フェライトビーズは「インダクタ」ではない

フェライトビーズは、データシートの「600Ω @ 100MHz」という値のせいでインダクタだと思われがちです。実際にそう振る舞うのはその周波数帯だけで、そこでは電流を熱に変えている(=抵抗)。低域ではインダクタ、さらに高域ではコンデンサになります。直流電流を流すと飽和してその抵抗も消え、後段のコンデンサと組んでかえってノイズを増幅することさえあります。

最終更新: 2026-09-23 フェライトビーズEMI対策デカップリングLC共振

Z = R + jX:フェライトビーズは周波数で性質が変わる

フェライトビーズは、抵抗のような外見をしたインダクタです。しかし中身はコイルではなく、フェライトコアに導体を1回通しただけの部品で、その等価回路は直流抵抗 Rdc、コアの磁気損失を表す抵抗 Rcore、巻線分のインダクタンス L、端子間の浮遊容量 Cp の組み合わせです。L と Rcore は並列(電流はインピーダンスの低いほうを通る)、そこに Rdc が直列し、全体に Cp が並列に乗ります。

この回路のインピーダンスは Z = R + jX で、R(実部)と X(虚部)が周波数でまったく違う動き方をします。低域では ωL ≪ Rcore なので、電流はほぼ L だけを通り、X(誘導性リアクタンス)が支配的です。ふつうのインダクタと同じで、エネルギーは熱にならず、電源側とコンデンサのあいだを行き来するだけです。

周波数が上がって ωL が Rcore に近づくと、電流の一部が Rcore 側に流れ込み、R が急激に立ち上がります。ここがビーズの主戦場で、データシートの「600Ω @ 100MHz」はこのR が主体になる帯域での |Z| の値です。node でモデル化すると(L = 1.1µH、Rcore = 620Ω、Rdc = 0.08Ω、Cp = 2.1pF という、600Ω@100MHz に合わせて逆算した代表値)、R と X が入れ替わる境目はおよそ60MHz、100MHz では R ≒ 616Ω・X ≒ 48Ω・|Z| ≒ 618Ω と、ほぼ純抵抗になります。

さらに上の周波数では Cp が支配的になり、X が負(容量性)に転じます。このモデルでは自己共振(X = 0)が約105MHz、200MHz では R ≒ 257Ω・X ≒ −306Ω・|Z| ≒ 399Ω まで下がります。つまりビーズは、低域から見ていくとインダクタ → 抵抗 → コンデンサと3つの顔を持ち、「600Ω@100MHz」という1つの数字は、そのうち抵抗として働く一瞬だけを切り取ったものです。

フェライトビーズの等価回路:Rdc + (L ∥ Rcore) + 端子間の浮遊容量Cp入力から出力へ、直流抵抗Rdcのあと、インダクタンスLとコア損失を表す抵抗Rcoreの並列区間が続き、端子間に浮遊容量Cpが並列に乗る回路図。下段に低域・中域・高域それぞれでどの成分が支配的かを示す。 低域はL、中域はRcore、高域はCpが支配的になる L=1.1µH、Rcore=620Ω、Rdc=0.08Ω、Cp=2.1pF(600Ω@100MHzに合わせたモデル値) IN Rdc A L ∥ Rcore(コア) L ωL ≪ Rcoreなら電流はL側へ(低損失) Rcore ωL ≫ Rcoreなら電流はRcore側へ(熱になる) B OUT Cp:端子間の浮遊容量 低域(〜60MHz) ωL ≪ Rcore:電流はL側を通る 誘導性。ロスが少ない 中域(〜100MHz) ωL ≒ Rcore:Rcore側に電流が移る 抵抗性。600Ω@100MHzはここ 高域(100MHz〜) Cpが支配的になる 容量性。自己共振は約105MHz
図1:フェライトビーズの等価回路。Rdc(直流抵抗)に、L(インダクタンス)と Rcore(コア損失)の並列区間が直列し、端子間には浮遊容量 Cp が乗る。低域は L 優勢(誘導性)、中域は Rcore 優勢(抵抗性)、高域は Cp 優勢(容量性)に切り替わる。

