シングルコイルとハムバッカー:等価回路で見る音の違いと、ハムが消える仕組み

ハムバッカーが「太い」のはインダクタンスが 2 倍になって共振が約 1.3kHz 下がるからで、ハムが消えるのは 2 つのコイルが外来磁界には逆向き、弦には同じ向きに働くからです。どちらも等価回路で数字にできます。

最終更新: 2026-10-28 ピックアップハムバッカー等価回路コモンモードノイズ

ピックアップは LCR の共振回路

ピックアップは、磁石のまわりに細い線(AWG42)を数千〜1 万回巻いたコイルで、弦が振動すると磁束が変わって電圧が誘起されます。コイルには、巻数の 2 乗に比例するインダクタンス L、細い線を長く巻くことによる直流抵抗 R、巻線間の浮遊容量 C があります(値は下の表)。

C にはケーブルの容量(100pF/m 前後)が並列に加わります。負荷側にはポット(250kΩ または 500kΩ)とアンプの入力抵抗(1MΩ)が並列に入ります。全体は L と C の 2 次ローパスで、共振周波数 fr = 1 ÷ (2π√(LC)) にピークを持ち、それより上で −40dB/decade(1 オクターブで −12dB)で落ちます。

ピックアップの代表的な定数
シングルコイルハムバッカー(直列)
巻数約 8000 回約 5000 回 × 2
インダクタンス L2〜3H4〜8H
直流抵抗 R6〜7kΩ8〜15kΩ
自己容量100〜200pF100〜200pF
出力電圧100〜200mV200〜400mV
共振周波数(500pF 負荷)4〜5kHz2.5〜3.5kHz
ギターピックアップのコイルと弦
ギターピックアップのコイルと弦。概念を表すAI生成イラストです。実際の回路・条件は本文の図と説明を参照してください。
ピックアップの等価回路と周波数特性コイルのインダクタンス L、巻線抵抗 R、自己容量、ケーブル容量、ポットとアンプの負荷抵抗からなる等価回路。右にシングルコイル(L = 2.5H)、ハムバッカー(L = 5H)、6m ケーブルをつないだシングルコイルの周波数特性。 ピックアップは L と C の 2 次ローパス。ピークの位置が音色 L = 2.5H / 5H、R = 6.5k / 10kΩ、自己容量 100pF、ケーブル 400pF、負荷 200k / 333kΩ ~ 弦の信号 L R 自己容量 ピックアップ ケーブル 100pF/m ポット ∥ アンプ 負荷 Vout 共振周波数 fr = 1 ÷ (2π√(L·C))。C はケーブルと自己容量の和。 ピークの高さ(Q)は負荷抵抗 ÷ (2π·fr·L) でおよそ決まる。 100 1k 10k 20dB 10dB 0dB -10dB -20dB 周波数 [Hz] シングルコイル:ピーク 4.5kHz ハムバッカー:ピーク 3.2kHz シングル + 6m ケーブル:3.8kHz
図1:ピックアップの等価回路と周波数特性。共振のピークが音色の芯になる。

共振周波数が「音色」を決める

L = 2.5H、C = 500pF(自己容量 100pF + ケーブル 400pF)のシングルコイルなら、fr = 1 ÷ (2π√(2.5 × 500p)) ≒ 4.5kHz です。ハムバッカーで L = 5H なら、同じ C で 3.2kHz です。

音の「きらびやかさ」は 2〜5kHz のピークで決まり、4.5kHz は明るく、3.2kHz は太く暗く聞こえます。ハムバッカーが暗いのはコイルが 2 つあるからではなく、直列にして L が 2 倍になり、共振が 1/√2 倍の周波数に下がるからです。

ピークの高さ(Q)は負荷抵抗で決まります。3.2kHz・5H での L のリアクタンスは約 100kΩ なので、負荷が 500kΩ なら Q ≒ 5 で 14dB のピーク、250kΩ なら Q ≒ 2.5 で 8dB です。ハムバッカーに 500kΩ のポットを使うのは、ピークを立たせて暗さを補うためです。

