マイクロストリップの線幅は、層構成が決めている
「50Ωにしたいので線幅を教えてください」という質問には答えられません。線幅は、その線の下にある絶縁層の厚みで決まります。層構成が決まって初めて線幅が決まり、しかもその線幅は基板メーカが最終的に調整します。
線幅を決めているのは、線の下の絶縁層
表層に引いたパターンと、そのすぐ下のGNDプレーンの組み合わせがマイクロストリップ線路です。特性インピーダンスを決める要素は4つあります。パターンの幅 w、パターンの厚み t、プレーンまでの絶縁層の厚み h、そして絶縁層の比誘電率 εr です。
このうち設計者が自由に選べるのは w だけで、t は銅箔厚(1oz なら 35µm 前後、めっき後は 40〜50µm)、h と εr は層構成で決まります。同じ 50Ω でも、h が 0.2mm なら w は 0.35mm 前後、h が 0.1mm なら 0.15mm 前後、h が 0.075mm なら 0.1mm 前後になります。h が半分になれば、必要な線幅もほぼ半分です。
つまり、線幅を決める前に「この基板の表層と第2層の間は何mmか」を決めなければいけません。逆に言えば、線幅を先に決めて層構成をあとから変えると、インピーダンスは大きく外れます。
4層 1.6mm の「標準構成」で何が起きているか
基板メーカに「4層 1.6mm」とだけ指定すると、多くの場合は表層〜第2層の絶縁層が 0.2mm 前後の構成になります。中央にコア材(1.0〜1.2mm)を置き、その両側にプリプレグを1〜2枚重ねて表層の銅箔を貼るからです。プリプレグの厚みは 1080 で約 0.07mm、2116 で約 0.11mm、7628 で約 0.19mm が目安で、どれを何枚使うかはメーカが自社の在庫と工程で決めます。
この構成で 50Ω を出そうとすると、線幅は 0.35mm 前後になります。差動 100Ω なら、線幅 0.2mm・ギャップ 0.2mm 程度です。0.5mm ピッチの QFP や 0.8mm ピッチの BGA から 0.35mm の線を引き出すことはできないので、高速信号を扱う基板では「標準構成」をそのまま使えないことが多いです。
表層〜第2層を 0.1mm 以下に薄くすれば、50Ω の線幅は 0.15mm 以下まで細くなり、細ピッチ部品からの引き出しに困らなくなります。そのかわり、内層の絶縁層が厚くなって全体で 1.6mm に収める構成になります。メーカによっては層構成の標準品として「インピーダンス対応の4層」を用意しているので、それを最初から指定するのが早道です。
| 絶縁層の厚み h | 50Ω の線幅 w | 引き出せる部品ピッチの目安 |
|---|---|---|
| 0.20mm | 約 0.35mm | 1.27mm ピッチまで |
| 0.15mm | 約 0.25mm | 1.0mm ピッチまで |
| 0.10mm | 約 0.15mm | 0.8mm ピッチまで |
| 0.075mm | 約 0.10mm | 0.5〜0.65mm ピッチ |
近似式の値と、メーカが電磁界ソルバで出す値は数 % ずれます。線幅を決めるときは近似式で当たりをつけ、最終的な線幅はメーカの計算に合わせるのが手順です。
製造ばらつきで、インピーダンスはどれだけ動くか
設計で 50Ω と計算しても、できあがった基板は 50Ω ちょうどにはなりません。動く要因は主に3つです。
絶縁層の厚み。プリプレグは加熱加圧で樹脂が流れるので、厚みは公称に対して ±10% 程度ばらつきます。h が 0.1mm で ±0.01mm 動くと、インピーダンスは ±2〜3Ω 動きます。
線幅。エッチングで設計値より細くなる方向に、±0.02mm 程度の誤差が乗ります。線幅 0.15mm に対して 0.02mm は 13% で、インピーダンスにすると ±3Ω 前後です。線幅が細い構成ほど、この影響が大きくなります。
