シングルコイルとハムバッカー:等価回路で見る音の違いと、ハムが消える仕組み
ハムバッカーが「太い」のは魔法ではなく、コイルのインダクタンスが 2 倍になって共振周波数が 1.5kHz 下がるからです。そしてハムが消えるのは、2 つのコイルが外来磁界に対しては逆向き、弦に対しては同じ向きに配線されているからです。どちらも等価回路で数字にできます。
ピックアップは LCR の共振回路
ピックアップは、磁石のまわりに細い線(AWG42、直径 0.06mm)を数千〜1 万回巻いたコイルです。弦が振動すると磁石の磁束が変わり、コイルに電圧が誘起されます。それだけなら「電圧源」ですが、コイルには 3 つの寄生要素があります。
インダクタンス L。巻数の 2 乗に比例します。シングルコイル(約 8000 回)で 2〜3H、ハムバッカー(2 コイル直列、各 5000 回前後)で 4〜8H。
直流抵抗 R。細い線を長く巻くので、シングルコイルで 6〜7kΩ、ハムバッカーで 8〜15kΩ。
浮遊容量 C。巻線どうしの間の容量で 100〜200pF。これにケーブルの容量(100pF/m 前後)が並列に加わり、3m のケーブルで 300pF、6m で 600pF が足されます。
負荷側には、ボリュームとトーンのポット(250kΩ または 500kΩ)と、アンプの入力抵抗(1MΩ)が並列に入ります。全体はL と C の 2 次ローパスフィルタで、共振周波数 fr = 1 ÷ (2π√(LC)) にピークを持ち、それより上で −40dB/decade(1 オクターブで −12dB)で落ちます。
| シングルコイル | ハムバッカー(直列) | 備考 | |
|---|---|---|---|
| 巻数 | 約 8000 回 | 約 5000 回 × 2 | |
| インダクタンス L | 2〜3H | 4〜8H | 巻数の 2 乗に比例 |
| 直流抵抗 R | 6〜7kΩ | 8〜15kΩ | AWG42 で約 5Ω/m |
| 自己容量 | 100〜200pF | 100〜200pF | 巻線間の容量 |
| 出力電圧 | 100〜200mV | 200〜400mV | 強く弾いたピーク |
| 共振周波数(500pF 負荷) | 4〜5kHz | 2.5〜3.5kHz | L と C で決まる |
共振周波数が「音色」を決める
共振周波数の位置が、ピックアップの音色の大部分を決めます。L = 2.5H、C = 500pF(自己容量 100pF + ケーブル 400pF)のシングルコイルなら、fr = 1 ÷ (2π√(2.5 × 500p)) ≒ 4.5kHz。ハムバッカーで L = 5H なら同じ C で 3.2kHz。
人の耳は 2〜5kHz に最も敏感で、ギターの「きらびやかさ」「抜け」はこの帯域のピークで決まります。4.5kHz にピークがあれば明るく、3.2kHz なら太く暗く聞こえます。ハムバッカーが暗いのは、コイルが 2 つあるからではなく、直列にして L が 2 倍になり、共振が 1/√2 倍の周波数に下がるからです。
ピークの高さ(Q)は負荷抵抗で決まります。共振周波数での L のリアクタンスは、3.2kHz・5H で 2π × 3200 × 5 ≒ 100kΩ。負荷が 500kΩ なら Q ≒ 5 で 14dB のピーク、250kΩ なら Q ≒ 2.5 で 8dB。ハムバッカーに 500kΩ のポットを使うのは、Q を上げてピークを立たせ、暗さを補うためです。
ケーブルを長くすると C が増えて共振が下がります。6m のケーブルなら C = 700pF で、シングルコイルの共振は 3.8kHz まで下がり、ハムバッカー寄りの音になります。「長いケーブルで音が丸くなる」のはこれです。対策はバッファ(ハイインピーダンス入力の回路をギター側に置き、ケーブルの容量から L を切り離す)で、共振は自己容量だけで決まる 10kHz 以上に上がります。
トーン回路のコンデンサ(22nF 前後)は、ポットを絞ると L に並列に大きな C を足します。共振周波数は 1kHz 以下に下がり、Q も下がるので、「こもった」音になります。これも同じ LCR の共振で説明できます。
ハムはコイルに「磁気的に」乗る
コイルは弦の振動による磁束変化だけでなく、外から来るあらゆる磁束変化を電圧に変えます。電源トランス、蛍光灯の安定器、調光器、モータ、そして電源ケーブルの 50/60Hz とその高調波は、空間に交流磁界を作ります。8000 回巻いたコイルの中を通る磁束が変化すれば、e = −N × dΦ/dt で電圧が出ます。
