パッシブフィルタとアクティブフィルタ:どちらで作るか、用途別の落とし穴

「アクティブのほうが高性能」ではありません。電源ラインや RF ではアクティブは使えず、ADC の前段ではパッシブだけでは足りません。フィルタは何を通して何を止めるかより先に、信号の周波数・電力・インピーダンスで方式が決まります。

最終更新: 2026-09-19 フィルタアクティブフィルタサレンキーオペアンプ

何が違うのか

パッシブフィルタは抵抗・コンデンサ・インダクタだけで作ります。電源が要らず、信号の電力を消費するだけなので、ゲインは 1 以下です。前後の回路のインピーダンスがそのまま特性に入り込みます。

アクティブフィルタはオペアンプと R・C で作ります。オペアンプが信号源と負荷を切り離す(バッファする)ので、前後の影響を受けず、ゲインも取れます。インダクタを使わずに、2 次以上の急峻な特性を R と C だけで作れます。かわりに電源が要り、オペアンプの帯域・スルーレート・出力振幅・ノイズが上限になります。

この違いを表にすると、どちらを選ぶかはほぼ自動的に決まります。

パッシブとアクティブの比較
パッシブ(R・L・C)アクティブ(オペアンプ + R・C)
ゲイン1 以下(損失のみ)1 以上も可
入出力インピーダンス前後の回路に依存。特性が変わる入力高・出力低。前後を切り離せる
周波数の上限GHz まで(LC)オペアンプの GBW で決まる。数 MHz が実用上限
扱える電力・電流大電流・高電圧も可オペアンプの出力(数十 mA、電源電圧以内)
2 次以上の特性インダクタが要る(大きい・非線形)R と C だけで作れる
電源不要必要。静止電流を消費
ノイズ抵抗の熱雑音のみオペアンプの電圧・電流雑音が加わる
部品感度低いQ が高いと部品誤差に敏感
向く用途電源、RF、EMI、大信号センサ信号、ADC 前段、オーディオ

パッシブの落とし穴:前後の回路が特性を変える

RC ローパスの fc = 1 ÷ (2πRC) は、信号源のインピーダンスがゼロで負荷が無限大のときの式です。信号源に出力抵抗 Rs があれば R に足され、負荷 RL があれば C に並列に入って直流ゲインも fc も変わります。パッシブフィルタは単体では特性が決まらず、つないだ相手込みで決まります

LC フィルタではさらに顕著で、終端の抵抗が Q を決めます。50Ω 系で設計した LC フィルタを高インピーダンスの回路につなぐと、通過帯域にピークが立ち、遮断特性が崩れます。EMI フィルタのデータシートに「50Ω 系での減衰量」と書いてあるのはこのためで、実際の電源ラインのインピーダンス(数 Ω〜数百 Ω、周波数で変わる)では減衰量がカタログと大きく違います。

2 段重ねるときも同じ問題が出ます。同じ RC を 2 段そのまま重ねると、2 段目が 1 段目の負荷になり、−40dB/decade になりません。2 段目の R を 1 段目の 10 倍以上にするか、間にバッファを入れます。バッファを入れた時点で、それはアクティブフィルタです。

ゲインがないことも見落とされます。パッシブで 3 段重ねて信号が 1/2 になれば、後段のアンプで 2 倍にする必要があり、そのアンプのノイズが 2 倍で効きます。フィルタで失った信号は、あとで取り戻すときにノイズも一緒に持ち込みます。

アクティブの落とし穴:オペアンプの限界がそのまま出る

GBW。2 次のサレンキーで fc = 100kHz、Q = 0.7 を作るには、オペアンプの GBW が fc の 100 倍以上(10MHz 以上)欲しいところです。Q が高いほど、また fc でのループゲインが要るほど、余裕が必要になります。目安は GBW ≧ 100 × fc × Q。GBW = 1MHz の汎用オペアンプで作れるのは、fc = 10kHz 程度までです。

高域で減衰が頭打ちになる。サレンキー(VCVS)型は、帰還コンデンサがオペアンプの出力につながっています。オペアンプの出力インピーダンスは高周波で上がる(GBW の先で数十〜数百 Ω)ので、fc の 100 倍あたりから、入力がこのコンデンサを通して出力に漏れ、減衰が −40〜−60dB で止まり、さらに上では戻ってきます。ADC のアンチエイリアスで、サンプリング周波数の高調波がこの漏れで通ってしまう事故があります。対策は、オペアンプの後に小さな RC を 1 段足すか、多重帰還(MFB)型を使うことです。MFB は反転構成で、この漏れ経路がありません。

