バッテリの mAh と Wh:電圧が違うと比べられない
10000mAh のモバイルバッテリで 3000mAh のスマートフォンを 3 回充電できないのは、詐欺ではなく単位の問題です。10000mAh は 3.7V での値で、5V に変換して損失を引くと、充電できるのは 2 回分ほどです。
mAh は電荷、Wh はエネルギー
mAh は「何 mA を何時間流せるか」という電荷の量で、Wh は電圧を掛けたエネルギーです。Wh = Ah × V。3000mAh のリチウムイオン電池(公称 3.7V)は 11.1Wh、同じ 3000mAh でもニッケル水素(1.2V)なら 3.6Wh で、エネルギーは 1/3 です。
mAh で比べてよいのは同じ電圧の電池どうしだけで、mAh しかなければ公称電圧を掛けて Wh に直します。航空機の持ち込み制限も Wh で、100Wh 以下は制限なし、100〜160Wh は承認が要ります(3.7V なら 100Wh = 27,000mAh)。
モバイルバッテリの 10000mAh はどこへ消えるか
容量表記は内部セルの 3.7V での値で、10000mAh × 3.7V = 37Wh。5V で出すと電荷は 37Wh ÷ 5V = 7400mAh です。減ったのではなく、電圧が上がったぶん電荷が減っています。昇圧コンバータの効率が 90% なら 37 × 0.9 ÷ 5 = 6700mAh です。
スマートフォン側にも降圧の損失(10〜15%)があり、3000mAh の充電に必要な 5V 側の電荷は 3000 × 3.7 ÷ 5 ÷ 0.87 ≒ 2550mAh。6700 ÷ 2550 ≒ 2.6 回で、10000 ÷ 3000 = 3.3 回にはなりません。
| 段階 | 電圧 | 電荷 | エネルギー |
|---|---|---|---|
| セル(表記容量) | 3.7V | 10000mAh | 37Wh |
| 5V 出力に換算 | 5V | 7400mAh | 37Wh |
| 昇圧の損失(効率 90%) | 5V | 6700mAh | 33.3Wh |
| スマートフォン側の充電損失(87%) | 3.7V | 7830mAh 相当 | 29Wh |
| 3000mAh のスマートフォンで | — | 約 2.6 回 | — |
LDO と DC-DC で稼働時間が変わる
LDO(リニアレギュレータ)は入力電流 = 出力電流で、電圧差は熱になります。3.7V のリチウムイオンから 3.3V を 50mA 取ると電池からも 50mA で、3000mAh なら 60 時間です。
DC-DC(スイッチングコンバータ)は電力で変換し、入力電流 = 出力電力 ÷ (入力電圧 × 効率)。効率 90% なら 3.3 × 0.05 ÷ (3.7 × 0.9) = 49.5mA で、LDO とほぼ同じです。
差が出るのは出力電圧が入力より大きく低いときです。3.7V から 1.8V を 50mA 取ると、LDO は 60 時間、DC-DC(90%)は 1.8 × 0.05 ÷ (3.7 × 0.9) = 27mA で 111 時間と約 2 倍です。3.7V → 3.3V のように電圧差が小さいと、DC-DC の自己消費(数十 µA〜数 mA)で、軽負荷では LDO が長持ちすることもあります。
使えない容量:放電終止電圧
リチウムイオン電池の 3000mAh は、4.2V から 2.5〜3.0V まで放電したときの値です。3.3V 出力でドロップアウト 0.3V の LDO は、電池が 3.6V を切ると出力を保てず、3.6V 以下に残る容量は使えません。
容量の大部分は 3.5〜3.9V にあり、3.6V 以下に残るのは 2〜3 割です。終止電圧 3.6V の設計では、3000mAh のうち使えるのは 2100〜2400mAh です。
対策は、回路の電圧を下げる、ドロップアウトの小さい LDO(0.1V 以下)を使う、昇降圧コンバータで 2.5V まで使い切る、のどれかです。
温度と放電電流でも減る
- 低温。0℃ で常温の 8 割程度、−20℃ で 5〜6 割の容量になり、内部抵抗も増えて早く終止に達します。
- 放電電流。容量は 0.2C(5 時間率)程度で測られ、1C で数 %、鉛蓄電池では 2 割以上減ります(ポイケルトの法則)。
- パルス負荷とコイン電池。CR2032(225mAh、3V)の内部抵抗は 10〜40Ω で、無線モジュールが 30mA のパルスを引くと 0.3〜1.2V 落ちてリセットがかかります。並列にコンデンサ(100µF 以上)を置きます。
- 自己放電。リチウムイオンは月 2〜3%、ニッケル水素は月 15〜20%(低自己放電型は年 15%)、アルカリは年 2〜3%。
- 劣化。リチウムイオンは 500 サイクルで 8 割程度になるので、寿命末期まで保証するなら初期容量の 7〜8 割で計算します。
計算機での見積もり
mAh→Wh の計算機で電池のエネルギーを出し、消費電力(変換効率込み)で割ると稼働時間の目安です。実際は使えない容量、温度、劣化で目安の 5〜7 割になります。充電の電気代は電気料金の計算機で出せます(45Wh で満充電、1kWh = 31 円なら 1.4 円)。
よくある質問
mAh の大きい電池のほうが長持ちしますか。
モバイルバッテリの「定格容量」と「容量」の違いは何ですか。
電池駆動で LDO と DC-DC のどちらを使うべきですか。
リチウムイオン電池を何 V まで使えますか。
参考にした規格・資料
- IEC 61960 — リチウム二次電池の容量測定条件(放電率・終止電圧)
- IATA Dangerous Goods Regulations — リチウム電池の航空輸送の Wh による区分
- 各電池メーカのデータシート — 放電曲線、温度特性、サイクル特性、自己放電率