「600Ω@100MHz」は熱にする部品という意味

同じインピーダンスの値でも、インダクタとビーズではノイズの行き先が違います。純粋なインダクタは高域でも X(リアクタンス)しか作れないので、遮った電流は反射して戻るだけで、ノイズのエネルギーは回路の中に残ります。共振する相手(配線のインダクタンスや別のコンデンサ)がいれば、リンギングとして形を変えて残ります。

フェライトビーズが EMI 対策に使われるのは、Rcore が実損失(レジスタンス)であるためです。100MHz 帯でノイズ電流がビーズを通ると、その大半は R = 616Ω 側で消費され、電流の運動エネルギーがコアの磁気損失として熱に変わって消えます。反射ではなく吸収なので、ノイズ源とその周辺の配線が作る意図しない共振に、新しいピークを足しにくいという利点があります。

だからこそ「600Ω@100MHz」という値だけで品種を選ぶのは片手落ちです。|Z| は R と X のベクトル和なので、同じ600Ωでも R がほとんどの品種(EMI 抑制向き)と、まだ X が残っている品種(低域でのインダクタ的な使い方寄り)があります。データシートに R-X 特性図がある品種では、抑えたい周波数で R がどれだけ立っているかを確認してください。図がなくメーカの技術資料で公開されていない場合は、|Z| と表示された位相角、または R・X 別掲の一覧表で判断します。

|Z|・R・X の周波数特性横軸は対数の周波数(1MHz〜1GHz)、縦軸はインピーダンス(-350Ω〜700Ω)。|Z|、R、Xの3本の曲線を描く。100MHzで|Z|=618Ω・R=616Ω・X=48Ωの点を示し、60MHz付近にR=Xの境目、105MHz付近に自己共振(X=0)がある。 低域は誘導性、100MHz帯は抵抗性、高域は容量性 モデル曲線(node で計算)。実際の値は品番ごとの特性図で確認する 1MHz10MHz100MHz1GHz 700Ω 350Ω 0Ω -350Ω 618Ω(≒「600Ω@100MHz」) R=X ≒ 60MHz Z R X 誘導性(L優勢) 抵抗性(Rcore優勢) 容量性(Cp優勢) モデル: Z = Rdc + (jωL ∥ Rcore) をさらにCpと並列にした合成インピーダンス(L=1.1µH、Rcore=620Ω、Rdc=0.08Ω、Cp=2.1pF)
図2:|Z|・R・X の周波数特性(モデル曲線)。60MHz 以下は X(誘導性)優勢、そこから100MHz にかけて R が急上昇し 618Ω に達する(=「600Ω@100MHz」)。105MHz からは X が負に転じ、容量性になる。

直流電流でコアが飽和する:定格電流の半分でも Z は大きく落ちる

フェライトコアには透磁率の上限があり、直流電流(信号電流に重なる、いわゆるバイアス電流)を流すとコアが磁気飽和に近づき、透磁率が下がります。透磁率が下がれば L も Rcore も下がるので、Z-f 特性のカーブ全体が下にたわみます。これが直流重畳(DC バイアス)特性です。

飽和は「定格電流までは平気で、超えたら急に壊れる」という現象ではありません。定格電流よりずっと手前から連続的にインピーダンスが落ちていきます。先のモデルで、透磁率の低下を L と Rcore に一律の係数(飽和係数 s)としてかけると、s = 0.55(およそ定格電流の50%相当)で 100MHz の Z は 618Ω → 311Ω(約50%)、s = 0.3(定格電流相当)では 156Ω(約25%)まで落ちます。「定格電流の半分だから安全」という判断は、EMI 対策としては効果が半分になっているという意味で、むしろ危険側です。

データシートの「直流重畳特性」の図は、横軸が直流電流、縦軸がそのときの |Z|(多くは100MHzなど代表周波数1点、または Z-f カーブそのものを電流ごとに重ねたもの)です。読み方のコツは、使う電流での Z を「定格の何%」ではなく絶対値で読むことです。50%Irated で Z が半分程度に落ちる品種は珍しくなく、小型・低背の品種ほど落ち方が急です。

