表皮効果は何 MHz から効くか:1oz の銅箔で考える

「高周波では電流が表面にしか流れない」は正しいですが、その「高周波」が何 MHz なのかは導体の厚みで決まります。基板の 1oz 銅箔なら 4MHz 前後、電源の巻線なら 100kHz で効き始めます。

最終更新: 2026-09-14 表皮効果銅箔厚高周波損失

表皮深さは √f に反比例する

導体に交流を流すと、電流は表面に集中し、深さとともに指数関数的に減ります。電流密度が表面の 1/e(37%)になる深さを表皮深さ δ と呼び、δ = √(ρ ÷ (π·f·µ)) で決まります。銅(ρ = 1.72×10⁻⁸ Ω·m)では δ ≒ 66 ÷ √f [mm](f は Hz)です。

周波数が 4 倍になると δ は半分になります。50Hz で 9.3mm、100kHz で 0.21mm、1MHz で 66µm、10MHz で 21µm、100MHz で 6.6µm、1GHz で 2.1µm です。

表皮効果が「効く」かどうかは、この δ と導体の厚み(または線の半径)の比で決まります。厚みが δ より薄ければ、電流は断面全体に流れ、表皮効果は無視できます。厚みが δ の数倍を超えると、内部が使われなくなり、実効的な断面積が減って抵抗が増えます。

銅の表皮深さ
周波数表皮深さ δ比較対象
50Hz9.3mm電力ケーブルの太さ
10kHz0.66mmφ1.2mm の巻線で効き始める
100kHz0.21mmスイッチング電源の巻線
1MHz66µm2oz 銅箔(70µm)
4MHz33µm1oz 銅箔(35µm)
100MHz6.6µm銅箔の表面粗さと同程度
1GHz2.1µm表面粗さより小さい

1oz の銅箔なら 4MHz が境目

基板の 1oz 銅箔は 35µm です。δ = 35µm になる周波数は (66 ÷ 0.035)² ≒ 3.6MHz。ここから上で、パターンの交流抵抗が直流抵抗より大きくなり始めます。

ただし急に変わるわけではありません。δ が厚みの 1/2 になる 14MHz あたりで交流抵抗は直流の 1.3 倍程度、1/5 になる 90MHz で 2.5 倍程度、1GHz で δ = 2.1µm なので 35 ÷ 2.1 ≒ 8 倍前後(マイクロストリップでは電流がプレーン側の面に偏るので、実際はこれより悪い)です。

何が言えるかというと、数十 MHz 以下のパターンで表皮効果を気にする必要はないということです。電源パターンの電圧降下、モータ駆動、オーディオ、数 MHz の SPI や I²C では、直流抵抗で計算して問題ありません。逆に、100MHz を超える信号では抵抗が数倍になり、伝送線路の損失として効いてきます。

銅の表皮深さと周波数、銅箔厚との交点両対数グラフ。横軸 10kHz〜10GHz、縦軸 1µm〜1mm。表皮深さの曲線と、0.5oz・1oz・2oz の銅箔厚の水平線を重ね、1oz との交点 3.6MHz を示す。 表皮深さが銅箔厚を下回る周波数から、表皮効果が効く δ = 66 ÷ √f [mm](銅、20℃) 10kHz100kHz1MHz10MHz100MHz1GHz10GHz 1µm10µm100µm1mm 表皮深さ δ 周波数 δ(銅) 1oz = 35µm 2oz = 70µm 0.5oz = 18µm 1oz との交点:約 3.6MHz ← 直流抵抗のまま 交流抵抗が増える →
図1:銅の表皮深さ δ = 66/√f [mm]。1oz(35µm)の銅箔では約 3.6MHz で δ が厚みと等しくなり、それより上で交流抵抗が増え始める。

スイッチング電源の巻線では 100kHz で効く

基板より先に表皮効果に出会うのは、トランスやインダクタの巻線です。100kHz で δ = 0.21mm なので、直径 0.4mm を超える線では内部が使われなくなります。1mm の線を使っても、実効断面積は表面から 0.21mm の環状部分だけで、φ1.0mm の断面 0.785mm² に対して 0.52mm² 程度しか働きません。

