表皮効果は何 MHz から効くか:1oz の銅箔で考える
「高周波では電流が表面にしか流れない」は正しいですが、その「高周波」が何 MHz なのかは導体の厚みで決まります。基板の 1oz 銅箔なら 4MHz 前後、電源の巻線なら 100kHz で効き始めます。
表皮深さは √f に反比例する
導体に交流を流すと、電流は表面に集中し、深さとともに指数関数的に減ります。電流密度が表面の 1/e(37%)になる深さを表皮深さ δ と呼び、δ = √(ρ ÷ (π·f·µ)) で決まります。銅(ρ = 1.72×10⁻⁸ Ω·m)では δ ≒ 66 ÷ √f [mm](f は Hz)です。
周波数が 4 倍になると δ は半分になります。50Hz で 9.3mm、100kHz で 0.21mm、1MHz で 66µm、10MHz で 21µm、100MHz で 6.6µm、1GHz で 2.1µm です。
表皮効果が「効く」かどうかは、この δ と導体の厚み(または線の半径)の比で決まります。厚みが δ より薄ければ、電流は断面全体に流れ、表皮効果は無視できます。厚みが δ の数倍を超えると、内部が使われなくなり、実効的な断面積が減って抵抗が増えます。
| 周波数 | 表皮深さ δ | 比較対象 |
|---|---|---|
| 50Hz | 9.3mm | 電力ケーブルの太さ |
| 10kHz | 0.66mm | φ1.2mm の巻線で効き始める |
| 100kHz | 0.21mm | スイッチング電源の巻線 |
| 1MHz | 66µm | 2oz 銅箔(70µm) |
| 4MHz | 33µm | 1oz 銅箔(35µm) |
| 100MHz | 6.6µm | 銅箔の表面粗さと同程度 |
| 1GHz | 2.1µm | 表面粗さより小さい |
1oz の銅箔なら 4MHz が境目
基板の 1oz 銅箔は 35µm です。δ = 35µm になる周波数は (66 ÷ 0.035)² ≒ 3.6MHz。ここから上で、パターンの交流抵抗が直流抵抗より大きくなり始めます。
ただし急に変わるわけではありません。δ が厚みの 1/2 になる 14MHz あたりで交流抵抗は直流の 1.3 倍程度、1/5 になる 90MHz で 2.5 倍程度、1GHz で δ = 2.1µm なので 35 ÷ 2.1 ≒ 8 倍前後(マイクロストリップでは電流がプレーン側の面に偏るので、実際はこれより悪い)です。
何が言えるかというと、数十 MHz 以下のパターンで表皮効果を気にする必要はないということです。電源パターンの電圧降下、モータ駆動、オーディオ、数 MHz の SPI や I²C では、直流抵抗で計算して問題ありません。逆に、100MHz を超える信号では抵抗が数倍になり、伝送線路の損失として効いてきます。
スイッチング電源の巻線では 100kHz で効く
基板より先に表皮効果に出会うのは、トランスやインダクタの巻線です。100kHz で δ = 0.21mm なので、直径 0.4mm を超える線では内部が使われなくなります。1mm の線を使っても、実効断面積は表面から 0.21mm の環状部分だけで、φ1.0mm の断面 0.785mm² に対して 0.52mm² 程度しか働きません。
対策は、細い線を絶縁したまま束ねたリッツ線か、平角線・銅箔を巻く方法です。プレーナトランス(基板パターンで巻線を作る)が 1oz や 2oz の銅箔で成立するのは、厚みが δ より薄くて表皮効果の影響を受けにくいからです。
近接効果も同時に起きます。隣り合う巻線の磁界が互いの電流分布を偏らせ、層を重ねるほど損失が増えます。100kHz を超えるトランス設計では、表皮効果よりこちらのほうが支配的になることが多く、巻線の層数とインターリーブで対策します。
GHz 帯では銅箔の「粗さ」が損失を倍にする
1GHz で δ は 2.1µm です。一方、基板の銅箔は樹脂との密着のために裏面を粗らしてあり、標準的な銅箔の粗さ(Rz)は 3〜8µm あります。電流が流れる深さより凹凸のほうが大きいので、電流は凹凸に沿って迂回し、平滑な面に比べて経路が伸びます。
Hammerstad の近似では、粗さが δ と同程度のときに損失は 1.6 倍程度、δ より十分大きいと 2 倍に飽和します。つまり GHz 帯では、同じ線幅でも銅箔の種類で損失が 2 倍違います。低粗度銅箔(VLP、HVLP)が高速基板向けに使われるのはこのためで、材料の εr や tanδ と同じくらい効きます。
損失の内訳としては、FR-4 では 1GHz 付近で導体損失と誘電損失が同程度になり、それより上では誘電損失(周波数に比例)が導体損失(√f に比例)を上回ります。10GHz を超える設計で低損失材が必要になるのは誘電損失のためで、粗さ対策と両方が要ります。
計算機で確認すること
表皮効果の計算機で周波数から δ を出し、使う導体の厚み(oz→厚み)と比べてください。δ が厚みより大きければ直流抵抗のまま、小さければ交流抵抗の増加を見積もります。
実務での判断は次の 3 段階です。δ ≧ 厚み なら無視。厚み ÷ δ が 2〜5 なら抵抗が 1.3〜2.5 倍で、電源効率や損失予算に入れる。厚み ÷ δ が 10 を超えるなら、伝送線路の損失として扱い、線幅・材料・粗さを設計要素に入れる。
よくある質問
表皮効果で抵抗はどのくらい増えますか。
2oz の銅箔にすれば高周波の損失は減りますか。
銅の表面に金や錫のめっきがあると影響しますか。
電力用の平角銅バーは何 Hz から表皮効果を考えますか。
参考にした規格・資料
- H. W. Johnson, M. Graham, High-Speed Signal Propagation — 表皮効果・近接効果・表面粗さと損失の関係
- E. Hammerstad, Ø. Jensen (1980) — 銅箔の表面粗さによる導体損失の増加の近似式
- IPC-4562 — 銅箔の種類と表面粗さの分類(標準・低粗度など)