ケーブルを長くすると C が増えて共振が下がります。6m なら C = 700pF で、シングルコイルの共振は 3.8kHz まで下がり、ハムバッカー寄りの音になります。ギター側にバッファを置いてケーブルの容量から L を切り離すと、共振は自己容量だけで決まる 10kHz 以上に上がります。

トーン回路のコンデンサ(22nF 前後)は、ポットを絞ると L に並列に大きな C を足し、共振が 1kHz 以下に下がって Q も下がるため、「こもった」音になります。

ハムはコイルに「磁気的に」乗る

コイルは、外から来るあらゆる磁束変化を電圧に変えます。電源トランス、蛍光灯の安定器、モータ、電源ケーブルの 50/60Hz とその高調波は交流磁界を作り、コイルを通る磁束が変化すれば e = −N × dΦ/dt で電圧が出ます。

この磁界は数 m 離れても届きます。銅やアルミの箔が効くのは電界(静電結合のノイズ)で、50Hz の磁界は素通しです。磁気シールドには透磁率の高い材料(パーマロイなど)が要り、ピックアップの周りに置くと弦の磁束まで遮ります。

つまりシングルコイルのハムは、コイル 1 個では原理的に消せません。

2 つのコイルで、ハムだけを打ち消す

ハムバッカーは、隣接した 2 つのコイルを逆向きに巻き、磁石の極性も逆にして直列につないだものです。この 2 つの「逆」が、外来磁界と弦の信号を区別する鍵です。

外来磁界(ハム)は、20mm 離れた 2 つのコイルにほぼ同じ強さ・同じ向きで通ります。巻き方向が逆なので誘起電圧の符号が逆になり、直列に足すとゼロです。これがコモンモード除去です。

弦は各コイル自身の磁石で磁化されています。磁石の極性が逆なので、弦の振動に対する磁束変化は 2 つのコイルで逆符号になり、巻き方向の逆がもう一度かかって誘起電圧は同符号に戻ります。直列に足すと 2 倍です。

打ち消しは完全ではありません。巻数が 1% 違えばハムは 1%(−40dB)残り、実際のハムバッカーでは 20〜30dB の低減(シングルコイルの 1/10〜1/30)です。近くのノイズ源で磁界の強さが 2 つのコイルで違うときも、差のぶんが残ります。アンプのトランスの真横でハムが出るのはこのためです。

ピックアップの等価回路と周波数特性コイルのインダクタンス L、巻線抵抗 R、自己容量、ケーブル容量、ポットとアンプの負荷抵抗からなる等価回路。右にシングルコイル(L = 2.5H)、ハムバッカー(L = 5H)、6m ケーブルをつないだシングルコイルの周波数特性。 外来磁界(ハム):2 つのコイルで打ち消す離れたトランスの磁界は、両コイルに同じ向き・同じ強さで通る 弦の振動:2 つのコイルで足し合わせる弦を磁化しているのは各コイル自身の磁石。極性が逆なので磁束変化も逆 N S コイル 1 S N コイル 2 右巻き 左巻き(逆) 外来磁界(同じ向き) +e−e 弦 +e+e 直列接続 直列にした出力 コイル 1:+e コイル 2:−e合計 0同じ磁束、逆の巻き方向。ハムはコモンモードとして消える。 コイル 1:+e コイル 2:+e合計 2e磁束が逆 × 巻きが逆 = 同符号。弦の信号は 2 倍で残る。 打ち消しは巻数と位置の対称性で決まり、実際は 20〜30dB。近くのノイズ源は 2 コイルで磁界の強さが違うので残る。 アニメーションが動かない設定では、両方のフェーズが重なって表示される。
図2:外来磁界は逆巻きの 2 コイルで打ち消し合い、弦の信号は逆巻きと逆極性で同符号になって 2 倍になる。

