ガラスクロスが信号品質に与える影響:基板は均質ではない

εr = 4.3 と書いてある基板の中身は、εr = 6 のガラス束と εr = 3 の樹脂の織物です。0.5mm ピッチで並ぶその上を 0.15mm の配線が通り、差動ペアの 2 本が違う場所を通るとスキューになります。

最終更新: 2026-10-28 ガラスクロスファイバーウィーブ差動スキュー高速信号

FR-4 は織物に樹脂を染み込ませたもの

FR-4 の絶縁層は、ガラス繊維を織ったクロスにエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグです。ガラス(E ガラス)の比誘電率は 6 前後、エポキシ樹脂は 3 前後で、体積比の平均が「εr = 4.2〜4.5」です。

問題は、その平均値が基板のどこでも同じではないことです。クロスはガラス束(ヤーン)を縦横に織ったもので、束の間(窓)は樹脂だけです。束の上では εr が高く(遅い)、窓の上では低く(速い)なります。織りピッチはスタイルで決まります。

ガラスクロスの主なスタイル(値はメーカや樹脂含有率で変わる)
スタイル織りピッチ(縦 × 横)プリプレグ 1 枚の厚み特徴
106約 0.45 × 0.45mm0.04〜0.05mm薄い。窓が広い
1080約 0.42 × 0.54mm0.06〜0.08mm薄層でよく使う。窓が広い
3313約 0.42 × 0.41mm0.08〜0.09mm密に織られ、比較的均一
2116約 0.42 × 0.44mm0.10〜0.12mm中間。標準的
7628約 0.58 × 0.79mm0.17〜0.20mm厚い。束も窓も大きい

どのスタイルも束のピッチは 0.4〜0.8mm です。50Ω の線幅は 0.1〜0.35mm、差動ペアのピッチは 0.3〜0.6mm なので、配線とクロスはほぼ同じスケールで、束の上か窓の上かは偶然です。

ガラス繊維の織り目と基板配線
ガラス繊維の織り目と基板配線。概念を表すAI生成イラストです。実際の回路・条件は本文の図と説明を参照してください。

束の上と窓の上で、速度が数 % 違う

配線の直下の実効 εr は、束の上で高く窓の上で低くなります。窓の広い 1080 や 106 では、実効 εr で 0.3〜0.6(4.0 に対して 8〜15%)の差が報告されています。伝搬遅延は √εr に比例するので遅延の差は 4〜7%で、6.5ps/mm なら 0.25〜0.45ps/mm、100mm で 25〜45ps です。

特性インピーダンスも ±2〜4Ω 程度変わりますが、反射は数十 GHz の領域で、通常のデジタル信号では無視できます。

1 本だけなら問題になりません。クロックとデータが同じ基板を通れば相殺されます。問題は 2 本の間の差です。

ガラス束の上と窓の上の速度差と、配線長に対する遅延差左は配線に沿った断面で、ガラス束の上は εr が高く遅く、樹脂だけの窓の上は εr が低く速い。右は配線長に対する遅延差で、100mm で 25〜45ps に達する。 束の上と窓の上では、伝搬速度が違う 左は配線に沿った断面。配線の直下の材料で、実効 εr が変わる 束の上:遅い εr が高い 窓の上:速い εr が低い GND プレーン 配線 ガラス束(εr 6 前後) 樹脂だけの窓(εr 3 前後) 実効 εr の差 0.3〜0.6 → 遅延の差 4〜7% 1080 や 106 のような窓の広いクロスでの報告値 配線長と遅延差 0 50 100mm 45ps 25ps 0.45ps/mm 0.25ps/mm 長いほど差が積み上がる 遅延差 [ps]
図1:配線の直下が束か窓かで速度が変わり、差は配線長に比例して積み上がる。

差動ペアの片側だけが束に乗ると、スキューになる

差動ペアはピッチ 0.3〜0.6mm で 2 本を平行に引くので、束ピッチ 0.4〜0.5mm と近く、片方が束の上、もう片方が窓の上をずっと平行に走ることが起きます。このとき遅延差がそのままペア内スキューになります。

100mm で 30ps のスキューなら、5Gbps(1 ビット 200ps)で 15% と許容範囲、10Gbps(100ps)で 30% とアイが閉じ、PCIe Gen4(16GT/s、62.5ps)では 1 ビットの半分です。

スキューの害は、差動信号の一部がコモンモードに変わること(受信側の振幅が減り、EMI にもなる)と、エッジがなまることです。

やっかいなのは製造ロットごとに違うことです。位置関係はパネル上の置き場所で変わり、試作で問題なくても量産で当たりはずれが出ます。

ガラスクロスの上を通る差動ペアと、受端でのスキュー上から見たガラスクロスの織り目(縦横の束と、その間の樹脂の窓)に、束と平行な差動ペアと 10° 傾けた差動ペアを重ねた図。右に、束の上を通った線と窓の上を通った線の受端エッジがずれている波形。 束と平行に引くと、2 本が別の条件を通り続ける 上から見たクロスの織り目(束ピッチ 0.4〜0.5mm)と、その上の差動ペア 束の上(遅い) 窓の上(速い) 10° 傾けたペア:両方が平均を見る 茶:ガラス束 薄緑:樹脂だけの窓 束ピッチ 受端でのエッジ スキュー 30ps 時間 → 100mm で 25〜45ps のスキュー。 10Gbps なら 1 ビットの 3〜4 割。
図2:片方が束の上、もう片方が窓の上を走り続ける様子と、10° 傾けて平均化した様子。

