表皮効果は何 MHz から効くか:1oz の銅箔で考える

「高周波では電流が表面にしか流れない」は正しいですが、その「高周波」が何 MHz なのかは導体の厚みで決まります。基板の 1oz 銅箔なら 4MHz 前後、電源の巻線なら 100kHz で効き始めます。

最終更新: 2026-10-28 表皮効果銅箔厚高周波損失

表皮深さは √f に反比例する

交流では電流が表面に集中し、深さとともに指数関数的に減ります。電流密度が表面の 1/e(37%)になる深さが表皮深さ δ で、銅(ρ = 1.72×10⁻⁸ Ω·m)では δ ≒ 66 ÷ √f [mm](f は Hz)です。

導体の厚みが δ より薄ければ、電流は断面全体に流れ、表皮効果は無視できます。厚みが δ の数倍を超えると内部が使われなくなり、実効的な断面積が減って抵抗が増えます。

銅の表皮深さ
周波数表皮深さ δ比較対象
50Hz9.3mm電力ケーブルの太さ
10kHz0.66mmφ1.2mm の巻線で効き始める
100kHz0.21mmスイッチング電源の巻線
1MHz66µm2oz 銅箔(70µm)
4MHz33µm1oz 銅箔(35µm)
100MHz6.6µm銅箔の表面粗さと同程度
1GHz2.1µm表面粗さより小さい
高周波の電流が導体の表面に集まるイメージ
高周波の電流が導体の表面に集まるイメージ。概念を表すAI生成イラストです。実際の回路・条件は本文の図と説明を参照してください。
表皮効果の電流密度の分布導体の断面と電流密度の曲線を 2 つ並べた図。左は厚みが δ より薄く、電流が断面全体に流れる。右は厚みが δ の数倍あり、電流密度は表面から指数関数的に減って、深さ δ で表面の 1/e(37%)になり、内部はほとんど使われない。 電流密度は表面から指数関数で減る 深さ δ で、電流密度は表面の 1/e(37%)になる 厚み < δ 表皮効果は無視できる 表面 電流密度 断面全体に電流が流れる 厚み が δ の数倍 内部が使われず、抵抗が増える 表面 電流密度 δ 1/e(37%) 内部はほとんど使われない
図1:電流密度は表面から指数関数的に減る。

1oz の銅箔なら 4MHz が境目

基板の 1oz 銅箔は 35µm です。δ = 35µm になる周波数は (66 ÷ 0.035)² ≒ 3.6MHz で、ここから上でパターンの交流抵抗が直流抵抗より大きくなり始めます。

14MHz あたり(δ が厚みの 1/2)で直流の 1.3 倍程度、90MHz(1/5)で 2.5 倍程度です。1GHz では、表裏 2 面に電流が流れるとして 35 ÷ (2 × 2.1) ≒ 8 倍前後で、マイクロストリップではこれより悪くなります。

数十 MHz 以下のパターンで表皮効果を気にする必要はありません。電源、モータ駆動、オーディオ、数 MHz の SPI や I²C は直流抵抗で計算できます。100MHz を超えると抵抗が数倍になり、伝送線路の損失として効きます。

銅の表皮深さと周波数、銅箔厚との交点両対数グラフ。横軸 10kHz〜10GHz、縦軸 1µm〜1mm。表皮深さの曲線と、0.5oz・1oz・2oz の銅箔厚の水平線を重ね、1oz との交点 3.6MHz を示す。 表皮深さが銅箔厚を下回る周波数から、表皮効果が効く δ = 66 ÷ √f [mm](銅、20℃) 10kHz100kHz1MHz10MHz100MHz1GHz10GHz 1µm10µm100µm1mm 表皮深さ δ 周波数 δ(銅) 1oz = 35µm 2oz = 70µm 0.5oz = 18µm 1oz との交点:約 3.6MHz ← 直流抵抗のまま 交流抵抗が増える →
図2:銅の表皮深さと銅箔厚の交点。

スイッチング電源の巻線では 100kHz で効く

巻線は基板より先に効きます。100kHz で δ = 0.21mm なので、直径 0.4mm を超える線では内部が使われなくなります。φ1.0mm の線で働くのは表面から 0.21mm の環状部分だけで、断面 0.785mm² のうち 0.52mm² 程度です。