ハムバッカーの副作用

2 つのコイルは 18〜20mm 離れて弦を拾います。弦の振動は弦を伝わる波なので、その距離が半波長にあたる周波数成分は 2 点で逆位相になり、足すと消えます。このコムフィルタ(櫛形フィルタ)で高い倍音が削られ、ハムバッカーの「丸さ」は共振の低下とこの両方によるものです。

コイルを上下に重ねた「スタック型」にはこの問題がありませんが、下のコイルには弦の磁束が届きにくいので、打ち消しの均衡を取る工夫が要ります。

並列接続にすると L は直列の 1/4、共振は 2 倍の周波数に上がって明るくなり、ハムの打ち消しは保たれます。コイルタップ(片方だけ使う)はシングルコイルの音になりますが、ハムも戻ります。

ハムバッカーのコムフィルタ弦を伝わる波を表した曲線と、18 から 20mm 離れた 2 つのコイル。コイル 1 は波の山、コイル 2 は波の谷の位置にあり、2 点の信号は逆位相になる。この間隔が半波長にあたる周波数は、足すと消える。 弦の波を 2 点で拾うと、コムフィルタになる 2 つのコイルは 18〜20mm 離れている 弦を伝わる波 コイル 1 山 コイル 2 谷 18〜20mm = 半波長 この間隔が半波長にあたる周波数は、2 点で逆位相になり、足すと消える 高い倍音が削られ、音が丸くなる
図3:弦を伝わる波を 2 つのコイルで拾う。間隔が半波長にあたる周波数は、2 点で逆位相になって消える。

実機での確認

  • ギターの金属部に触れてハムが減れば電界(シールド不足)、変わらなければ磁界です。前者はシールドで、後者はハムバッカーかダミーコイルでしか減りません。
  • 磁界ノイズは、ノイズ源に対してコイルの軸が直交する向きで最小になります。
  • ケーブルの容量は LCR メータで測ります。100pF/m 前後なら普通で、200pF/m を超えると共振を大きく下げます。
  • 共振周波数は、信号発生器と 1MΩ 入力のオシロスコープで測れます。コイルに 1kΩ を通して小さな磁界を与え、掃引します。
  • ハムバッカーの 2 コイルの直流抵抗が 5% 以上違うと、打ち消しの均衡が崩れます。

よくある質問

ハムバッカーの「ハム」とは何ですか。
商用電源(50Hz または 60Hz)に由来する低い唸りです。交流磁界がコイルに誘導されて出ます。「バッカー」は打ち消すもの、という意味です。
シングルコイルのハムをシールドで減らせますか。
磁界によるハムは減らせません。シールドで減るのは電界による結合(蛍光灯のインバータ、パソコンなどのノイズ)です。磁界ハムは、ダミーコイル(弦を拾わない逆巻きのコイル)を足すか、ハムバッカーに替えるしかありません。
共振周波数を上げて明るい音にするには?
C を減らすのが一番効きます。短いケーブルを使うか、ギター側にバッファを入れます。ポットを 500kΩ にするとピークが立ちます(周波数は変わらない)。L を減らすと共振は上がりますが、出力も下がります。
アクティブピックアップは何が違いますか。
巻数を減らして L と R を小さくし、内蔵のプリアンプで増幅します。共振が 10kHz 以上に上がり、ケーブルの影響も電界ノイズも受けにくくなります。電池が要り、共振による「癖」が消えるので、パッシブとは違う音になります。

参考にした規格・資料

  • Helmuth Lemme, "The Secrets of Electric Guitar Pickups" — ピックアップの等価回路と共振周波数の測定
  • US Patent 2,896,491 (S. Lover, 1959) — ハムバッキングピックアップの原理
  • 各ピックアップメーカの仕様 — 直流抵抗・インダクタンス・共振周波数の公表値

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