比誘電率。FR-4 の εr は材料・ガラス布の含有率・周波数で 4.0〜4.7 の幅があります。±0.2 の違いでインピーダンスは ±1Ω 程度です。周波数が上がると εr は下がる(1GHz で 4.2 前後、10GHz で 4.0 前後)ので、どの周波数の値で計算したかも確認が要ります。
これらを合わせると、管理なしで作った基板の 50Ω 線は 45〜55Ω の範囲でばらつくと考えておくのが安全です。メーカに「インピーダンス管理」を依頼すると、メーカは試作クーポンを測定して線幅とプリプレグを調整し、±10%(±5Ω)を保証します。±7%、±5% は追加費用で対応するメーカもあります。
レジストも効きます。表層のパターンにソルダーレジスト(εr≒3.5〜4)を塗ると、インピーダンスは 2〜3Ω 下がります。メーカの計算はレジスト込みなので、自分で近似式を使うときは「レジストなしの値から数 Ω 引く」と覚えておいてください。
メーカへの依頼は「線幅」ではなく「インピーダンス」で書く
インピーダンス管理を依頼するときの基本は、設計の線幅を絶対値として渡すのではなく、目標のインピーダンスを渡すことです。メーカは自社の材料と工程で線幅を微調整するので、こちらが 0.15mm で設計した線を 0.16mm に変えることがあります。
依頼票には次を書きます。
対象のネット(信号名かレイヤとクラス)、目標インピーダンスと許容差(例:50Ω ±10%、差動 100Ω ±10%)、設計での線幅とギャップ、対象のレイヤと参照プレーンのレイヤ。層構成はメーカの提案を受け、絶縁層の厚みと材料名が入った層構成図を戻してもらいます。この層構成図がないと、次の改版で再現できません。
差動線路では、ペアを同じレイヤに引き、ギャップを一定に保つこと、線幅とギャップを CAD のデザインルールで固定しておくことが前提です。メーカが線幅を変える場合、ギャップも連動して変わるので、隣接パターンとのクリアランスに余裕を持たせておきます。
- 参照プレーンが途切れていないか。プレーンのスリットや大きな穴の上を線が横切ると、そこだけインピーダンスが跳ね上がります。管理してもらったインピーダンスが意味を失います。
- 線幅を途中で変えていないか。細ピッチ部品の直下だけ線幅を絞る場合、短ければ(数 mm 以下)影響は小さいですが、絞った区間が長いと不連続点になります。
- ビアの前後で参照プレーンが変わっていないか。表層から内層へ移るとき、参照している GND が変わるとリターン経路が切れます。近くに GND ビアを置きます。
手計算と計算機の使い分け
当サイトの特性インピーダンス計算機は、層構成から線幅の当たりをつける用途です。精度は近似式なりで、細い線(w/h が 1 以下)や厚い銅箔では数 % ずれます。
最終値はメーカに任せる前提であれば、この精度で十分です。むしろ大事なのは、層構成を変えたときに線幅がどれだけ動くか、ばらつきでどれだけ外れうるかを感覚として持っておくことで、そのために h や εr を振って何度か計算してみてください。
電磁界ソルバが必要になるのは、数 GHz を超える信号で損失まで含めて詰めたいとき、レジストや銅箔の粗さの影響まで見たいときです。そこまでの精度が要る設計では、材料も FR-4 ではなく低損失材(Megtron、Rogers など)を検討する段階です。
よくある質問
50Ω の線幅を教えてください。
インピーダンス管理を依頼しないと、どのくらい外れますか。
設計した線幅をメーカが勝手に変えるのは問題ないのですか。
内層(ストリップライン)でも同じ考え方ですか。
参考にした規格・資料
- IPC-2141A — 伝送線路のインピーダンス計算式(マイクロストリップ・ストリップライン)
- IPC-2221B / IPC-2222 — リジッド基板の設計標準。層構成と導体の一般要件
- IPC-4101 — 積層板・プリプレグの材料仕様。厚みと εr の公称値