USB温湿度ロガーを設計する:誤差・自己発熱・電源断から発売判定まで
小さな測定器でも、センサをつなぐだけでは製品になりません。室内向けUSBロガーを題材に、要求と判断の根拠、未検証の項目を一つの設計記録にまとめます。
1. 作るものと、販売仕様の境界
室内の温度・相対湿度を1分ごとに保存し、USB経由でCSVを取り出す機器を設計します。日本国内向け、USBバス給電、電池・無線・AC入力なし、非結露の屋内用です。PCを外して記録するときは、別売の適合した5V USB電源が必要です。停電中は記録しません。
以下は未試作の設計例です。要求は温度10〜40℃、湿度20〜80%RH、製品全体の目標誤差±0.5℃・±3%RH、時刻を除く記録保持150日以上と置きます。これらは部品の保証値や達成済み性能ではありません。医療・食品安全判定のような用途は本仕様に含めません。
電源を切ると時計も止まる構成です。接続時にPCからUTC時刻を設定し、それ以前のデータは起動番号と経過秒で記録します。無効な時刻を実時刻らしくCSVへ出さず、clock_valid列で区別します。停電後も連続した実時刻が必須ならRTCとバックアップ電源を追加し、電池の管理と法規確認も再設計します。
2. 回路の骨格と部品候補
信号経路はSHT41 → I²C → RP2040 → 外付けQSPI NOR、読み出し経路はRP2040 → USB CDC → PCのCSV取得ツールです。RP2040の動作に必要なQSPI、発振器、電源、USB、デバッグ端子はメーカーのHardware design with RP2040を参照して回路図を起こします。ここでは製造用ネットリストや完成PCBを配布しているわけではありません。
候補はRP2040、SHT41、16MiBのW25Q128JV系NOR、3.3V固定TLV755P、USB-Cレセプタクルです。フラッシュの正確な電圧・パッケージ・発注型番を固定し、RP2040のブート用コマンドとSDK設定を照合します。RP2040のUSB端子周辺は公式参照回路の直列抵抗・配線条件を踏襲し、低容量ESD素子は信号品質を確認して選びます。
SHT41は3.3Vで使い、SDA/SCLを各4.7kΩでプルアップする初期案です。100kHz・総容量100pFを仮定すると30〜70%立上りは0.8473×4.7k×100p ≈398ns。公差、入力しきい値、各デバイスのシンク能力を照合して確定します。センサを外付けの長いケーブルには出さず、I²Cは同じ基板内に限定します。
割付案はGPIO4=SDA、GPIO5=SCL、GPIO25=状態LED(点灯電流0.5mAを上限とする設計目標)、USB D+/D−は専用端子、NORは専用QSPI端子、検査用SWDIO/SWCLKとRUNをテストパッドへ出します。12MHz発振子と負荷容量は選定品のCL・寄生容量で定数化し、電源の各デカップリングとVREG端子は公式参照回路を照合します。基板完成前にピン割付とパッケージ番号をERCで照合します。
3. USB電源と、測定誤差になる発熱
USB-CのCC1とCC2はそれぞれ独立した5.1kΩのRdで終端し、両者を短絡しません。PDで高電圧を要求しないUSB 2.0デバイスとして設計します。通信開始前の電流、構成記述子、suspend時の動作、VBUS入力容量・突入をUSB規格で照合します。コネクタがUSB-Cという理由だけで大電流を取らない設計です。
3.3V系の設計予算を通常60mA、起動・書込み時ピーク90mAと置きます。これはRP2040などの実測電流ではなく、ファームとクロックを制約して満たすべき予算です。5.25V入力の通常時LDO損失は(5.25−3.3)×0.06=117mW。ピーク90mAでは175.5mWです。静止電流を除く入力電流も確認し、列挙前100mAという設計上限を超える場合は機能を抑えるか電源方式を見直します。
仮の実装熱抵抗200℃/Wなら通常時上昇23.4℃、周囲40℃で接合63.4℃という感度見積もりになります。実部品の熱抵抗を測定せず確定温度とは扱いません。さらに通常時の入力電力は5.25×0.06=315mW。LDOが壊れないだけでは足りず、その熱で温度センサが周囲空気より高くなることが主要な誤差になります。
センサは基板端の通気部へ置き、MCU・LDO・USBコネクタと離します。スリットと配線幅で熱伝導を減らしつつ機械強度を確認します。データシートの自己発熱、測定頻度、ヒータ使用条件も確認し、通常測定でヒータを常時動かしません。ケースを閉じ、縦横配置、無風・微風、USB通信中・待機中で基準計との差を評価します。
PC接続時のsuspendではログ取得を停止し、USBの許容suspend電流内へ収める状態遷移を設けます。通常60mAのまま動き続ける設計にはしません。GPIO逆給電、LED、センサ、LDO静止電流を含む測定で条件を満たせなければ電源切替や負荷遮断を追加します。連続記録が必要な利用者には、suspendしない別電源で使う条件を説明します。
4. 記録容量より先に、電源断で壊れない形式を決める
16MiBのうち8MiBをログ用に予約し、1件を32byteと仮定すれば理論上262,144件、1分間隔で182.0日です。150日分216,000件は6,912,000byte。残り約1.48MBをブロックヘッダ・CRC・欠損領域・管理領域の余裕とし、実装後の有効容量で要求を再判定します。ファームのパーティション領域とログ領域はリンク設定で分け、書込みアドレス境界を検査します。
