ビアのインダクタンスが、デカップリングを鈍らせる

0.1µF を IC の電源ピンに置くのは、「小さなインダクタ付きのコンデンサ」を置くことです。インダクタンスの半分以上は、コンデンサではなくビアと配線が作ります。

最終更新: 2026-10-28 デカップリングビアインダクタンス電源設計

コンデンサは、ある周波数から上でインダクタになる

コンデンサには、電極と端子による直列インダクタンス ESL があります。容量 C と ESL の直列共振周波数 f = 1 ÷ (2π√(L·C)) より上では、インピーダンスは周波数に比例して増え、コンデンサとして働きません。ESL は 1608(0603)の積層セラミックで 0.5〜0.7nH、1005(0402)で 0.4〜0.5nH 程度です。

0.1µF で ESL 0.5nH なら共振は 22MHz で、それより上では 0.5nH のインダクタです。100MHz でのインピーダンスは 2π × 100M × 0.5n = 0.31Ω。基板では、パッドから電源ピンまでの配線とビアがこれに加わります。

コンデンサまでの経路とビアが作るループ
コンデンサまでの経路とビアが作るループ。概念を表すAI生成イラストです。実際の回路・条件は本文の図と説明を参照してください。
0.1µF のインピーダンスの周波数特性(ESL が 0.5nH の場合と 2.0nH の場合)横軸が周波数 1MHz〜1GHz、縦軸が |Z| の両対数グラフ。0.5nH は 22MHz に共振があり 100MHz で 0.31Ω、2.0nH は 11MHz に共振があり 100MHz で 1.3Ω。共振より上は L で決まる。 共振より上では、インピーダンスはインダクタンスで決まる 0.1µF と L の直列。ESR は無視した理想値 1MHz 10MHz 100MHz 1GHz 0.01Ω 0.1Ω 1Ω 10Ω |Z| 0.31Ω 1.3Ω 0.5nH(ESL のみ) 2.0nH(パッドから 2mm 引いてビア) 11MHz 22MHz
図1:0.1µF のインピーダンスと L の関係。

配線とビアが足すインダクタンス

ビアのインダクタンスは、長さ h、穴径 d で L ≒ 5.08·h·[ln(4h/d) + 1](h, d はインチ、L は nH)と近似されます。1.6mm 厚を貫通する 0.3mm 径で約 1.2nH ですが、電流が流れるのはパッドからプレーンまでで、プレーンが第 2 層(表層から 0.2mm)なら 0.1〜0.2nH 程度で済みます。

問題は配線です。パッドからビアまでの短い引き出し線は、プレーン上の細い線で 0.5〜1nH/mm 程度。ビアを 2mm 離すと 1〜2nH で、ESL の 2〜4 倍です。普通に置いた 0.1µF 1608 の合計は 1.5〜3nH で、2nH なら共振は 11MHz、100MHz で 1.3Ω に上がります。

0.1µF(1608)の合計インダクタンスと、共振周波数・100MHz でのインピーダンス
配置合計 L共振周波数|Z| @100MHz
コンデンサ単体(ESL のみ)0.5nH22MHz0.31Ω
パッド直近にビア、プレーンは第 2 層0.8nH18MHz0.50Ω
パッドから 2mm 引いてビア2.0nH11MHz1.3Ω
同上、片側ビア 2 本1.3nH14MHz0.8Ω
デカップリングコンデンサの電流ループと、インダクタンスの内訳基板断面の模式図。左はパッドから 2mm 離してビアを打った場合で、ループが大きく合計 2nH。右はパッドに密着してビアを打った場合で、合計 0.8nH。 インダクタンスの半分以上は、コンデンサではなく配線とビアが作る 0.1µF 1608、GND プレーンが第 2 層(0.2mm 下)の場合の目安 パッドから 2mm 引いてビア GND / 電源プレーン 0.1µF コンデンサの ESL:0.5nH 引き出し線 2mm × 2 本:約 1.3nH ビア 0.2mm × 2 本:約 0.2nH 合計 約 2.0nH → 共振 11MHz、100MHz で 1.3Ω ループが大きいほどインダクタンスが増える パッドに密着してビア GND / 電源プレーン 0.1µF コンデンサの ESL:0.5nH 引き出し線ほぼゼロ:約 0.1nH ビア 0.2mm × 2 本:約 0.2nH 合計 約 0.8nH → 共振 18MHz、100MHz で 0.5Ω 配置だけで 1nH 以上を稼げる
図2:デカップリングの電流ループ。

