配線は何 mm から「伝送線路」になるか

1MHz のクロックでも、ドライバのエッジが 500ps なら 30mm の配線でリンギングが出ます。伝送線路になるかどうかを決めるのは周波数ではなく、エッジが配線を往復する時間との比です。

最終更新: 2026-10-28 伝送線路反射立ち上がり時間終端

エッジが往復する間に、電圧が変わりきるか

配線の端に信号を入れると、反対側に届くまでに伝搬遅延 tpd がかかります。FR-4 のマイクロストリップで 6〜7ps/mm、ストリップラインで 7ps/mm 前後で、50mm の配線なら片道 300〜350ps です。

立ち上がり時間 tr が往復時間(2·tpd)より十分長ければ、反射がエッジの間に落ち着き、配線全体が同じ電圧とみなせます(集中定数)。短ければ、送端と受端で電圧が違う瞬間があり、反射が波形に見えます(分布定数、つまり伝送線路)。

境目の目安は、配線の遅延が立ち上がり時間の 1/6 以下なら集中定数、保守的には 1/10 です。配線長にすると 臨界長 ℓ = tr ÷ (6 × tpd) です。

立ち上がり時間と臨界長の目安(FR-4 マイクロストリップ、tpd = 6.5ps/mm)
立ち上がり時間 tr1/6 ルールの臨界長1/10 ルールの臨界長典型的なデバイス
10ns256mm154mm古い 74HC、低速オペアンプ
3ns77mm46mm74HC(5V)、遅めのマイコン GPIO
1ns26mm15mm74LVC、一般的なマイコンの GPIO
500ps13mm8mmFPGA の I/O、高速ロジック
100ps2.6mm1.5mmSerDes、DDR のストローブ
配線を伝わる信号と戻ってくる反射
配線を伝わる信号と戻ってくる反射。概念を表すAI生成イラストです。実際の回路・条件は本文の図と説明を参照してください。
配線長による受端波形の違い左は 10mm の配線で、3.3V に 1ns で立ち上がるきれいな波形。右は 100mm の配線で、反射による減衰振動が重なり、ピークが受信 IC の絶対最大定格 4.0V を超えている。 同じドライバ、同じエッジでも、配線長で受端の波形が変わる 立ち上がり 1ns、終端なし、FR-4 マイクロストリップ 配線 10mm(臨界長 26mm 以下) 往復 130ps。エッジの間に反射が収束する 0V 3.3V 絶対最大定格 4.0V 時間 → 配線 100mm(臨界長の 4 倍) 往復 1.3ns。反射が波形に残る 0V 3.3V 絶対最大定格 4.0V 時間 → 反射を起こしているのはクロックの周波数ではなく、エッジに含まれる 350MHz 相当の成分。 臨界長を超えるなら、配線を短くするか、送端に直列終端を入れる。
図1:同じ 1ns エッジでも、配線が臨界長(26mm)より短ければ受端の波形はきれいで、100mm ではリンギングが出て絶対最大定格を超える。

クロック周波数は関係ない

1MHz の信号でも、ドライバが 74LVC のように 1ns エッジのデバイスなら、エッジの帯域は 0.35 ÷ tr ≒ 350MHz に相当します。反射を起こすのは 1MHz の基本波ではなく、この 350MHz 相当のエッジです。

「遅い信号だから配線は気にしなくてよい」は誤りで、正しくは「エッジが遅い信号なら気にしなくてよい」です。症状は、受端のオーバーシュート、リンギング、スレッショルド付近での二重クロックです。

臨界長を超えたら、終端する

臨界長を超えるなら、反射を抑える手当が要ります。基板上の一対一の配線で最も簡単なのは送端の直列終端(ダンピング抵抗)です。ドライバの出力抵抗(CMOS で 10〜30Ω 程度)と直列抵抗の合計を、配線の特性インピーダンス(50Ω 前後)に合わせるので、22〜33Ω がよく使われます。

直列終端は、送端で振幅が半分になり、開放端の受端で反射して元の振幅に戻ります。途中の受信端には半分の期間が見えるので、複数の受信端がある配線には向きません。

複数の受信端や、受端で正確な振幅が必要な場合は、受端の並列終端(特性インピーダンスと同じ抵抗を GND または終端電圧へ)を使います。直流電流が流れ、消費電力が増えます。

