に fc の 100 倍以上)、大振幅での歪みを実測する。計算どおりにならない場所は、決まってこの 3 つのどれかです。
よくある質問
アクティブフィルタは 2 次以上でないと意味がないですか。
サレンキーと多重帰還(MFB)はどう使い分けますか。
インダクタを使うパッシブフィルタは避けたほうがよいですか。
デジタルフィルタにすれば、アナログフィルタは要りませんか。
参考にした規格・資料
- TI, Active Filter Design Techniques (SLOA088) — サレンキー・MFB の設計式と部品感度
- Analog Devices, MT-222 / MT-223 — アクティブフィルタのオペアンプ要件(GBW、出力インピーダンス)
- A. B. Williams, F. J. Taylor, Electronic Filter Design Handbook — パッシブ LC とアクティブの設計