1nH を稼ぐ配置

改善は容量を増やすことではなくインダクタンスを減らすことで、効果の大きい順に並べます。

ビアをパッドに密着させる。パッドとビアの間の配線をゼロに近づけるのが最も効きます。ビア・イン・パッドは樹脂埋めか小径ビアが要ります。脇に密着させるだけでも、2mm 離した場合より 1nH 以上減ります。

電源側・GND 側の両方にビアを近づける。電流はループで流れます。

ビアを 2 本にする。並列でも相互インダクタンスで半分にはならず、6〜7 割です。表の例では 2.0nH が 1.3nH に下がります。

参照プレーンを表層に近い層に置く。4 層で第 2 層を GND にすると、ビア長は 0.2mm で済みます。

コンデンサを IC 直下の裏面に置く。経路は基板厚(1.6mm)ぶんのビアだけで、表層で 5mm 引き回すより短くなります。

「0.1µF と 0.01µF を並列に」という古い定石は、2 つの共振の間に反共振(山)を作ります。同じ容量・サイズなら山はできません。

プレーン間容量と、コンデンサが要らなくなる周波数

電源プレーンと GND プレーンを隣接させると、分布容量ができます。FR-4(εr ≒ 4.3)で間隔 0.1mm なら約 38pF/cm²、0.2mm で 19pF/cm²。10cm × 10cm で 0.1mm 間隔なら 3.8nF と小さいですが、ビアも配線もなく、インダクタンスがほぼゼロです。

数百 MHz 以上はプレーン間容量とパッケージ内・チップ内のコンデンサが担い、デカップリングコンデンサは、その下の数 MHz〜100MHz 台を埋めます。

だから「たくさんの 0.1µF を、それぞれ最短で」が基本形です。10 個並列なら各 2nH が 0.2nH 相当になり、100MHz で 0.13Ω まで下がります。1µF 1 個より 0.1µF 10 個のほうが高周波では効きます。

0.1µF 1 個と 10 個並列のインダクタンスの比較左は 2nH のインダクタンスを持つ 0.1µF 1 個で、100MHz で 1.3Ω。右は同じ組を 10 個並列にしたもので、0.2nH 相当、100MHz で 0.13Ω。 0.1µF 1 個 2nH 0.1µF 電源 合計 2nH 100MHz で 1.3Ω 0.1µF 10 個を並列 2nH 0.1µF ⋮ 電源 × 10 各 2nH を 10 本並列 → 0.2nH 相当 100MHz で 0.13Ω 1µF 1 個より 0.1µF 10 個のほうが、高周波では効く。
図3:1 個と 10 個並列の比較。

実機での確認

配置の善し悪しは、ネットワークアナライザで電源–GND 間のインピーダンスを測るのが確実です。2 ポートのシャント測定で 100kHz〜1GHz を掃引すれば、共振と反共振、どの周波数でどのコンデンサが効くかがわかります。

設備がなければ、オシロスコープで電源ピン直近のリップルを GND スプリング(プローブの短い GND ピン)で見ます。数 cm の GND リード線ではそのインダクタンスが乗り、配置のせいかプローブのせいか区別できません。

よくある質問

0.1µF ではなく 1µF や 10µF を置けば効きますか。
同じサイズなら ESL は同じなので、数十 MHz 以上はほとんど変わりません。容量が効くのは共振より下です。高周波は配置を詰める、並列にするなどでインダクタンスを減らします。
ビアを何本にすればよいですか。
パッドに密着させて電源側・GND 側 1 本ずつが基本です。2 本にしても 6〜7 割なので、先にパッドとビアの間の配線を短くします。
IC のピンからコンデンサまでの距離は何 mm 以内にすべきですか。
距離より、コンデンサ–ビア–プレーンの経路のインダクタンスです。IC の電源ピンもビアでプレーンに落ちていれば、5mm 離れていても効きます。表層の細い配線で結ぶだけなら、1mm でも配線のインダクタンスが乗ります。
ビアのインダクタンスを計算する式はどこまで信用できますか。
単独のビアの目安にはなりますが、近くの GND ビアでループが小さくなり、実際の値は下がります。配置どうしの比較に使ってください。

参考にした規格・資料

  • H. W. Johnson, M. Graham, High-Speed Digital Design — ビアのインダクタンスの近似式、デカップリングのループインダクタンス
  • 各 MLCC メーカの ESL・インピーダンス特性データ — サイズごとの ESL 値、共振周波数
  • IPC-2221B — 層構成と電源プレーンの設計要件

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