バッテリの mAh と Wh:電圧が違うと比べられない

10000mAh のモバイルバッテリで 3000mAh のスマートフォンを 3 回充電できないのは、詐欺ではなく単位の問題です。10000mAh は 3.7V での値で、5V に変換した時点で 7400mAh になり、変換の損失で 6700mAh に、さらに充電側の損失で 2 回分になります。

最終更新: 2026-09-14 バッテリmAhWh電池駆動

mAh は電荷、Wh はエネルギー

mAh(ミリアンペア時)は「何 mA を何時間流せるか」で、電荷の量です。Wh(ワット時)は電圧を掛けたエネルギーです。Wh = Ah × V。3000mAh のリチウムイオン電池(公称 3.7V)は 11.1Wh。同じ 3000mAh でもニッケル水素(1.2V)なら 3.6Wh で、エネルギーは 1/3 です。

電池の中身を比べるときは Wh を使います。mAh で比べてよいのは、同じ電圧の電池どうしだけです。データシートに mAh しか書いていなければ、公称電圧を掛けて Wh に直してから比較します。

航空機の持ち込み制限が Wh で書かれているのはこのためです。100Wh 以下は制限なし、100〜160Wh は航空会社の承認が要る、というルールで、3.7V なら 100Wh = 27,000mAh に相当します。

モバイルバッテリの 10000mAh はどこへ消えるか

モバイルバッテリの容量表記は、内部のリチウムイオンセルの 3.7V での値です。10000mAh × 3.7V = 37Wh。これを USB の 5V で出すには昇圧が要り、電荷として見ると 37Wh ÷ 5V = 7400mAh に減ります。減っているのではなく、電圧が上がったぶん電流(電荷)が減っています。

昇圧コンバータの効率が 90% なら、5V で取り出せるのは 37 × 0.9 ÷ 5 = 6700mAh。製品によっては「定格容量 6700mAh」のように、この値が併記されています。

スマートフォン側でも、5V を受けてセルの 3.7〜4.2V に降圧して充電する損失(10〜15%)があります。3000mAh のスマートフォンを充電するのに必要な 5V 側の電荷は、3000 × 3.7 ÷ 5 ÷ 0.87 ≒ 2550mAh。6700 ÷ 2550 ≒ 2.6 回。「10000 ÷ 3000 = 3.3 回」にはなりません。

10000mAh モバイルバッテリの容量の内訳
段階電圧電荷エネルギー
セル(表記容量)3.7V10000mAh37Wh
5V 出力に換算5V7400mAh37Wh
昇圧の損失(効率 90%)5V6700mAh33.3Wh
スマートフォン側の充電損失(87%)3.7V7830mAh 相当29Wh
3000mAh のスマートフォンで約 2.6 回
10000mAh から 5V 出力で取り出せる電荷まで4 つの箱を矢印でつないだ流れ図。セルの 10000mAh・3.7V → 37Wh → 5V 換算 7400mAh → 昇圧効率 90% で 6700mAh。下に 3000mAh のスマートフォンを何回充電できるかの計算。 mAh は電圧を変えた時点で別の数字になる モバイルバッテリの表記容量と、USB 出力で取り出せる電荷 セルの表記 10000mAh 3.7V × 3.7V エネルギー 37Wh = 10Ah × 3.7V ÷ 5V 5V に換算 7400mAh = 37Wh ÷ 5V × 0.9 昇圧の損失 6700mAh 効率 90% 3000mAh のスマートフォンを充電すると 充電側でも 5V → セル電圧への変換損失(効率 87% 程度)がある。 1 回の充電に必要な 5V 側の電荷 = 3000 × 3.7 ÷ 5 ÷ 0.87 ≒ 2550mAh。 6700 ÷ 2550 ≒ 2.6 回。「10000 ÷ 3000 = 3.3 回」にはならない。
図1:10000mAh のモバイルバッテリが 5V 出力で 6700mAh になるまで。減っているのはエネルギーではなく、電圧が上がったぶんの電荷と、変換の損失。

LDO と DC-DC で稼働時間が変わる

電池で機器を動かすとき、電池の電圧を回路の電圧に変換する方式で稼働時間が変わります。

LDO(リニアレギュレータ)。入力電流 = 出力電流で、電圧差は熱になります。リチウムイオン(3.7V)から 3.3V を 50mA 取ると、電池から流れる電流も 50mA。3000mAh なら 60 時間。効率は 3.3 ÷ 3.7 = 89% ですが、電池が 4.2V のときは 79%、3.5V では 94% と変わります。

DC-DC(スイッチングコンバータ)。電力で変換するので、入力電流 = 出力電力 ÷ (入力電圧 × 効率)。同じ条件で効率 90% なら、電池から流れるのは 3.3 × 0.05 ÷ (3.7 × 0.9) = 49.5mA。LDO とほぼ同じです。

