バッテリの mAh と Wh:電圧が違うと比べられない

10000mAh のモバイルバッテリで 3000mAh のスマートフォンを 3 回充電できないのは、詐欺ではなく単位の問題です。10000mAh は 3.7V での値で、5V に変換して損失を引くと、充電できるのは 2 回分ほどです。

最終更新: 2026-10-28 バッテリmAhWh電池駆動

mAh は電荷、Wh はエネルギー

mAh は「何 mA を何時間流せるか」という電荷の量で、Wh は電圧を掛けたエネルギーです。Wh = Ah × V。3000mAh のリチウムイオン電池(公称 3.7V)は 11.1Wh、同じ 3000mAh でもニッケル水素(1.2V)なら 3.6Wh で、エネルギーは 1/3 です。

mAh で比べてよいのは同じ電圧の電池どうしだけで、mAh しかなければ公称電圧を掛けて Wh に直します。航空機の持ち込み制限も Wh で、100Wh 以下は制限なし、100〜160Wh は承認が要ります(3.7V なら 100Wh = 27,000mAh)。

電池の電荷量とエネルギーを比較するイメージ
電池の電荷量とエネルギーを比較するイメージ。概念を表すAI生成イラストです。実際の回路・条件は本文の図と説明を参照してください。

モバイルバッテリの 10000mAh はどこへ消えるか

容量表記は内部セルの 3.7V での値で、10000mAh × 3.7V = 37Wh。5V で出すと電荷は 37Wh ÷ 5V = 7400mAh です。減ったのではなく、電圧が上がったぶん電荷が減っています。昇圧コンバータの効率が 90% なら 37 × 0.9 ÷ 5 = 6700mAh です。

スマートフォン側にも降圧の損失(10〜15%)があり、3000mAh の充電に必要な 5V 側の電荷は 3000 × 3.7 ÷ 5 ÷ 0.87 ≒ 2550mAh。6700 ÷ 2550 ≒ 2.6 回で、10000 ÷ 3000 = 3.3 回にはなりません。

10000mAh モバイルバッテリの容量の内訳
段階電圧電荷エネルギー
セル(表記容量)3.7V10000mAh37Wh
5V 出力に換算5V7400mAh37Wh
昇圧の損失(効率 90%)5V6700mAh33.3Wh
スマートフォン側の充電損失(87%)3.7V7830mAh 相当29Wh
3000mAh のスマートフォンで—約 2.6 回—
10000mAh から 5V 出力で取り出せる電荷まで4 つの箱を矢印でつないだ流れ図。セルの 10000mAh・3.7V → 37Wh → 5V 換算 7400mAh → 昇圧効率 90% で 6700mAh。下に 3000mAh のスマートフォンを何回充電できるかの計算。 mAh は電圧を変えた時点で別の数字になる モバイルバッテリの表記容量と、USB 出力で取り出せる電荷 セルの表記 10000mAh 3.7V × 3.7V エネルギー 37Wh = 10Ah × 3.7V ÷ 5V 5V に換算 7400mAh = 37Wh ÷ 5V × 0.9 昇圧の損失 6700mAh 効率 90% 3000mAh のスマートフォンを充電すると 充電側でも 5V → セル電圧への変換損失(効率 87% 程度)がある。 1 回の充電に必要な 5V 側の電荷 = 3000 × 3.7 ÷ 5 ÷ 0.87 ≒ 2550mAh。 6700 ÷ 2550 ≒ 2.6 回。「10000 ÷ 3000 = 3.3 回」にはならない。
図1:10000mAh が 5V 出力で 6700mAh になるまで。

LDO と DC-DC で稼働時間が変わる

LDO(リニアレギュレータ)は入力電流 = 出力電流で、電圧差は熱になります。3.7V のリチウムイオンから 3.3V を 50mA 取ると電池からも 50mA で、3000mAh なら 60 時間です。

DC-DC(スイッチングコンバータ)は電力で変換し、入力電流 = 出力電力 ÷ (入力電圧 × 効率)。効率 90% なら 3.3 × 0.05 ÷ (3.7 × 0.9) = 49.5mA で、LDO とほぼ同じです。

差が出るのは出力電圧が入力より大きく低いときです。3.7V から 1.8V を 50mA 取ると、LDO は 60 時間、DC-DC(90%)は 1.8 × 0.05 ÷ (3.7 × 0.9) = 27mA で 111 時間と約 2 倍です。3.7V → 3.3V のように電圧差が小さいと、DC-DC の自己消費(数十 µA〜数 mA)で、軽負荷では LDO が長持ちすることもあります。

