パッシブフィルタとアクティブフィルタ:どちらで作るか、用途別の落とし穴

「アクティブのほうが高性能」ではありません。電源ラインや RF ではアクティブは使えず、ADC の前段ではパッシブだけでは足りないので、信号の周波数・電力・インピーダンスで方式が決まります。

最終更新: 2026-10-28 フィルタアクティブフィルタサレンキーオペアンプ

何が違うのか

パッシブフィルタは抵抗・コンデンサ・インダクタだけで作ります。前後の回路のインピーダンスがそのまま特性に入り込みます。

アクティブフィルタはオペアンプと R・C で作ります。オペアンプが前後を切り離すので影響を受けず、ゲインも取れます。オペアンプの帯域・スルーレート・出力振幅・ノイズが上限になります。

パッシブとアクティブの比較
パッシブ(R・L・C)アクティブ(オペアンプ + R・C)
ゲイン1 以下(損失のみ)1 以上も可
入出力インピーダンス前後の回路に依存。特性が変わる入力高・出力低。前後を切り離せる
周波数の上限GHz まで(LC)オペアンプの GBW で決まる。数 MHz が実用上限
扱える電力・電流大電流・高電圧も可オペアンプの出力(数十 mA、電源電圧以内)
2 次以上の特性インダクタが要る(大きい・非線形)R と C だけで作れる
電源不要必要。静止電流を消費
ノイズ抵抗の熱雑音のみオペアンプの電圧・電流雑音が加わる
部品感度低いQ が高いと部品誤差に敏感
受動フィルタと能動フィルタで信号を整える様子
受動フィルタと能動フィルタで信号を整える様子。概念を表すAI生成イラストです。実際の回路・条件は本文の図と説明を参照してください。

パッシブの落とし穴:前後の回路が特性を変える

RC ローパスの fc = 1 ÷ (2πRC) は、信号源のインピーダンスがゼロで負荷が無限大のときの式です。信号源の出力抵抗 Rs は R に足され、負荷 RL は C に並列に入って、直流ゲインも fc も変わります。パッシブフィルタは単体では特性が決まらず、つないだ相手込みで決まります。

LC フィルタでは終端の抵抗が Q を決めます。50Ω 系で設計したものを高インピーダンスの回路につなぐと、通過帯域にピークが立ち、遮断特性が崩れます。EMI フィルタのカタログが「50Ω 系での減衰量」なのはこのためで、実際の電源ラインのインピーダンス(数 Ω〜数百 Ω、周波数で変わる)では減衰量が大きく違います。

同じ RC を 2 段重ねると、2 段目が 1 段目の負荷になり、−40dB/decade になりません。2 段目の R を 10 倍以上にするか、間にバッファを入れます(その時点でアクティブフィルタです)。

パッシブ 3 段で信号が 1/2 になれば、後段のアンプで 2 倍にする必要があり、そのアンプのノイズも 2 倍で効きます。

RC ローパスは前後の回路込みで決まる上は、信号源の出力抵抗 Rs、抵抗 R、コンデンサ C、負荷抵抗 RL でできた RC ローパスの回路。Rs は R に足され、RL は C に並列に入るので、直流ゲインも fc も変わる。下は、同じ RC を 2 段重ねた回路。2 段目が 1 段目の負荷になり、−40dB/decade にならない。 RC ローパスは、つないだ相手込みで決まる fc = 1 ÷ (2πRC) は、信号源が 0Ω で負荷が無限大のときの式 信号源 Rs R C RL 出力抵抗 Rs は R に足される RL は C に並列に入る 直流ゲインも fc も変わる 同じ RC を 2 段重ねる R C R C 1 段目の負荷 −40dB/decade にならない 対策 1:2 段目の R を 10 倍以上にする 対策 2:間にバッファを入れる
図1:RC ローパスは、信号源の出力抵抗と負荷を含めて決まる。

アクティブの落とし穴:オペアンプの限界がそのまま出る

GBW は、2 次のサレンキーで fc = 100kHz、Q = 0.7 を作るなら、fc の 100 倍以上(10MHz 以上)が欲しいところです。目安は GBW ≧ 100 × fc × Q で、GBW = 1MHz の汎用オペアンプなら fc = 10kHz 程度までです。

サレンキー(VCVS)型は、帰還コンデンサがオペアンプの出力につながっています。オペアンプの出力インピーダンスは高周波で上がる(GBW の先で数十〜数百 Ω)ので、fc の 100 倍あたりから入力がこのコンデンサを通して出力に漏れ、減衰が −40〜−60dB で止まり、さらに上では戻ってきます。ADC のアンチエイリアスでは、サンプリング周波数の高調波が通ります。対策は、オペアンプの後に小さな RC を 1 段足すか、反転構成で漏れ経路のない多重帰還(MFB)型を使うことです。

大振幅信号では、スルーレート SR ≧ 2π × f × Vpeak が要ります。100kHz で 5V ピークなら 3.1V/µs です。出力は電源レールの内側までしか振れず、単電源では中点バイアスが必要です。

Q = 5 のような鋭い特性では、R と C の 1% の誤差で Q と fc が数 % ずれます。Q の低い段に分けて縦続するほうが安定します。X7R は DC バイアスと温度で容量が動くので、コンデンサは C0G かフィルムにします。