注意したいのは、「定格電流」という値自体が飽和で決めた値ではないことです。多くのメーカは、定格電流を「連続通電したときの自己発熱による温度上昇が規定値(ΔT = 20〜40℃程度、品種・メーカで異なる)を超えない電流」として定義しています。飽和はそれよりずっと低い電流から始まっているので、「定格内だから透磁率は保たれている」という前提は成り立ちません。EMI 対策として使うなら、直流重畳特性の図で実際に流す電流でのZを確認するのが唯一の確実な方法です。

直流電流を増やすと Z-f カーブがつぶれる直流電流0A・定格電流の50%相当・定格電流相当の3つの状態を順に表示するアニメーション。電流が増えるほどZ-fカーブ全体が下がり、100MHzでのZは618Ω→311Ω→156Ωと落ちる。 直流電流 0A 50%Irated 100%Irated Idc ① 直流電流 0A透磁率は最大。100MHzでZ=618Ω(≒600Ω仕様) ② 直流電流:定格電流の約50%透磁率が低下し、100MHzでZ=311Ω(約50%)まで落ちる ③ 直流電流:定格電流相当100MHzでZ=156Ω(約25%)。EMI対策としての効果はほぼ失われている 1MHz10MHz100MHz1GHz 0Ω 350Ω 700Ω 100MHz 618Ω 311Ω 156Ω 定格電流の範囲内でも、電流を流すほど連続的にコアが飽和し、インピーダンスが下がる。 定格電流の50%でも、100MHzのZは半分程度まで落ちる。「定格内だから安全」ではない。 定格電流は自己発熱(温度上昇)で決めた値で、飽和の限界を示す値ではない。
図3:直流電流を増やすと Z-f カーブ全体がつぶれる(モデル、透磁率低下を係数 s で表現)。0A では100MHzで618Ω、定格電流の50%相当(s=0.55)で311Ω、定格電流相当(s=0.3)で156Ωまで下がる。

後段のコンデンサと共振し、低域ノイズがかえって増える

ビーズを「とりあえず電源ラインに直列で入れておけば安心」と考えると見落とすのが、ビーズのL成分と、後段のデカップリングコンデンサが LC ローパスフィルタを作ることです。ビーズは低域では抵抗成分がほとんどなく(先のモデルでは Rdc = 0.08Ω しかない)、ほぼ純粋な L として振る舞うので、このフィルタは減衰が急な代わりに、ダンピングがなければ共振点で盛り上がります(ピーキング)。

L = 1.1µH のビーズ(低域のインダクタンス)と C = 10µF のデカップリングコンデンサを直列につないだときの共振周波数は、f0 = 1 ÷ (2π√(LC)) ≒ 48kHz(node で計算)。ここでの Q は Q = (1/R)√(L/C) で、R にビーズの Rdc = 0.08Ω しか効かない(電解のESRや配線抵抗を無視した最悪ケース)とすると Q ≒ 4.15。このとき、フィルタの入力側(ビーズの手前)にあるノイズ電圧に対する、コンデンサ側(出力)の電圧の比は、共振点で約12.4dB(約4.2倍)のピークになります。

つまり、48kHz 付近のノイズは、ビーズがないときよりコンデンサの先でかえって大きくなります。ビーズは高域(MHz〜100MHz帯)のノイズには効いても、低域(数十kHz〜数MHz)では単なる小さなインダクタでしかなく、後段のCとのペアで意図しないピーキングを作る、という逆転現象です。スイッチング電源のスイッチング周波数(数百kHz が多い)やその高調波、あるいはデジタル回路の電流引き込みの繰り返し周波数がこの帯域に重なると、実機でノイズが悪化します。

ダンピングの入れ方

対策は、共振回路にロス(抵抗成分)を足して Q を下げることです。node で先の LC フィルタに直列抵抗 Rd = 0.5Ωを足して計算し直すと、共振点でのピークは 12.4dB → −0.1dB(実質フラット)まで下がります。方法はいくつかあります。