対策:束と平行に走らせない

対策の基本は、2 本が同じ条件を通るか、1 本の中で束と窓を平均させることです。

配線に角度をつける。束に対して 10° 以上傾けると、配線が束と窓を交互に通って平均化され、ペアの 2 本も同じ平均を見ます。基板ごと 10〜15° 回転して製造してもらう(取り数が減り費用が上がる)か、配線をジグザグに引く(面積を食う)かです。

開繊クロス(スプレッドグラス)を使う。束を平らに広げて窓をなくしたクロス(1078、1067、3313 の開繊品など)は、εr の場所ごとの差が小さくなります。追加費用はわずかで、10Gbps 級では標準になりつつあります。

薄いクロスを 2 枚重ねる。2116 1 枚の代わりに 1080 を 2 枚重ねると、織りがずれて平均化されます。

ペアのピッチを束のピッチに合わせる。片方が束の上ならもう片方も束の上に来ます(クロスの種類に依存し、層構成の確定後に使える)。

低 Dk ガラス。NE ガラスなど εr の低いガラス(4.4 前後)は樹脂との差が小さく、ウィーブ効果自体が小さくなります。25Gbps 以上で低損失材と組み合わせて使われます。

どこから気にするか

スキューが 1 ビットの 10% を超えると影響が見え始めるとして、最悪 0.5ps/mm で計算すると、許容配線長は 1 ビット時間 [ps] × 0.2mm です。5Gbps で 40mm、10Gbps で 20mm、16GT/s で 12mm で、これより長ければ対策を入れるか、受信側のスキュー補償(多くの SerDes が持つ)に頼ります。

逆に、USB 2.0(480Mbps、2ns)、1Gbps Ethernet、DDR3 のような信号は、100mm でも 1 ビットの 2〜5% にしかならず、気にする必要はありません。「差動ペアは全部角度をつける」は、速度に見合うかを先に確かめてください。

パターン長→遅延時間で出した遅延の 5% が、最悪スキューの目安です。

ビットレートごとの許容配線長許容配線長は 1 ビット時間 [ps] × 0.2mm。5Gbps は 40mm、10Gbps は 20mm、16GT/s は 12mm。USB 2.0 などは 100mm でも 1 ビットの 2〜5% で気にしなくてよい。 どこから気にするか:許容配線長は 1 ビット時間で決まる スキューが 1 ビットの 10% を超えると影響が見え始める。最悪 0.5ps/mm で計算 許容配線長 [mm] = 1 ビット時間 [ps] × 0.2 5Gbps 1 ビット 200ps 40mm 10Gbps 1 ビット 100ps 20mm 16GT/s 1 ビット 62.5ps 12mm これより長い配線は対策が要る USB 2.0 など 480Mbps は 1 ビット 2ns 1Gbps Ethernet、DDR3 も、100mm で 1 ビットの 2〜5%。気にしなくてよい 長い配線は、対策を入れるか、受信側のスキュー補償(多くの SerDes が持つ)に頼る。
図3:許容配線長は 1 ビット時間 [ps] × 0.2mm。

よくある質問

基板メーカに何と伝えればよいですか。
「高速差動信号あり、ウィーブ効果対策として開繊クロス(またはクロス 2 枚構成)を希望」と伝えれば通じます。角度回転なら「パネル上で 10° 回転」と書きます。
シミュレーションで予測できますか。
位置関係がロットごとに違うので、予測できません。最悪ケース(片方が束、片方が窓)のスキューを、受信側の許容量と比べます。多くの SerDes は 1 ビットの数十 % まで補償できます。
シングルエンドの信号でも問題になりますか。
クロックとデータのように到着時刻を揃える場合は問題になりえますが、平行に走る信号群はたいてい同じ条件を通るので、差動ペアほど極端な差は出にくいです。DDR のバイトレーンで数 ps の等長を詰めているなら、影響することがあります。
角度は 10° で足りますか。
10° で配線 3mm ごとに束を 1 本横切る計算(0.5mm ÷ tan10°)で、数十 mm なら十分に平均化されます。文献の推奨は 7〜15° です。

参考にした規格・資料

  • IPC-4412 — プリント基板用ガラスクロスの仕様。スタイルごとの織り密度と厚み
  • Intel, "Fiber Weave Effect" 関連の設計ガイド/白書 — 差動スキューの測定値と角度配線の推奨
  • Isola / Panasonic など基材メーカの技術資料 — 開繊クロス・低 Dk ガラスの特性
  • IPC-2141A — 伝搬遅延と実効比誘電率の計算

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