配線は何 mm から「伝送線路」になるか
1MHz のクロックでも、ドライバのエッジが 500ps なら 30mm の配線でリンギングが出ます。伝送線路になるかどうかを決めるのは周波数ではなく、エッジが配線を往復する時間との比です。
エッジが往復する間に、電圧が変わりきるか
配線の端に信号を入れると、反対側に届くまでに伝搬遅延 tpd がかかります。FR-4 のマイクロストリップで 6〜7ps/mm、ストリップラインで 7ps/mm 前後です。50mm の配線なら片道 300〜350ps。
信号の立ち上がり時間 tr が、この往復時間(2·tpd)より十分長ければ、エッジが変化している間に反射が何往復もして落ち着き、配線全体が同じ電圧とみなせます。これが集中定数で扱える条件です。逆に tr が往復時間より短ければ、送端と受端で電圧が違う瞬間があり、反射が波形に見えます。これが分布定数、つまり伝送線路です。
境目の目安としてよく使われるのが、配線の遅延が立ち上がり時間の 1/6 以下なら集中定数、というものです。保守的には 1/10 を使います。配線長にすると 臨界長 ℓ = tr ÷ (6 × tpd) です。
| 立ち上がり時間 tr | 1/6 ルールの臨界長 | 1/10 ルールの臨界長 | 典型的なデバイス |
|---|---|---|---|
| 10ns | 256mm | 154mm | 古い 74HC、低速オペアンプ |
| 3ns | 77mm | 46mm | 74HC(5V)、遅めのマイコン GPIO |
| 1ns | 26mm | 15mm | 74LVC、一般的なマイコンの GPIO |
| 500ps | 13mm | 8mm | FPGA の I/O、高速ロジック |
| 100ps | 2.6mm | 1.5mm | SerDes、DDR のストローブ |
クロック周波数は関係ない
1MHz の信号でも、それを出しているドライバが 74LVC のような 1ns エッジのデバイスなら、エッジの帯域は 0.35 ÷ tr ≒ 350MHz に相当します。反射を起こすのは 1MHz の基本波ではなく、この 350MHz 相当のエッジです。
だから、「遅い信号だから配線は気にしなくてよい」は誤りで、正しくは「エッジが遅い信号なら気にしなくてよい」です。最近のマイコンやロジック IC は、消費電力を下げるためにエッジが速くなっており、10 年前の同じ品番より臨界長が短くなっていることがあります。
実際の症状は、受端でのオーバーシュート・アンダーシュート、リンギング、そしてスレッショルド付近を波形が行き来することによる二重クロックです。1MHz のクロックで「ときどきカウントが 1 つ多い」という不具合の原因が、30mm の配線のリンギングだったという例は珍しくありません。
臨界長を超えたら、終端する
配線が臨界長を超えるなら、反射を抑える手当が要ります。基板上の一対一の配線で最も簡単なのは送端の直列終端(ダンピング抵抗)です。ドライバの出力抵抗(CMOS で 10〜30Ω 程度)と直列抵抗の合計を、配線の特性インピーダンス(50Ω 前後)に合わせます。22〜33Ω がよく使われるのはこのためです。
直列終端は、送端で振幅が半分になり、受端(開放端)で反射して倍になって元の振幅に戻る、という動作をします。受端で正しい振幅が出るのは 1 回だけで、途中にある受信端では半分の振幅の期間が見えます。複数の受信端がある配線には向きません。
複数の受信端がある場合や、受端で正確な振幅が必要な場合は、受端の並列終端(配線の特性インピーダンスと同じ抵抗を GND または終端電圧へ)を使います。直流電流が流れるので消費電力が増え、ドライバの駆動能力も要ります。
終端の要否を決める前に、配線を臨界長以下に短くできないか、エッジの遅いドライバに変えられないかを検討してください。終端は対症療法で、配線が短ければ要りません。
正弦波(RF)では波長の 1/10
ここまではデジタルのエッジの話です。RF や高周波アナログのように正弦波で考える場合は、配線長を波長と比べます。目安は波長の 1/10 以下なら集中定数です。
FR-4 マイクロストリップの実効比誘電率は 3 前後なので、波長は真空の 1/√3 ≒ 0.58 倍。100MHz で約 1.7m、1GHz で 17cm、λ/10 はそれぞれ 17cm と 17mm です。2.4GHz なら λ/10 ≒ 7mm で、アンテナへの数 mm の引き出し線でもインピーダンス整合が要る領域です。
デジタルの臨界長と RF の λ/10 は、エッジの帯域 0.35 ÷ tr を周波数に読み替えると同じ考え方です。1ns のエッジ ≒ 350MHz ≒ λ/10 = 48mm。1/6 ルールの 26mm より緩いのは、正弦波は単一周波数で、エッジはさらに高い成分を含むためです。
判断の手順
- ドライバのデータシートから立ち上がり時間 tr を読む。書いていなければ、同じファミリの出力の遷移時間や、実測(オシロスコープの帯域が十分なもので)。
- 配線長と層から tpd を出し、配線の片道遅延を求める。パターン長→遅延時間で計算できます。
- 片道遅延 × 6 が tr より短ければ集中定数。長ければ伝送線路として扱う。集中定数/分布定数の計算機は、この判定をそのまま実装しています。
- 伝送線路なら、まず配線を短くできないか検討し、無理なら特性インピーダンスを決めて終端する。
- 試作で受端の波形をアクティブプローブか短い GND で見て、オーバーシュートが受信 IC の絶対最大定格(VCC + 0.5V など)に入っているか確認する。
よくある質問
SPI の 10MHz なら配線は気にしなくてよいですか。
ダンピング抵抗の値はどう決めますか。
1/6 と 1/10 のどちらを使うべきですか。
終端抵抗を入れると消費電力はどのくらい増えますか。
参考にした規格・資料
- H. W. Johnson, M. Graham, High-Speed Digital Design: A Handbook of Black Magic — 臨界長の考え方、終端方式の比較
- IPC-2141A — 伝送線路のインピーダンスと伝搬遅延の計算
- 各ロジック IC メーカのデータシート — 出力の遷移時間(tr / tf)と出力抵抗