  • ビーズとコンデンサのあいだに数百mΩ〜1Ωの抵抗を直列に入れる。いちばん確実ですが、その抵抗ぶんの電圧降下と発熱が増えます。負荷電流が小さいアナログ系のデカップリングでは現実的です。
  • デカップリングコンデンサを、ESR の高いものにする(または足す)。積層セラミック単体は ESR が数mΩ〜数十mΩと低くダンピングになりません。タンタルや導電性高分子(ESR 数十〜数百mΩ)を並列に足すと、その分がそのままダンピング抵抗として働きます。ただし低容量セラミックの自己共振を邪魔しないよう、高域用の小容量セラミックは別に残します。
  • ビーズ自身の Rdc が高い品種を選ぶ。低背・高電流品ほど Rdc を低く作る傾向がありますが、EMI 対策専用でそこまで電流が要らない場所では、あえて Rdc がやや高い(数百mΩ)品種を選ぶとダンピングを兼ねられます。ただし Rdc は電圧降下にも効くので、後述の負荷変動での IR ドロップとのトレードオフです。
  • デカップリングCを1つの大容量にせず分散する。10µFを1個ではなく1µF×数個にすると、ビーズとの組み合わせで生じる L-C 共振点が複数の小さなピークに分かれ、単体のピークが低くなることがあります。ただし多くの場合、支配的な共振はいちばん大きい容量との組で決まるので、根本策にはなりません。

ダンピング抵抗は「せっかく低ESRの部品を選んだのに損した気分」になりますが、共振でのピーキングは無抵抗の理想フィルタが本来持つ性質です。ビーズ(低域では純L)とMLCC(低ESR)の組み合わせは、意図せずこの条件に近づきやすいことを覚えておいてください。

ビーズ+デカップリングCの伝達特性:ダンピングの有無でピークが変わる横軸は対数の周波数(1kHz〜1MHz)、縦軸はゲイン(-40dB〜+16dB)。ダンピングなし(Rd=0)は約48kHzで12.4dBのピークを持つが、直列に0.5Ωのダンピング抵抗を足すとほぼフラットになる2本の曲線。 L=1.1µHのビーズ + C=10µFのデカップリングコンデンサ ダンピングなしでは約48kHzでノイズが4倍強に増幅される 1kHz10kHz100kHz1MHz 20dB 10dB 0dB -10dB -20dB -30dB -40dB -50dB -60dB 約12.4dB(約4.2倍) f0 ≒ 47kHz ダンピングなし(Rd=0) Rd=0.5Ω追加 f0 = 1÷(2π√(LC)) ≒ 48kHz、Q = (1/R)√(L/C) ≒ 4.15(R=Rdc=0.08Ωのみの場合) 直列に0.5Ωのダンピング抵抗(または同等のESR)を足すとピークはほぼ消える
図4:ビーズ(L=1.1µH)+ デカップリングC(10µF)の伝達特性。ダンピングなし(Rd=0)では f0≒48kHzで約12.4dBのピークが立つが、直列に0.5Ωのダンピング抵抗を足すとほぼフラットになる。

負荷が急変するアナログ電源での電圧降下・リンギング

ADC の AVDD のように、変換のたびに数mA〜数十mAの電流を短時間だけ引き込む負荷にビーズを直列で入れると、ふたつの問題が同時に起きます。

ひとつは Rdc による定常のIRドロップです。Rdc = 0.08Ω の品種に20mAのステップ電流が流れると、電圧降下は 0.08Ω × 20mA = 1.6mV。12bit・3.3VフルスケールのADCなら1LSBは約0.8mVなので、これだけで2LSB分の誤差です。

もうひとつは、先のLC共振によるリンギングです。負荷電流が階段状に変化すると、ビーズのL とデカップリングC でできた2次系が励振され、Q = 4.15(ダンピングなしの場合)に対応するオーバーシュート/リンギングの振幅は理論上ステップの約68%(2次系の標準的な近似式 exp(−πζ/√(1−ζ²)) から計算、ζ = 1/(2Q))。特性インピーダンス √(L/C) ≒ 0.33Ω に電流ステップ20mAをかけた振幅の目安は約6.6mVで、これは先のIRドロップよりずっと大きく、周波数はおよそ48kHzで、電流ステップのたびに数十µs鳴ります。

ADC のサンプリング直後にこのリンギングが乗ると、変換タイミングと重なったときだけ結果が数LSBぶれる、という再現しにくい不具合になります。オシロで AVDD ピンを見ても、負荷電流が変化する瞬間だけ数十µs鳴るリンギングは見落としがちです。ADC のデータシートが指定するデカップリングの定数(多くは「ビーズなし、C = 0.1µF + 1µF直近」)から外れて、自己判断で大きなビーズと大容量Cを組み合わせると、この共振が起きやすくなります。