差が出るのは出力電圧が入力より大きく低いときです。3.7V から 1.8V を 50mA 取るなら、LDO は 50mA で 60 時間、DC-DC(90%)は 1.8 × 0.05 ÷ (3.7 × 0.9) = 27mA で 111 時間。約 2 倍です。逆に、3.7V から 3.3V のように電圧差が小さいときは、DC-DC の固定損失(数十 µA〜数 mA の自己消費)があるぶん、軽負荷では LDO のほうが長持ちすることもあります。

使えない容量:放電終止電圧

リチウムイオン電池の 3000mAh は、4.2V から 2.5〜3.0V まで放電したときの値です。しかし回路の LDO が 3.3V 出力でドロップアウト 0.3V なら、電池が 3.6V を切った時点で出力を保てません。3.6V 以下に残っている容量は使えないことになります。

リチウムイオンの放電曲線は 3.5〜3.9V に容量の大部分があり、3.6V 以下に残っているのは 2〜3 割です。つまり、終止電圧を 3.6V にした設計では、3000mAh のうち 2100〜2400mAh しか使えません。

対策は、回路の電圧を下げる(3.3V → 3.0V、あるいは 1.8V)、ドロップアウトの小さい LDO(0.1V 以下)を使う、昇降圧コンバータで 2.5V まで使い切る、のいずれかです。電池駆動の設計では、「何 V まで動くか」が稼働時間に直結します。

温度と放電電流でも減る

  • 低温。リチウムイオンは 0℃ で常温の 8 割程度、−20℃ で 5〜6 割の容量になります。内部抵抗も増えるので、大電流の負荷では電圧が落ちて早く終止に達します。
  • 放電電流。容量は 0.2C(5 時間率)程度で測られます。1C(1 時間率)で放電すると数 %、鉛蓄電池では 2 割以上減ります(ポイケルトの法則)。逆に微小電流では規定値より多く取り出せます。
  • パルス負荷とコイン電池。CR2032(225mAh、3V)の内部抵抗は 10〜40Ω で、無線モジュールが 30mA のパルスを引くと 0.3〜1.2V 落ちます。平均電流では十分でも、パルスで電圧が落ちてリセットがかかります。並列にコンデンサ(100µF 以上)を置いてパルスを供給させます。
  • 自己放電。リチウムイオンは月 2〜3%、ニッケル水素は月 15〜20%(低自己放電型は年 15%)、アルカリは年 2〜3%。年単位で放置する機器では、この分を稼働時間の計算に入れます。
  • 劣化。リチウムイオンは 500 サイクルで 8 割程度の容量になります。製品寿命の終わりでの稼働時間を保証するなら、初期容量の 7〜8 割で計算します。

計算機での見積もり

mAh→Wh の計算機で電池のエネルギーを出し、機器の消費電力(電圧 × 電流、変換効率込み)で割れば稼働時間の目安になります。そのうえで、使えない容量(終止電圧)、温度、劣化のぶんを掛けて、実際の稼働時間は目安の 5〜7 割と考えておくのが安全です。

充電の電気代は、電気料金の計算機で出せます。37Wh のモバイルバッテリを充電の損失込み 45Wh で満充電すると、1kWh = 31 円なら 1.4 円です。

よくある質問

mAh の大きい電池のほうが長持ちしますか。
同じ電圧なら、はい。電圧が違うなら Wh で比べてください。3000mAh のニッケル水素(1.2V、3.6Wh)より、1500mAh のリチウムイオン(3.7V、5.6Wh)のほうがエネルギーは多いです。
モバイルバッテリの「定格容量」と「容量」の違いは何ですか。
「容量」は内部セルの 3.7V での値、「定格容量」は USB 出力(5V)で実際に取り出せる値です。後者は変換損失込みで、前者の 6〜7 割になります。
電池駆動で LDO と DC-DC のどちらを使うべきですか。
出力電圧が入力の 7〜8 割以上(3.7V から 3.3V など)なら差は小さく、部品数とノイズの少ない LDO で構いません。出力が入力の半分以下(3.7V から 1.8V)なら DC-DC で稼働時間が 2 倍近く変わります。ただし待機電流が µA 級の機器では、DC-DC の自己消費が支配的になるので、低自己消費品を選ぶか LDO にします。
リチウムイオン電池を何 V まで使えますか。
セルの仕様では 2.5〜3.0V が放電終止電圧です。ただし回路がその電圧で動く必要があり、3.3V の LDO では 3.6V 前後が限界です。使い切りたければ昇降圧コンバータを使い、保護回路(過放電で遮断)の動作電圧と合わせます。

参考にした規格・資料

  • IEC 61960 — リチウム二次電池の容量測定条件(放電率・終止電圧)
  • IATA Dangerous Goods Regulations — リチウム電池の航空輸送の Wh による区分
  • 各電池メーカのデータシート — 放電曲線、温度特性、サイクル特性、自己放電率

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