オペアンプの電圧雑音(数〜数十 nV/√Hz)も加わります。µA 級の低消費電流品は GBW が数十 kHz しかありません。

2 次サレンキーの理想特性と、高域での漏れ横軸 1kHz〜100MHz、縦軸 0〜−100dB。fc = 10kHz、Q = 0.707 の理想特性は −40dB/decade で下がり続けるが、オペアンプの出力インピーダンスによる漏れで 1MHz 付近から減衰が止まり、その上で戻る。後段に RC を 1 段足した曲線は下がり続ける。 計算上は −40dB/decade。実物は fc の 100 倍あたりで止まる fc = 10kHz、Q = 0.707。漏れの大きさはオペアンプと部品配置で変わる 1k 10k 100k 1M 10M 100M 0dB -20dB -40dB -60dB -80dB -100dB 周波数 理想 実物(出力 Z による漏れ) 後段に RC を 1 段 fc、−3dB なぜ漏れるか C1 がオペアンプ出力につながり、 高周波で出力 Z が上がると漏れる。 どこで問題になるか ADC 前段。サンプリング周波数の 高調波がこの漏れで通る。 対策 出力に RC を 1 段足す。 または MFB 型にする。
図2:2 次サレンキーの計算上の特性と、高域の漏れ。後段に RC を 1 段足すと直る。

用途別:どちらを選び、何に気をつけるか

用途別の方式と注意点
用途方式注意点
ADC のアンチエイリアスアクティブ(2〜4 次)必要な減衰量から次数を決める。サレンキーなら後段 RC。ΔΣ ADC は 1 次の RC で足りることが多い
電源ライン(DC-DC の出力、IC の電源ピン)パッシブのみ(LC、フェライトビーズ + C)電流が流れるのでオペアンプは使えない。LC は負荷変動で共振しやすく、ダンピング抵抗か ESR のあるコンデンサを併用する
RF(数十 MHz 以上)パッシブ LCオペアンプの帯域が足りない。50Ω 終端で設計し、実装ではインダクタの自己共振とコンデンサの ESL が特性を決める
センサ信号(数 Hz〜数十 kHz、mV 級)アクティブ高インピーダンスの信号源は非反転入力で受け、ゲインとフィルタを同じ段で取る。オフセットと 1/f ノイズに注意
オーディオ(20Hz〜20kHz)アクティブが主セラミックの歪みを避けてフィルムコンデンサを使う
EMI 対策(ケーブル・コネクタ)パッシブのみ(コモンモードチョーク、フェライトビーズ、Y コンデンサ)減衰量は前後のインピーダンスで大きく変わるので、実測する
電池駆動の低消費電流回路可能ならパッシブアクティブなら、必要な fc が取れる最小電流のオペアンプにする
デジタル信号のなまし(チャタリング除去、エッジ緩和)パッシブ RC後段はシュミットトリガ入力にする
ノッチ(50/60Hz の除去)アクティブ(ツイン T + オペアンプ)パッシブのツイン T は Q が 0.25 で幅が広すぎる。デジタルフィルタのほうが安定することが多い
用途と周波数で方式はほぼ決まる横軸は信号または止めたい成分の周波数 用途と周波数で方式はほぼ決まる 横軸は信号または止めたい成分の周波数 センサ・音声などの小信号 アクティブ(オペアンプ + RC) パッシブ LC ADC のアンチエイリアス アクティブ 2〜4 次 + 後段 RC 電源ライン(電流が流れる) パッシブのみ:LC、フェライトビーズ + C ケーブル・コネクタの EMI パッシブのみ:コモンモードチョーク、Y コンデンサ デジタル信号のなまし パッシブ RC + シュミットトリガ入力 1Hz 1kHz 1MHz 1GHz アクティブ パッシブ パッシブ + ロジック側で対処
図3:用途と周波数で見た方式の地図。電源・EMI・RF はパッシブしかなく、小信号と ADC 前段はアクティブ。

判断の手順

  1. 信号の周波数と、止めたい成分の周波数の比が 10 倍未満なら、1 次では足りない。
  2. 電流が mA を超える、電圧が電源レールを超える、周波数が 1MHz を超えるなら、パッシブ(LC)にする。
  3. 信号源が高インピーダンス、または負荷が変動するなら、アクティブ(かパッシブ + バッファ)にする。
  4. 試作で、通過帯域の平坦さ、遮断域の減衰量(特に fc の 100 倍以上)、大振幅での歪みを実測する。計算どおりにならない場所は、決まってこの 3 つのどれかです。

よくある質問

アクティブフィルタは 2 次以上でないと意味がないですか。
1 次でも、バッファとして前後を切り離す意味があります。高インピーダンスのセンサから ADC へなら、ボルテージフォロワ + RC が最も簡単です。
サレンキーと多重帰還(MFB)はどう使い分けますか。
サレンキーは非反転でゲイン 1 が簡単ですが、高域で減衰が戻る漏れがあります。MFB は反転で漏れがありません。遮断域の減衰量が重要な ADC 前段なら MFB、バッファを兼ねるならサレンキーが目安です。
インダクタを使うパッシブフィルタは避けたほうがよいですか。
低周波(kHz 以下)では大きく高価で、直流抵抗と飽和もあるので避けられます。電源や RF のように電流が流れる、周波数が高い用途では、インダクタ以外の選択肢がありません。
デジタルフィルタにすれば、アナログフィルタは要りませんか。
ADC の前には必ずアナログのアンチエイリアスフィルタが要ります。サンプリング周波数の半分より上の成分は、デジタル化された時点で折り返し、後から取り除けません。アナログは緩いもので済ませ、急峻な特性はデジタル側で作る分担が一般的です。

参考にした規格・資料

  • TI, Active Filter Design Techniques (SLOA088) — サレンキー・MFB の設計式と部品感度
  • Analog Devices, MT-222 / MT-223 — アクティブフィルタのオペアンプ要件(GBW、出力インピーダンス)
  • A. B. Williams, F. J. Taylor, Electronic Filter Design Handbook — パッシブ LC とアクティブの設計

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