スルーレートと出力振幅。fc 付近の大振幅信号では、スルーレート SR ≧ 2π × f × Vpeak が要ります。100kHz で 5V ピークなら 3.1V/µs。また出力は電源レールの内側までしか振れず、単電源では中点バイアスが必要です。

部品感度。Q = 5 のような鋭い特性を作ると、R と C の 1% の誤差で Q と fc が数 % ずれます。等価な特性を Q の低い段に分けて縦続するほうが安定します。コンデンサは C0G かフィルム。X7R は DC バイアスと温度で容量が動き、特性がずれます。

ノイズと消費電流。オペアンプの電圧雑音(数 nV〜数十 nV/√Hz)が加わります。電池駆動用の低消費電流オペアンプ(µA 級)は GBW が数十 kHz しかなく、フィルタに使える周波数が限られます。

2 次サレンキーの理想特性と、高域での漏れ横軸 1kHz〜100MHz、縦軸 0〜−100dB。fc = 10kHz、Q = 0.707 の理想特性は −40dB/decade で下がり続けるが、オペアンプの出力インピーダンスによる漏れで 1MHz 付近から減衰が止まり、その上で戻る。後段に RC を 1 段足した曲線は下がり続ける。 計算上は −40dB/decade。実物は fc の 100 倍あたりで止まる fc = 10kHz、Q = 0.707。漏れの大きさはオペアンプと部品配置で変わる 1k 10k 100k 1M 10M 100M 0dB -20dB -40dB -60dB -80dB -100dB 周波数 理想 実物(出力 Z による漏れ) 後段に RC を 1 段 fc、−3dB なぜ漏れるか C1 がオペアンプ出力につながり、 高周波で出力 Z が上がると漏れる。 どこで問題になるか ADC 前段。サンプリング周波数の 高調波がこの漏れで通る。 対策 出力に RC を 1 段足す。 または MFB 型にする。
図1:2 次サレンキーの計算上の特性と、オペアンプの出力インピーダンスによる高域の漏れ。fc の 100 倍あたりで減衰が止まり、その上で戻る。後段に RC を 1 段足すと直る。

用途別:どちらを選び、何に気をつけるか

  • ADC のアンチエイリアス。アクティブ(2〜4 次)。サンプリング周波数の半分で必要な減衰量を先に決め、次数を逆算する。サレンキーの高域漏れ対策に後段 RC。オペアンプは ADC のサンプリング容量を駆動できるもの(出力に 10〜100nF + 数十 Ω を置けるもの)。ΔΣ ADC はオーバーサンプリングで要求が緩く、1 次の RC で足りることが多い。
  • 電源ライン(DC-DC の出力、IC の電源ピン)。パッシブのみ。LC かフェライトビーズ + C。電流が流れるのでオペアンプは使えない(例外はキャパシタンスマルチプライヤで、これはトランジスタで C を大きく見せる回路)。LC は負荷の変動で共振してリップルが増えることがあり、ダンピング抵抗か ESR のあるコンデンサを併用する。
  • RF(数十 MHz 以上)。パッシブ LC。オペアンプの帯域が足りない。インピーダンス(50Ω)で終端すること前提で設計し、実装ではインダクタの自己共振とコンデンサの ESL が特性を決める。
  • センサ信号(数 Hz〜数十 kHz、mV 級)。アクティブ。信号源が高インピーダンスなので非反転入力で受け、ゲインとフィルタを同じ段で取る。オフセットと 1/f ノイズに注意。直流を通す必要があれば単電源のレール・ツー・レール品。
  • オーディオ(20Hz〜20kHz)。アクティブが主。GBW に余裕があり、部品の非線形(セラミックの歪み)を避けるためフィルムコンデンサ。パッシブのトーン回路もあるが、前後のインピーダンスで特性が変わる前提で作る。
  • EMI 対策(ケーブル・コネクタ)。パッシブのみ。コモンモードチョーク、フェライトビーズ、Y コンデンサ。減衰量は前後のインピーダンスで大きく変わるので、カタログ値を鵜呑みにせず実測する。
  • 電池駆動の低消費電流回路。可能ならパッシブ。アクティブにするなら、静止電流と GBW のトレードオフを見て、必要な fc が取れる最小電流のオペアンプ。マイコンの ADC 前段なら、RC 1 段 + マイコン内蔵のオーバーサンプリングで済むことも多い。
  • デジタル信号のなまし(チャタリング除去、エッジ緩和)。パッシブ RC。後段はシュミットトリガ入力に。
  • ノッチ(50/60Hz の除去)。アクティブ(ツイン T + オペアンプ)。パッシブのツイン T は Q が 0.25 で幅が広すぎる。ただし温度と部品誤差でノッチ周波数がずれるので、デジタルフィルタ(マイコン内)で処理するほうが安定することが多い。
用途と周波数で方式はほぼ決まる横軸は信号または止めたい成分の周波数 用途と周波数で方式はほぼ決まる 横軸は信号または止めたい成分の周波数 センサ・音声などの小信号 アクティブ(オペアンプ + RC) パッシブ LC ADC のアンチエイリアス アクティブ 2〜4 次 + 後段 RC 電源ライン(電流が流れる) パッシブのみ:LC、フェライトビーズ + C ケーブル・コネクタの EMI パッシブのみ:コモンモードチョーク、Y コンデンサ デジタル信号のなまし パッシブ RC + シュミットトリガ入力 1Hz 1kHz 1MHz 1GHz アクティブ パッシブ パッシブ + ロジック側で対処
図2:用途と周波数で見た方式の地図。電源・EMI・RF はパッシブしかなく、小信号と ADC 前段はアクティブ。