ノイズ電流の行き先で考える

図5は、ビーズを通るノイズ電流がどこへ行くかを、周波数帯で対比したものです。低域(インダクタ帯)では電流はほとんど減衰せずビーズを通過し、後段のコンデンサや負荷に届きます(前節の共振はここで起きます)。100MHz帯(抵抗帯)では、電流の多くがビーズの中で熱に変わり、先へは届きません。これが「ビーズはノイズを反射するのではなく吸収する」という性質の中身です。

ノイズ電流の行き先:低域は通過、100MHz帯はビーズの中で熱になるノイズ源(デジタルIC)からビーズを通ってデカップリングコンデンサ・負荷へ至る回路。低域のフェーズでは電流がそのままビーズを通過し、100MHz帯のフェーズではビーズの中で熱に変わり、先へはわずかしか届かない、という2つの状態を順に表示するアニメーション。 ① 低域ノイズ(インダクタ帯)ほぼ減衰せずビーズを通過する。後段のCと共振する帯域 ② 100MHz帯のノイズ(抵抗帯)ビーズの中で熱に変わり、後段へはわずかしか届かない ノイズ源 (デジタルIC) Bead C アナログ負荷 (ADC AVDDなど) 通過 熱に変わる 低域ではビーズはほぼ純粋なLで、電流はロスなく通過する。この帯域で後段のCと共振すると、図4のピーキングが起きる。 100MHz帯ではRcoreが支配的になり、電流の大半が熱として消費される。反射ではなく吸収なので、周辺の配線と新たな共振を作りにくい。
図5:ノイズ電流の行き先。低域(インダクタ帯)ではビーズをほぼそのまま通過する。100MHz帯(抵抗帯)では電流の多くがビーズの中で熱に変わり、後段にはわずかしか届かない。

使いどころ/使わないほうがいいところ

まとめると、ビーズが効くのは「Rが立っている周波数帯のノイズを、電流経路の途中で熱にしたい」場面に限られます。それ以外の目的(低域のフィルタ、電流制限、単なる保護)には向いていません。

フェライトビーズの使いどころ/使わないほうがいいところ
用途向き不向き理由
デジタルICの電源ピン直近のEMI抑制(数十MHz〜1GHz帯)向くRが主体の帯域と重なりやすく、放射・伝導ノイズを熱として吸収できる
クロック・高速信号ラインのコモンモードノイズ対策向く(コモンモード品種)信号品質を保ったまま高域だけ減衰させられる
スイッチング電源の出力にそのまま直列(数百kHz帯)向かないその帯域ではほぼ純Lで、後段Cとの共振でピーキングを起こしやすい。LCフィルタとして設計するかコイルを使う
ADCのAVDDなど負荷急変するアナログ電源条件付き(要ダンピング)Rdcの電圧降下とLC共振のリンギングが精度に直結する。ダンピングと定数の見直しが必須
低域のリップル除去(電源のπ型フィルタ的な用途)向かない低域ではLとして働くだけで、カットオフを狙うなら通常のインダクタとRCフィルタ/LCフィルタとして設計すべき
過電流保護・電流制限向かないビーズは電流を制限する素子ではない。ヒューズやPTC、電流制限ICを使う
直流電流が定格の50%を超えるライン上のEMI対策要確認直流重畳でZが半分以下に落ち、期待した減衰が得られないことがある。直流重畳特性で実電流でのZを確認する