レコードはシーケンス、時刻または経過秒、温湿度、測定状態、CRC、commitを持たせます。消去済み領域へ本体を書き、CRCを確認してから別の書込みでcommitを確定する候補方式です。ページプログラムが原子的とは仮定せず、NORの追記・1→0条件と電源断時の動作を実部品資料で確認します。起動時は連番・CRC・commitの揃ったレコードだけ採用します。
管理ポインタだけを毎分同じセクタへ上書きする方式は避け、世代番号つきヘッダを巡回させます。消去回数は各セクタについて算出し、保持期間・温度・寿命に必要な条件を確定します。フラッシュ処理中にXIPコードを読めない区間とUSB割込みを考慮し、必要な処理をRAMへ移すなどRP2040の制約を実装で確認します。
CSVの出力中も同じログをPC側から書き換える構成にはしません。取得開始時に終端シーケンスを固定したスナップショットをCDCで読み出し、記録継続と整合させます。USB抜去・PC停止で記録処理が待ち続けないタイムアウトを設けます。
この32byte案はバイト順、温度・RHのスケール、無効値、CRC多項式と初期値まで形式版で固定します。commit判定だけで有効とはせずCRCと範囲を照合し、書込み再試行・消去中断・最新レコード欠落を試験します。
| 項目/Field | byte |
|---|---|
| sequence | 4 |
| UTC timestamp | 8 |
| elapsed seconds | 4 |
| boot ID | 4 |
| temperature signed fixed-point | 2 |
| RH unsigned fixed-point | 2 |
| status / clock_valid | 2 |
| CRC of first26 bytes | 4 |
| commit marker (last write) | 2 |
5. 誤差予算と、試験で初めて埋まる欄
±0.5℃という目標を、センサ保証範囲、基板・筐体の熱影響、校正残差、比較用基準計の不確かさへ割り付けます。カタログの典型精度を全条件の上限へ読み替えません。RHも同様で、結露・汚染・吸湿材・フラックスや接着剤由来の揮発物を設計と組立工程で管理します。センサ校正値を販売者が補正するなら、基準器、点数、保存形式、再校正条件を記録します。
次表は製品要求から置いた検証案です。未測定のため判定欄は未完です。各試験の試料数・測定系の不確かさ・温湿度の安定条件を試験計画で固定してから実施します。
| 試験 | 提案する合格条件 |
|---|---|
| 精度 | 10/25/40℃、20/50/80%RHの適切な組合せで総合目標内。基準計の不確かさを判定へ含める |
| 停電・抜去 | 書込み/消去/USB転送の各位相で遮断。過去commit済みレコードが読め、失われた区間を識別できる |
| 熱・電源 | 入力上下限、最大処理負荷、完成筐体で定格・電流予算・精度のすべてを満たす |
| 継続運転 | 150日分容量の書込み/読出し照合。時刻未設定・時計変更・ログ満杯も検査 |
| EMC・ESD | 適用する試験法とレベルを事前決定。誤記録、危険温度、復帰不能を許容しない |
6. 日本で売るときの確認と、生産への引き渡し
本案は無線を載せないので無線認証を前提にしません。PSEは製品名だけで判断せず、最終回路・供給形態を経済産業省の対象解釈と照合します。USB直流機器本体と、同梱・輸入するACアダプタの扱いを分け、アダプタを加える変更では輸入者/届出/表示/記録など該当義務を確認します。電池を追加する場合も再判定します。
EMCの法的要求とVCCIなどの自主規制、販売先・顧客が要求する規格を別欄で整理します。USBロゴ使用はUSB-IFの使用条件と認証手続きを確認し、接続できたことだけで認証済みと表示しません。海外販売をするなら対象国を決めて別の適合計画を作ります。
製造資料は回路図、BOMの発注型番と代替条件、Gerber/ドリル、実装図、ファーム版・ライセンス、試験手順・判定値、ラベル、取扱説明書を版で紐付けます。センサ汚染を避ける洗浄・実装条件、シリアル番号と校正係数を管理し、初回USB認識・センサCRC・ログ書込み/読出し・電流・基準環境比較を出荷検査へ落とします。
購入者には電源条件、非結露範囲、電源断中の欠測、時刻設定、データ保存責任、清掃方法、保証と問い合わせ先を説明します。異常電流やセンサドリフトの市場情報を製造ロットへ追跡できるようにします。発売判定は精度・耐性・データ保全・適用法規の証拠が揃った後です。
参考にした規格・資料
DEVICE DESIGN EXAMPLES
機器を一つ、設計してみる
要求・回路候補・電源と熱・試験・発売時の確認まで。未試作の設計例をたどります。
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設計例を読む →USB温湿度ロガーを設計する:誤差・自己発熱・電源断から発売判定まで
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設計例を読む →12V温度制御ファンを設計する:風量・電源・故障処理から販売前の確認まで
電子機器の筐体を換気する、小型の温度制御ファンを題材にします。要求仕様、候補部品、計算、制御、筐体、国内販売の確認事項を一つの製品案としてつなぎます。本例は未製作・未試験の参考設計です。以下の合格基準は提案仕様であり、実測結果や適合証明ではありません。
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