ガラスクロスが信号品質に与える影響:基板は均質ではない
εr = 4.3 と書いてある基板の中身は、εr = 6 のガラス束と εr = 3 の樹脂の織物です。0.5mm ピッチで交互に並ぶそれらの上を、0.15mm の配線が通ります。どこを通るかで速度が変わり、差動ペアの 2 本が違う場所を通ればスキューになります。
FR-4 は織物に樹脂を染み込ませたもの
FR-4 の絶縁層は、ガラス繊維を織ったクロスにエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグを積層したものです。ガラス(E ガラス)の比誘電率は 6 前後、エポキシ樹脂は 3 前後で、両方の体積比で平均した値がデータシートの「εr = 4.2〜4.5」です。
問題は、その平均値が基板のどこでも同じではないことです。クロスはガラス束(ヤーン)を縦横に織ったもので、束の交点は厚く、束と束の間(窓)は樹脂だけです。束の上では εr が高く(遅い)、窓の上では低く(速い)なります。
クロスの織りピッチは、種類(スタイル)で決まっています。基板でよく使うスタイルと、およそのピッチと厚みは次のとおりです。
| スタイル | 織りピッチ(縦 × 横) | プリプレグ 1 枚の厚み | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 106 | 約 0.45 × 0.45mm | 0.04〜0.05mm | 薄い。窓が広く、ばらつきが大きい |
| 1080 | 約 0.42 × 0.54mm | 0.06〜0.08mm | 薄い層構成でよく使う。窓が広い |
| 3313 | 約 0.42 × 0.41mm | 0.08〜0.09mm | 密に織られ、比較的均一 |
| 2116 | 約 0.42 × 0.44mm | 0.10〜0.12mm | 中間。標準的 |
| 7628 | 約 0.58 × 0.79mm | 0.17〜0.20mm | 厚い。束が太く、窓も広い |
どのスタイルも、束のピッチは 0.4〜0.8mm です。50Ω の線幅が 0.1〜0.35mm、差動ペアのピッチが 0.3〜0.6mm ですから、配線とクロスの寸法がほぼ同じスケールで、配線が束の上か窓の上かが偶然で決まります。
束の上と窓の上で、速度が数 % 違う
配線の直下の実効的な εr は、束の上で高く、窓の上で低くなります。差は材料と層構成によりますが、1080 や 106 のような窓の広いクロスで、実効 εr にして 0.3〜0.6(4.0 に対して 8〜15%)の差が報告されています。伝搬遅延は √εr に比例するので、遅延の差は 4〜7%、6.5ps/mm なら 0.25〜0.45ps/mm です。
配線が長くなるほど差は積み上がります。100mm なら 25〜45ps。よく引用される目安は「最悪で 10〜15ps/inch(0.4〜0.6ps/mm)」で、上の計算と合っています。
特性インピーダンスも同じ理由で場所によって変わります。束の上で低く、窓の上で高く、±2〜4Ω 程度。インピーダンス管理の ±10% の中には収まりますが、周期的な変動なので、その周期に対応する周波数で反射が重なります。数十 GHz の領域なので、通常のデジタル信号では無視できます。
配線 1 本だけならこの遅延差は問題になりません。基板ごとに数十 ps 遅延が違っても、クロックとデータが同じ基板を通っていれば相殺されるからです。問題になるのは、2 本の信号の間で差が出るときです。
差動ペアの片側だけが束に乗ると、スキューになる
差動ペアはピッチ 0.3〜0.6mm で 2 本を平行に引きます。クロスの束ピッチ 0.4〜0.5mm と近いので、片方が束の上、もう片方が窓の上を、ずっと平行に走ることが起きます。このとき 2 本の遅延差がそのままペア内スキューになります。