LDO と DC-DC の電池電流と稼働時間3.7V から 1.8V を 50mA 取る場合の棒グラフ。LDO は電池から 50mA で 60 時間、効率 90% の DC-DC は 27mA で 111 時間。 電圧差が大きいと、DC-DC は電池の電流を半分近くにできる 3.7V から 1.8V を 50mA 取る場合。電池は 3000mAh 電池から流れる電流 稼働時間 LDO 入力電流 = 出力電流、差は熱 50mA 60 時間 DC-DC(効率 90%) 入力電流 = 出力電力 ÷ (入力電圧 × 効率) 27mA 111 時間 3.7V から 3.3V では 50mA と 49.5mA で、ほぼ同じ。
図2:3.7V から 1.8V を 50mA 取るときの電池電流と稼働時間。

使えない容量:放電終止電圧

リチウムイオン電池の 3000mAh は、4.2V から 2.5〜3.0V まで放電したときの値です。3.3V 出力でドロップアウト 0.3V の LDO は、電池が 3.6V を切ると出力を保てず、3.6V 以下に残る容量は使えません。

容量の大部分は 3.5〜3.9V にあり、3.6V 以下に残るのは 2〜3 割です。終止電圧 3.6V の設計では、3000mAh のうち使えるのは 2100〜2400mAh です。

対策は、回路の電圧を下げる、ドロップアウトの小さい LDO(0.1V 以下)を使う、昇降圧コンバータで 2.5V まで使い切る、のどれかです。

放電曲線の模式図と終止電圧縦軸を電池電圧、横軸を放電した容量にしたリチウムイオン電池の放電曲線の模式図。4.2V から下がり、3.6V の線より下に容量の 2〜3 割が残る。3.3V の LDO(ドロップアウト 0.3V)ではその部分が使えない。 3.6V 以下に残る容量は、3.3V の LDO では使えない リチウムイオン電池の放電曲線(模式図) 4.2V 3.6V 3.3V + ドロップアウト 0.3V 2.5〜3.0V 放電した容量 → 電池電圧 使える 使えない 2〜3 割 3000mAh のうち 使えるのは 2100〜2400mAh (終止電圧を 3.6V にした場合)
図3:放電曲線の模式図。3.6V 以下の 2〜3 割は 3.3V の LDO では使えない。

温度と放電電流でも減る

  • 低温。0℃ で常温の 8 割程度、−20℃ で 5〜6 割の容量になり、内部抵抗も増えて早く終止に達します。
  • 放電電流。容量は 0.2C(5 時間率)程度で測られ、1C で数 %、鉛蓄電池では 2 割以上減ります(ポイケルトの法則)。
  • パルス負荷とコイン電池。CR2032(225mAh、3V)の内部抵抗は 10〜40Ω で、無線モジュールが 30mA のパルスを引くと 0.3〜1.2V 落ちてリセットがかかります。並列にコンデンサ(100µF 以上)を置きます。
  • 自己放電。リチウムイオンは月 2〜3%、ニッケル水素は月 15〜20%(低自己放電型は年 15%)、アルカリは年 2〜3%。
  • 劣化。リチウムイオンは 500 サイクルで 8 割程度になるので、寿命末期まで保証するなら初期容量の 7〜8 割で計算します。

計算機での見積もり

mAh→Wh の計算機で電池のエネルギーを出し、消費電力(変換効率込み)で割ると稼働時間の目安です。実際は使えない容量、温度、劣化で目安の 5〜7 割になります。充電の電気代は電気料金の計算機で出せます(45Wh で満充電、1kWh = 31 円なら 1.4 円)。

よくある質問

mAh の大きい電池のほうが長持ちしますか。
同じ電圧なら、はい。電圧が違うなら Wh で比べます。
モバイルバッテリの「定格容量」と「容量」の違いは何ですか。
「容量」は内部セルの 3.7V での値、「定格容量」は USB 出力(5V)で取り出せる値で、変換損失込みで前者の 6〜7 割です。
電池駆動で LDO と DC-DC のどちらを使うべきですか。
出力が入力の 7〜8 割以上(3.7V から 3.3V など)なら LDO で構いません。半分以下(3.7V から 1.8V)なら DC-DC で稼働時間が 2 倍近くになります。待機電流が µA 級の機器では DC-DC の自己消費が支配的です。
リチウムイオン電池を何 V まで使えますか。
セルの放電終止電圧は 2.5〜3.0V ですが、3.3V の LDO では 3.6V 前後が限界です。使い切るなら昇降圧コンバータを使い、保護回路の動作電圧に合わせます。

参考にした規格・資料

  • IEC 61960 — リチウム二次電池の容量測定条件(放電率・終止電圧)
  • IATA Dangerous Goods Regulations — リチウム電池の航空輸送の Wh による区分
  • 各電池メーカのデータシート — 放電曲線、温度特性、サイクル特性、自己放電率

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