対策は、細い線を絶縁して束ねたリッツ線か、平角線・銅箔の巻線です。

近接効果も同時に起き、層を重ねるほど損失が増えます。100kHz を超えるトランスでは表皮効果より支配的なことが多く、層数とインターリーブで対策します。

100kHz の φ1.0mm の線で電流が流れる部分φ1.0mm の線の断面。100kHz では表面から δ = 0.21mm の環状部分だけに電流が流れ、中心部は使われない。断面 0.785mm² のうち働くのは 0.52mm² 程度。 φ1.0mm の線で働くのは、表面の環状部分だけ 100kHz の銅では δ = 0.21mm 使われない δ = 0.21mm φ1.0mm 線の断面 0.785mm² 電流が流れる環状部分 0.52mm² 直径 0.4mm を超える線では、内部が使われなくなる
図3:100kHz の φ1.0mm の線で電流が流れる部分。

GHz 帯では銅箔の粗さが損失を倍にする

1GHz で δ は 2.1µm ですが、基板の銅箔は樹脂との密着のために裏面が粗らしてあり、標準的な粗さ(Rz)は 3〜8µm あります。電流が流れる深さより凹凸のほうが大きいので、電流は凹凸に沿って迂回し、経路が伸びます(図 4)。

Hammerstad の近似では、粗さが δ と同程度で損失は 1.6 倍程度、δ より十分大きいと 2 倍に飽和します。GHz 帯では銅箔の種類だけで損失が 2 倍違い、高速基板に低粗度銅箔(VLP、HVLP)が使われます。

FR-4 では 1GHz 付近で導体損失と誘電損失が同程度になり、それより上は誘電損失が上回ります。10GHz を超える設計では低損失材も要ります。

銅箔の粗さと電流の経路銅箔表面の断面。平滑な面では電流は表面の δ の層を直進する。凹凸のある面(Rz 3〜8µm)では、1GHz の δ 2.1µm より凹凸が大きいので、電流は凹凸に沿って迂回し、経路が伸びる。 1GHz では、δ より凹凸のほうが大きい 破線は表面から δ(2.1µm)の深さ。電流はこの層を流れる 平滑な面 電流は直進する 経路は短い 粗い面 電流は凹凸に沿って迂回する Rz 3〜8µm 経路が伸びて損失が増える Hammerstad の近似:粗さが δ と同程度で損失 1.6 倍程度、δ より十分大きいと 2 倍に飽和
図4:凹凸に沿った電流の迂回。

計算機で確認すること

表皮効果の計算機で δ を出し、導体の厚み(oz→厚み)と比べます。δ ≧ 厚みなら無視、厚み ÷ δ が 2〜5 なら抵抗が 1.3〜2.5 倍で損失予算に入れ、10 を超えるなら線幅・材料・粗さを設計要素にします。

よくある質問

表皮効果で抵抗はどのくらい増えますか。
厚み t が δ より十分大きく表裏の両面に電流が流れるなら、抵抗はおよそ t ÷ 2δ 倍で、1oz の 100MHz(δ = 6.6µm)では 2.7 倍前後です。片面に集中するマイクロストリップでは t ÷ δ 倍で 5 倍前後です。
2oz の銅箔にすれば高周波の損失は減りますか。
表皮効果が効く周波数(1oz で数十 MHz 以上)では、厚くしても交流抵抗はほとんど変わりません。高周波の損失は、線幅を広げるか低粗度銅箔で減らします。
銅の表面に金や錫のめっきがあると影響しますか。
めっき厚が δ と同程度以上なら、めっき材の抵抗率が効きます。金(2.4×10⁻⁸ Ω·m)は銅より、錫(1.1×10⁻⁷)はさらに高いので、GHz 帯の厚い錫めっきは損失を増やします。ENIG のニッケルは磁性体で δ が極端に小さく、損失増加の原因としてよく挙がります。
電力用の平角銅バーは何 Hz から表皮効果を考えますか。
δ = 5mm となる (66 ÷ 5)² ≒ 174Hz が境目で、50/60Hz では影響は小さいです。インバータの高調波(数 kHz〜数十 kHz)では δ が 1mm 以下になり、発熱に効きます。

参考にした規格・資料

  • H. W. Johnson, M. Graham, High-Speed Signal Propagation — 表皮効果・近接効果・表面粗さと損失の関係
  • E. Hammerstad, Ø. Jensen (1980) — 銅箔の表面粗さによる導体損失の増加の近似式
  • IPC-4562 — 銅箔の種類と表面粗さの分類(標準・低粗度など)

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