判断の手順

  1. 信号の周波数帯と、止めたい成分の周波数を書き出す。両者の比が 10 倍未満なら、1 次では足りない。
  2. 信号の電力を確認する。電流が mA を超える、電圧が電源レールを超えるなら、パッシブしかない。
  3. 周波数が 1MHz を超えるなら、パッシブ LC を第一候補にする。
  4. 前後のインピーダンスを確認する。信号源が高インピーダンス、または負荷が変動するなら、アクティブ(か、パッシブ + バッファ)。
  5. アクティブなら、必要な fc × Q × 100 以上の GBW を持つオペアンプを選び、スルーレート・出力振幅・静止電流を確認する。
  6. 試作で、通過帯域の平坦さ、遮断域の減衰量(特に fc の 100 倍以上)、大振幅での歪みを実測する。計算どおりにならない場所は決まって、この 3 つのどれかです。

よくある質問

アクティブフィルタは 2 次以上でないと意味がないですか。
1 次でも、バッファとして前後を切り離す意味があります。信号源が高インピーダンスのセンサで、後段が ADC なら、非反転のボルテージフォロワ + RC が最も簡単なアクティブフィルタです。急峻さが要るときに 2 次以上を使います。
サレンキーと多重帰還(MFB)はどう使い分けますか。
サレンキーは非反転でゲイン 1 が簡単に作れ、部品も少ないですが、高域で減衰が戻る漏れがあります。MFB は反転で、漏れがなく高域まで減衰が続き、Q が高くても部品感度が低めです。ADC の前段のように遮断域の減衰量が重要な用途では MFB、ゲイン 1 のバッファを兼ねる用途ではサレンキー、が目安です。
インダクタを使うパッシブフィルタは避けたほうがよいですか。
低周波(kHz 以下)では大きく高価で、直流抵抗と飽和もあるので避けられます。電源や RF のように、電流が流れる・周波数が高い用途では、インダクタ以外の選択肢がありません。数百 kHz 以上ならチップインダクタで十分小さいです。
デジタルフィルタにすれば、アナログフィルタは要りませんか。
ADC の前には必ずアナログのアンチエイリアスフィルタが要ります。サンプリング周波数の半分より上の成分は、デジタル化された時点で低い周波数に折り返し、後から取り除けません。ただし、そのアナログフィルタは折り返しだけを防ぐ緩いもので済ませ、急峻な特性はデジタル側で作る、という分担が一般的です。

参考にした規格・資料

  • TI, Active Filter Design Techniques (SLOA088) — サレンキー・MFB の設計式と部品感度
  • Analog Devices, MT-222 / MT-223 — アクティブフィルタのオペアンプ要件(GBW、出力インピーダンス)
  • A. B. Williams, F. J. Taylor, Electronic Filter Design Handbook — パッシブ LC とアクティブの設計

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