対策は、細い線を絶縁したまま束ねたリッツ線か、平角線・銅箔を巻く方法です。プレーナトランス(基板パターンで巻線を作る)が 1oz や 2oz の銅箔で成立するのは、厚みが δ より薄くて表皮効果の影響を受けにくいからです。

近接効果も同時に起きます。隣り合う巻線の磁界が互いの電流分布を偏らせ、層を重ねるほど損失が増えます。100kHz を超えるトランス設計では、表皮効果よりこちらのほうが支配的になることが多く、巻線の層数とインターリーブで対策します。

GHz 帯では銅箔の「粗さ」が損失を倍にする

1GHz で δ は 2.1µm です。一方、基板の銅箔は樹脂との密着のために裏面を粗らしてあり、標準的な銅箔の粗さ(Rz)は 3〜8µm あります。電流が流れる深さより凹凸のほうが大きいので、電流は凹凸に沿って迂回し、平滑な面に比べて経路が伸びます。

Hammerstad の近似では、粗さが δ と同程度のときに損失は 1.6 倍程度、δ より十分大きいと 2 倍に飽和します。つまり GHz 帯では、同じ線幅でも銅箔の種類で損失が 2 倍違います。低粗度銅箔(VLP、HVLP)が高速基板向けに使われるのはこのためで、材料の εr や tanδ と同じくらい効きます。

損失の内訳としては、FR-4 では 1GHz 付近で導体損失と誘電損失が同程度になり、それより上では誘電損失(周波数に比例)が導体損失(√f に比例)を上回ります。10GHz を超える設計で低損失材が必要になるのは誘電損失のためで、粗さ対策と両方が要ります。

計算機で確認すること

表皮効果の計算機で周波数から δ を出し、使う導体の厚み(oz→厚み)と比べてください。δ が厚みより大きければ直流抵抗のまま、小さければ交流抵抗の増加を見積もります。

実務での判断は次の 3 段階です。δ ≧ 厚み なら無視。厚み ÷ δ が 2〜5 なら抵抗が 1.3〜2.5 倍で、電源効率や損失予算に入れる。厚み ÷ δ が 10 を超えるなら、伝送線路の損失として扱い、線幅・材料・粗さを設計要素に入れる。

よくある質問

表皮効果で抵抗はどのくらい増えますか。
導体の厚み t が表皮深さ δ より十分大きいとき、実効的な厚みは δ 程度になるので、抵抗はおよそ t ÷ δ 倍です。1oz(35µm)で 100MHz(δ = 6.6µm)なら 5 倍前後。片面だけに電流が集中するマイクロストリップではさらに悪化します。t が δ 以下ならほぼ増えません。
2oz の銅箔にすれば高周波の損失は減りますか。
表皮効果が効いている周波数(1oz で数十 MHz 以上)では、電流が表面にしか流れないので、厚くしても交流抵抗はほとんど変わりません。厚くして減るのは直流抵抗(電源の電圧降下など)です。高周波の損失を減らしたいなら、線幅を広げる(表面積を増やす)か、低粗度銅箔を使います。
銅の表面に金や錫のめっきがあると影響しますか。
めっき厚が δ と同程度以上ならめっき材の抵抗率が効きます。金は銅より抵抗率が高く(2.4×10⁻⁸ Ω·m)、錫はさらに高い(1.1×10⁻⁷)ので、GHz 帯で厚い錫めっきは損失を増やします。ENIG(無電解ニッケル金)のニッケルは磁性体で δ が極端に小さく、GHz 帯の損失増加の原因としてよく挙がります。
電力用の平角銅バーは何 Hz から表皮効果を考えますか。
厚み 5mm のバーなら δ = 5mm となる f = (66 ÷ 5)² ≒ 174Hz が境目で、50/60Hz では影響は小さい(厚み÷δ ≒ 0.5)です。ただしインバータの高調波(数 kHz〜数十 kHz)に対しては δ が 1mm 以下になり、抵抗が増えて発熱に効きます。

参考にした規格・資料

  • H. W. Johnson, M. Graham, High-Speed Signal Propagation — 表皮効果・近接効果・表面粗さと損失の関係
  • E. Hammerstad, Ø. Jensen (1980) — 銅箔の表面粗さによる導体損失の増加の近似式
  • IPC-4562 — 銅箔の種類と表面粗さの分類(標準・低粗度など)

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