5Vから3.3V・150mAを作る:電力収支と熱からLDO・降圧を選ぶ
電流定格が足りていても、その電源が基板で使えるとは限りません。5V入力から3.3V・150mAを作る仮想の小型基板を題材に、負荷の積み上げから方式の選択、試作で確かめる条件までを一枚の設計メモにします。
1. 要求を、動作状態と一緒に書く
入力は5V公称・±5%(4.75〜5.25V)、出力は3.3Vとします。負荷電流は下表の仮定です。データシートから引用した特定機種の消費電流ではなく、方式比較のために置いた値です。出力電圧の許容範囲、リップル、起動時間は負荷側の要求として別に埋めます。
MCUと無線が同時に動く時間を都合よく省かず、まず150mAを連続供給する条件で比較します。将来の機能追加や未確定のピークに備え、250mAが連続するときも別ケースとして確認します。短いピークを250mA連続と同じ熱条件にする必要はありませんが、ピーク電流と応答の検討は残ります。
| 負荷 | 同時動作時の電流 | 確認すること |
|---|---|---|
| MCU | 60mA | クロック・周辺機能・起動時 |
| 無線回路 | 70mA | 送信状態・バースト時間 |
| センサ等 | 20mA | 同時変換・外部への給電 |
| 合計 | 150mA | 出力電力 3.3 × 0.150 = 0.495W |
2. 公称条件で、入力電力と損失を分ける
LDOでは静止電流IQをいったん無視すると、入力電流は出力電流とほぼ等しく、Ploss = (Vin − Vout)Ioutです。5Vでは入力0.750W、出力0.495W、差の0.255Wが損失になり、効率は66%です。実部品を選ぶときはIQ等の消費を戻します。LDOの検討項目はTIの線形レギュレータ解説にも整理されています。
降圧コンバータは、この動作点の効率を90%と仮定して比較します。Pin = 0.495 / 0.90 = 0.550W、Ploss = 0.055W、5V入力電流は110mAです。出力側の150mAをそのまま入力側に置いてはいけません。90%は部品の保証値でも、全負荷範囲に使える一定値でもありません。
| 方式 | 入力電力 | 損失 | 入力電流 |
|---|---|---|---|
| LDO(I_Q無視) | 750mW | 255mW | 150mA |
| 降圧(効率90%の仮定) | 550mW | 55mW | 110mA |
| 降圧(効率85%の感度確認) | 582.4mW | 87.4mW | 116.5mA |
3. 発熱の厳しい入力上限へ置き換える
LDOの熱を5V公称のままで審査せず、入力上限5.25Vを使います。150mAでは損失が(5.25 − 3.3) × 0.150 = 0.2925Wになります。出力3.3Vはこの計算で固定しています。実設計では出力誤差やIQの上限も含め、損失が増える側の条件を確認します。
周囲温度TAを50°C、有効な接合部−周囲熱抵抗θJAを100°C/Wまたは200°C/Wと仮置きし、TJ ≈ TA + PlossθJAで感度を見ます。TI SPRA953Dが説明するようにθJAは基板や環境に依存します。この2値はパッケージの保証値ではなく、実基板で検証すべきモデルの幅です。
| 連続出力電流 | 損失 | θJA = 100°C/W | θJA = 200°C/W |
|---|---|---|---|
| 150mA | 292.5mW | 温度上昇29.25°C → 接合79.25°C | 温度上昇58.5°C → 接合108.5°C |
| 250mA | 487.5mW | 温度上昇48.75°C → 接合98.75°C | 温度上昇97.5°C → 接合147.5°C |
温度の計算結果だけで合格にはしません。選定部品の推奨動作条件・接合温度上限と設計余裕に照らし、銅箔、周辺発熱、筐体、風量を含めて確認します。サーマルシャットダウンは通常動作の温度目標ではありません。
4. 方式を選ぶ前に、低入力と軽負荷も見る
熱と逆の端では、入力下限4.75Vから配線・コネクタの降下を引いた電圧で、LDOが必要なドロップアウト余裕を持つか確認します。「5V入力」という名称だけでは端子電圧は決まりません。必要な出力容量とESR、DCバイアスや温度で減る容量も部品ごとの安定条件に合わせます。
降圧では選定候補の5V→3.3V・150mA付近の効率曲線と、その測定条件を確認します。軽負荷のモード切替、リップル、入力・出力コンデンサ、インダクタ、スイッチング電流の帰路を調べます。効率が良いことだけから、アナログ負荷へのノイズや実装面積まで優れるとは判断できません。
降圧の総損失55mWをそのままIC単体の接合温度計算へ入れることも避けます。IC、インダクタ、その他に損失が分かれるため、熱源ごとの配分を詰める必要があります。
5. 今回の設計判断と、残す確認事項
この仮定では、150mAでもLDOと90%効率の降圧との損失差は200mWあります。250mA連続が現実的で放熱面積が限られるなら、まず降圧を候補にして実部品の効率・実装条件を確認する判断になります。一方、150mAが上限で、基板の熱条件とノイズ・面積の要求を満たせるなら、LDOを残す余地があります。
設計メモには「何mAの定格品を選んだか」だけでなく、入力上下限、連続とピークの負荷、仮定した効率、温度条件、未確定の要求を書き残します。ここで選んだ方式を、まだ未選定の部品や未測定の基板についての動作保証に広げません。
- 負荷の各モードと同時性を表にし、連続電流とピークの時間を分ける。
- 公称条件で電力収支を作り、入力電源と配線に必要な電流を求める。
- 入力上限・高温で発熱、入力下限で電圧余裕を確認する。
- 実部品の温度・電流・安定条件と、降圧なら実動作点の効率を確認する。
- 試作では入力両端、最大連続負荷、負荷ステップ、起動、想定する筐体内の温度で確認し、仮定との差を更新する。
続けて確認する
まず電力計算と効率計算に自分の負荷を入れ、降圧の損失内訳は同期整流降圧計算機で検討します。熱の前提はLDOと銅箔面積、降圧の動作制約は最小オン時間、部品負担は入力コンデンサのリップル電流で掘り下げられます。
よくある質問
150mAなら、300mA定格のLDOで十分ですか?
降圧の効率は90%を使い続けてよいですか?
参考にした規格・資料
- Texas Instruments, Tips, Tricks and Advanced Applications of Linear Regulators (SLUP415) — LDOのドロップアウト、消費電力、静止電流、安定性などの確認項目。本文の負荷と降圧効率は本記事の仮定です。
- Texas Instruments, Semiconductor and IC Package Thermal Metrics (SPRA953D) — 第1章:接合部−周囲熱抵抗の試験環境依存性。実基板の温度を考える際の限界。