この磁界は数 m 離れても届き、シールドでは止められません。銅やアルミの箔は電界(静電結合のノイズ)には効きますが、50Hz の磁界は素通しです。磁気シールドには透磁率の高い材料(パーマロイなど)を厚く使う必要があり、ピックアップの周りにそれを置くと弦の磁束まで遮ってしまいます。
つまり、シングルコイルの 50Hz ハムは、ピックアップの動作原理そのものの副産物で、コイル 1 個では原理的に消せません。
2 つのコイルで、ハムだけを打ち消す
ハムバッカーは、隣接した 2 つのコイルを逆向きに巻き(または逆向きに接続し)、かつ磁石の極性を逆にして直列につないだものです。この 2 つの「逆」が、外来磁界と弦の信号を区別する鍵です。
外来磁界(ハム)。数 m 先のトランスが作る磁界は、20mm 離れた 2 つのコイルに対してほぼ同じ強さ・同じ向きです。同じ磁束変化が両方のコイルを通りますが、巻き方向が逆なので誘起電圧の符号が逆になります。直列に足すと打ち消し合ってゼロ。これがコモンモード(両方に同じように乗る成分)の除去です。
弦の振動。弦を磁化しているのは各コイル自身の磁石です。磁石の極性が逆なので、弦の同じ振動に対して 2 つのコイルの磁束変化は逆符号になります。ここに巻き方向の逆がもう一度かかって、誘起電圧は同符号に戻ります。直列に足すと 2 倍。
まとめると、ハムは「巻きが逆」で 1 回反転して消え、弦の信号は「巻きが逆」と「磁石が逆」で 2 回反転して残る、という仕組みです。反転の回数が違うので区別できます。
打ち消しは完全ではありません。2 つのコイルの巻数が 1% 違えばハムは 1%(−40dB)残ります。実際のハムバッカーで 20〜30dB の低減で、シングルコイルの 1/10〜1/30 です。ノイズ源が近くにあって磁界が 2 つのコイルで違う強さのときも、差のぶんが残ります。アンプのトランスの真横で弾くとハムバッカーでもハムが出るのはこのためです。
ハムバッカーの副作用
2 つのコイルが 18〜20mm 離れて弦を「見て」いることは、音にも影響します。弦の振動は弦の上を伝わる波なので、2 点で拾うと、その距離の半波長にあたる周波数成分は 2 点で逆位相になり、足すと消えます。これはコムフィルタ(櫛形フィルタ)で、高い倍音が削られます。ハムバッカーの「丸さ」は、共振周波数の低下とこのコムフィルタの両方によるものです。
回避策として、コイルを横に並べるのではなく上下に重ねた「スタック型」があります。2 点で拾う問題は消えますが、下のコイルには弦の磁束が届きにくいので、打ち消しの均衡を取るために巻数や磁気回路の工夫が要ります。
配線の切り替えでも音が変わります。並列接続にすると L は 1/4(直列の 1/4)、共振は直列の 2 倍の周波数に上がり、明るくなります。ハムの打ち消しは保たれます。コイルタップ(片方のコイルだけ使う)にするとシングルコイルの音になりますが、ハムも戻ってきます。
実機での確認
- ハムの原因が磁界か電界かを切り分ける。ギターの金属部に触れて減るなら電界(シールド不足)、変わらなければ磁界(コイルに乗っている)。前者はシールドで、後者はハムバッカーかダミーコイルでしか減りません。
- ギターの向きを変える。磁界のノイズはコイルの向きで拾い方が変わります。ノイズ源に対してコイルの軸が直交する向きで最小になります。
- ケーブルの容量を測る。LCR メータで 100pF/m 前後なら普通、200pF/m を超えるものは共振を大きく下げます。
- 共振周波数を測る。信号発生器と 1MΩ 入力のオシロスコープがあれば、ピックアップに小さな磁界(コイルに 1kΩ を通して駆動)を与えて周波数を掃引すると、ピークが見えます。
- 2 つのコイルの直流抵抗を比べる。ハムバッカーの 2 コイルで抵抗が 5% 以上違うと、打ち消しの均衡が崩れます。
よくある質問
ハムバッカーの「ハム」とは何ですか。
シングルコイルのハムをシールドで減らせますか。
共振周波数を上げて明るい音にするには?
アクティブピックアップは何が違いますか。
参考にした規格・資料
- Helmuth Lemme, "The Secrets of Electric Guitar Pickups" — ピックアップの等価回路と共振周波数の測定
- US Patent 2,896,491 (S. Lover, 1959) — ハムバッキングピックアップの原理
- 各ピックアップメーカの仕様 — 直流抵抗・インダクタンス・共振周波数の公表値