100mm で 30ps のスキューが出たとします。5Gbps(1 ビット 200ps)では 15% で、まだ許容範囲です。10Gbps(100ps)では 30% で、アイが目に見えて閉じます。PCIe Gen4(16GT/s、62.5ps)では 1 ビットの半分です。
スキューの害は 2 つあります。差動信号の一部がコモンモードに変わること(受信側の差動振幅が減り、コモンモードは EMI として放射する)と、信号の立ち上がりがなまること(2 本のエッジがずれて足されるため)です。
やっかいなのは、これが製造ロットごとに違うことです。配線とクロスの位置関係は、パネル上で基板をどこに置くかで変わるので、試作 1 枚で問題なくても量産で当たりはずれが出ます。
対策:束と平行に走らせない
対策の基本は、2 本が同じ条件を通るようにすること、あるいは 1 本の中で束と窓を平均させることです。効果の順に挙げます。
配線に角度をつける。束に対して 10° 以上の角度で配線すると、1 本の配線が束と窓を交互に通り、平均化されます。差動ペアの 2 本も同じ平均を見ます。方法は 2 つあり、基板全体をパネル上で 10〜15° 回転して製造してもらう(パネルの取り数が減るので費用が上がる)か、配線をジグザグに引く(配線面積を食う)かです。
開繊クロス(スプレッドグラス)を使う。束を平らに広げて窓をなくしたクロス(1078、1067、3313 の開繊品など。メーカによって MS、SI などの記号)は、εr の場所ごとの差が小さくなります。追加費用はわずかで、10Gbps 級の基板では標準になりつつあります。
厚いクロス 1 枚より、薄いクロス 2 枚。2116 を 1 枚使う代わりに 1080 を 2 枚重ねると、2 枚の織りの位置がずれて平均化されます。層構成の指定で「同じ厚みなら 2 枚構成」と書きます。
差動ペアのピッチを織りピッチに合わせる。ペアのピッチを束のピッチと同じにすれば、片方が束の上のとき、もう片方も束の上に来ます。クロスの種類に依存するので、メーカと層構成を確定してから使える手です。
低 Dk ガラス。NE ガラスなど εr の低いガラス(4.4 前後)を使った材料は、ガラスと樹脂の差が小さく、ウィーブ効果そのものが小さくなります。低損失材と組み合わせて、25Gbps 以上で使われます。
どこから気にするか
目安は「ビットレート × 配線長」です。スキューが 1 ビットの 10% を超えると影響が見え始めるとして、最悪 0.5ps/mm で計算すると、許容配線長は 1 ビット時間の 0.1 ÷ 0.5 = 1 ビット時間 [ps] × 0.2 [mm] です。
5Gbps(200ps)なら 40mm、10Gbps(100ps)なら 20mm、16GT/s(62.5ps)なら 12mm。これより長い配線では、対策のどれかを入れるか、受信側のスキュー補償(多くの SerDes が持つ)に頼ることになります。
逆に、USB 2.0(480Mbps、2ns)、1Gbps Ethernet、DDR3 のような信号では、100mm でも 1 ビットの 2〜5% にしかならず、ウィーブ効果を気にする必要はありません。「差動ペアは全部角度をつけて引く」というルールは、その基板の信号速度で本当に要るかを先に確かめてください。
パターン長→遅延時間で配線の遅延を出し、その 5% を最悪スキューの目安として、1 ビット時間と比べるのが手軽な確認方法です。
よくある質問
基板メーカに何と伝えればよいですか。
シミュレーションで予測できますか。
シングルエンドの信号でも問題になりますか。
角度は 10° で足りますか。
参考にした規格・資料
- IPC-4412 — プリント基板用ガラスクロスの仕様。スタイルごとの織り密度と厚み
- Intel, "Fiber Weave Effect" 関連の設計ガイド/白書 — 差動スキューの測定値と角度配線の推奨
- Isola / Panasonic など基材メーカの技術資料 — 開繊クロス・低 Dk ガラスの特性
- IPC-2141A — 伝搬遅延と実効比誘電率の計算