終端の前に、配線を短くできないか、エッジの遅いドライバに変えられないかを検討します。

送端の直列終端と受端の並列終端左は、ドライバの出力にダンピング抵抗 Rs を直列に入れ、開放端の受信 IC へ配線をつなぐ回路。右は、受信 IC の手前で配線の特性インピーダンスと同じ抵抗 R を GND または終端電圧へつなぐ回路。 反射を抑える 2 つの終端 基板上の一対一の配線は、送端の直列終端がいちばん簡単 送端の直列終端(ダンピング抵抗) ドライバ Rout Rs 配線(Z0 = 50Ω 前後) 受信 IC 開放端 Rout + Rs を Z0 に合わせる(22〜33Ω がよく使われる) 送端で振幅が半分になり、受端で反射して元の振幅に戻る 途中の受信端では半分の期間が見える。複数の受信端には不向き 受端の並列終端 ドライバ Rout 配線(Z0 = 50Ω 前後) 受信 IC R = Z0 GND または終端電圧へ 複数の受信端や、受端で正確な振幅が要るときに使う 直流電流が流れ、消費電力が増える ドライバの駆動能力も要る
図2:送端の直列終端と、受端の並列終端。

正弦波(RF)では波長の 1/10

RF のように正弦波で考える場合は、配線長を波長と比べ、波長の 1/10 以下なら集中定数とみなします。FR-4 マイクロストリップの実効比誘電率は 3 前後で、波長は真空の 1/√3 ≒ 0.58 倍です。100MHz で約 1.7m、1GHz で 17cm なので、λ/10 は 17cm と 17mm。2.4GHz なら λ/10 ≒ 7mm で、アンテナへの数 mm の引き出し線でも整合が要る領域です。

判断の手順

片道遅延はパターン長→遅延時間、判定は集中定数/分布定数の計算機で確かめられます。

試作では、受端の波形をアクティブプローブか短い GND で見て、オーバーシュートが受信 IC の絶対最大定格(VCC + 0.5V など)に収まっているかを確認します。

伝送線路として扱うかどうかの判断の流れ立ち上がり時間を読み、配線の片道遅延を求める。片道遅延の 6 倍が立ち上がり時間より短ければ集中定数として扱う。長ければ伝送線路として扱い、まず配線を短くできないか検討し、無理なら特性インピーダンスを決めて終端し、試作で受端の波形を確かめる。 判断の手順 片道遅延の 6 倍と立ち上がり時間を比べる ① 立ち上がり時間 tr を読む データシート、なければ実測 ② 片道遅延を求める 長さと層から tpd を出す 片道遅延 × 6 が tr より短い? 集中定数 として扱う はい いいえ ③ 伝送線路として扱う まず配線を短くできないか ④ 無理なら Z0 を決めて終端 終端は対症療法 ⑤ 試作で受端の波形を見る オーバーシュートが絶対最大定格以内か
図3:配線が臨界長を超えるかどうかの判断の流れ。

よくある質問

SPI の 10MHz なら配線は気にしなくてよいですか。
周波数ではなくエッジで決まります。GPIO のエッジが 1〜2ns なら臨界長は 25〜50mm で、基板間ケーブルのような長い配線ではリンギングが出ます。スルーレート設定を遅くするか、22〜33Ω を送端に直列に入れてください。
ダンピング抵抗の値はどう決めますか。
配線の特性インピーダンス − ドライバの出力抵抗 です。50Ω の配線で出力抵抗 20Ω なら 30Ω で、実際には 22Ω か 33Ω を選びます。出力抵抗は VOL ÷ IOL(例:0.4V ÷ 8mA = 50Ω)で見積もれますが、実際はもう少し小さいので、試作で波形を見て調整します。
1/6 と 1/10 のどちらを使うべきですか。
オーバーシュートの許容量によります。受信 IC の絶対最大定格に近い場合や、クロックのようにグリッチが致命的な信号には、反射がほとんど見えない 1/10 を使います。それ以外は 1/6 でも波形は判定を誤りません。
終端抵抗を入れると消費電力はどのくらい増えますか。
送端の直列終端は直流電流が流れないので増えません。受端の並列終端(50Ω を GND へ)は High のときに 3.3V ÷ 50Ω = 66mA、220mW です。基板内の配線では直列終端が基本です。

参考にした規格・資料

  • H. W. Johnson, M. Graham, High-Speed Digital Design: A Handbook of Black Magic — 臨界長の考え方、終端方式の比較
  • IPC-2141A — 伝送線路のインピーダンスと伝搬遅延の計算
  • 各ロジック IC メーカのデータシート — 出力の遷移時間(tr / tf)と出力抵抗

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