実機で引っかかるところ

  • 電源ラインにビーズを入れたらノイズが増えた。まず疑うのはLC共振によるピーキングです。オシロでビーズの前後の電圧を比べ、数十kHz〜数MHzで後段のほうが振幅が大きければ共振です。ダンピング抵抗を仮に直列で足して収まれば確定します。
  • 直流重畳特性を確認せずに大電流ラインへビーズを入れた。3A流れるラインに「600Ω@100MHz、定格電流3A」のビーズを使っても、定格ぎりぎりでは100MHzのZが仕様値よりはるかに下がっていることがあります。EMI対策として効かせたい電流条件で直流重畳特性を確認してください。
  • ADCやDACのアナログ電源に、闇雲に大きなビーズと大容量Cを足した。「デカップリングは足すほど良い」という思い込みで、データシート指定の小さなビーズ・小容量Cを、手元にあった大きめの部品に置き換えると、共振点が可聴帯域寄りに下がり、Q も上がってリンギングが悪化することがあります。定数はデータシート指定に合わせるか、変更するなら共振周波数とQを計算してから決めます。
  • ビーズを抵抗の代わりに使って電流を絞ろうとした。Rdcは数十m〜数百mΩ程度で、電流制限素子としては機能しません。想定通りに電流が制限されず、むしろ電圧降下だけが残ります。
  • RCフィルタの減衰と同じで、部品単体のスペックだけでは実機の挙動が決まりません。ビーズも、後段のC・配線のインダクタンス・負荷のインピーダンスまで含めた系全体で評価する必要があります。パッシブフィルタとアクティブフィルタの使い分けや、MLCCのDCバイアス特性(後段のコンデンサ自体も電圧で容量が変わる)、ビアのインダクタンス(配線側にも意図しないLが足される)も合わせて確認すると見落としが減ります。

よくある質問

フェライトビーズとインダクタは何が違うのですか。
部品としての違いは、コアの磁気損失(Rcore)を積極的に使うか使わないかです。ふつうのインダクタは損失(Q劣化)を嫌って低損失なコア材料・構造を選びますが、フェライトビーズは特定の周波数帯で意図的に損失を大きくし、ノイズを熱として消費させています。低域では両者とも同じように振る舞います(Z ≒ jωL)。
「600Ω@100MHz」のビーズを、もっと低い周波数のノイズ対策に使ってはいけませんか。
その周波数ではビーズはほぼ純粋なインダクタとして働くので、単体では期待した減衰は得られません。後段のコンデンサと組み合わせれば低域でもカットオフは作れますが、ダンピングを入れないと本文で説明した共振ピークが立ちます。低域が主目的なら、最初からLCフィルタとして設計するか、通常のインダクタと抵抗・コンデンサで作るほうが特性を見通しやすいです。
直流重畳特性の図がないビーズはどう判断すればよいですか。
データシートに記載がなければ、同じシリーズの他の定格(サイズ違い)の図を参考にするか、メーカに問い合わせるのが確実です。目安として、小型・低背・低Rdcの品種ほど飽和が急峻な傾向があるので、電流に余裕を持たせる(定格の1/3〜1/2程度で使う)のが安全側の判断です。それでも保証にはならないので、量産前に実機かLCRメータで直流重畳をかけた状態のインピーダンスを確認してください。
ダンピング抵抗を入れると、EMI対策としての効果は落ちませんか。
高域(Rが主体の帯域)での減衰にはほとんど影響しません。ダンピング抵抗が効くのは低域のLC共振で、その帯域ではもともとビーズの抵抗成分が小さく減衰も期待できないので、失うものはわずかです。むしろ低域でのピーキングをなくすメリットのほうが大きいことが多いです。
ビーズを2個直列にすればインピーダンスは2倍になりますか。
低域(純L)ではLが単純に加算されるので近い値になりますが、100MHz帯ではRcoreの飽和や部品間の浮遊容量・配線インダクタンスの影響で単純な2倍にはなりません。また低域のLが2倍になる分、後段のCとの共振周波数は下がり、Qが変わらなければピークはより低い周波数で立つようになります。2個直列より、1個で十分なインピーダンスが出る品種を選ぶほうが挙動を予測しやすいです。

参考にした規格・資料

  • IEC 62333 シリーズ(EMI抑制用固定インダクタの分類・測定方法) — フェライトビーズを含むEMI抑制用インダクタのインピーダンス測定・分類の規格
  • 村田製作所・TDK・Würth Elektronik 各社のフェライトビーズ データシート・技術資料 — インピーダンス(|Z|-R-X)周波数特性、直流重畳特性の図
  • 各社アプリケーションノート「フェライトビーズの選定方法」「デカップリング設計とフェライトビーズ」 — ビーズとデカップリングコンデンサの組み合わせによる共振・ダンピングの扱い方

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