基板を発注する前に:電源・遅延・製造データを数値でつなぐレビュー票

DRCが通ったあとも、要求と製造データの間には確認することが残ります。仮想の基板を題材に、電源の往復経路と遅延差を計算し、その条件を製造先へ渡すところまでをレビュー票にまとめます。

最終更新: 2026-11-01 実務設計ガイド基板レビュー電圧降下遅延製造データ

1. レビュー票に「何を満たすか」と証拠を置く

この例では1Aの電源経路と、配線に割り当てる遅延差を確認します。部品やインターフェース固有の要求を示すものではありません。レビューは要求、回路図、レイアウト、製造データを同じ版で照合し、未解決の項目には担当と処置を残します。

下表の「完了条件」はレビュー票の書式例です。実物の基板を審査して合格させた結果ではありません。数値を埋める資料がない項目は保留にし、DRCの結果で置き換えません。

発注前レビュー票:要求から確認証拠まで
確認対象要求・前提残す証拠完了条件
電源経路最大電流、許容降下、往路と帰路抵抗計算、経路図、最狭部・ビア・接点の確認負荷端の電圧予算に収まる
タイミング対象信号、許容遅延差、層構成時間の予算表、層別の経路長、部品側の条件設定した解析条件で予算に収まる
製造条件板厚、銅厚、材料、穴、インピーダンス製造先と確認した層構成・能力・図面発注条件と出力データが一致する
データ整合回路図・基板・部品表・出力の版ERC/DRC結果、独立ビューアでの出力確認未処置の差分がなく、例外に理由がある

2. 100mmの銅配線を、幅と厚さを変えて計算する

20°Cの抵抗率をρ = 1.724 × 10−8Ωmと仮定し、R = ρL/(wt)で直流抵抗を求めます。長さ100mm、幅0.5mm、銅厚35µmではR = 98.514mΩです。1Aなら電圧降下IR = 98.514mV、損失I²R = 98.514mWになります。これは1本の均一な導体の計算で、ビアや接点を含みません。

同じ経路を帰路にも使えば、往復では抵抗・電圧降下・損失が2倍です。往復の銅配線に100mVという仮の予算を置くと、0.5mm幅の例は197.0mVで超えます。幅1mmの往復は98.5mVですが、ほとんど余裕が残りません。コネクタやビア等の降下、温度上昇を加える前の値なので、この数字だけで採用を決められません。

形状を変えた直流計算(1本、100mm、1A、抵抗率は同じ)
幅 / 銅厚抵抗電圧降下損失
0.5mm / 35µm98.51mΩ98.51mV98.51mW
1.0mm / 35µm49.26mΩ49.26mV49.26mW
0.45mm / 28µm136.83mΩ136.83mV136.83mW

0.45mm・28µmは感度を見るための独立した仮定で、特定の製造先の加工公差ではありません。温度上昇で変わる抵抗、実際の仕上がり銅厚・断面形状、最狭部を別に確認します。この計算は許容電流や温度上昇を保証しません。

3. 等長の目標を、遅延差の予算から作る

仮に許される遅延差を合計100psとし、パッケージ側で20ps、その他の不確かさに30psを使う保守的な予算を置くと、基板配線へ残せる差は50psです。同じ種類の層で単位長さ当たり遅延を6.5ps/mmと仮定すると、50 / 6.5 = 7.69mmが対応する経路長差です。これは総配線長の上限ではありません。

6.5ps/mmはこの例の仮定です。TIの高速基板設計ガイドが説明するように、伝搬は誘電体や配線構造に関係します。表層と内層を混ぜるなら、長さの差だけでなく層ごとの遅延を加算します。

仮想の遅延差予算
項目割当て
許容する総遅延差100ps
パッケージ側の差へ確保20ps
その他の不確かさへ確保30ps
基板配線へ残る差50ps
同一の6.5ps/mm経路に換算した長さ差7.69mm

この単純な差し引きは設計手順を示す例です。実インターフェースではsetup/holdの両側、クロックまたはストローブの関係、トポロジー、受信端、ビアや部品パッケージのモデルを使って評価します。7.69mmを汎用の等長規則にしません。

要求から製造データへつなぐレビュー電源経路とタイミング経路の予算を確認して製造リリースへ進む流れ。1Aで98.5mVの片道電圧降下と50psの配線遅延差予算の例。 設計要求 電源経路 100mm × 0.5mm × 35µm:1Aで98.5mV タイミング経路 50ps ÷ 6.5ps/mm = 7.69mm 製造データの発注判断 仮の予算例。製造先の層構成を確認する
図1:電源と遅延の確認結果を要求へ戻し、製造条件と結び付けて発注判断を行います。

4. 製造先へ、計算の前提ごと渡す

電気的な計算が正しくても、その銅厚や層構成で製造されなければ前提が変わります。発注書と製造図面に、板の版、層順、材料・板厚、銅厚の意味、表面処理、必要な穴径と公差、インピーダンス要求などを整理します。銅厚は出発銅箔か仕上がりか、穴径はドリル径か仕上がり径かを曖昧にしません。

製造先の例として、Eurocircuitsの機械図面ガイドは外形・寸法・加工情報を、公差表は同社の製造条件を示しています。値を他社への一般規則として持ち込まず、実際に使うサービスで確認します。インピーダンスが必要なら、同社の定義インピーダンスサービスのように、確認した材料・層構成と対応する条件で合意します。

  1. 回路図・基板の版を固定し、ERC/DRCの未処置項目と例外理由を整理する。
  2. 銅箔・マスク・外形・穴の製造データを出力し、独立したビューアで位置・単位・層順・抜けを確認する。
  3. 電源計算に使った経路、最狭部、帰路と、遅延予算に使った層・長さが出力データでも成立しているか確認する。
  4. 製造先の要求形式で製造図面とデータをそろえ、穴や銅厚、公差、インピーダンスの解釈違いを解消する。
  5. 送付一式を版付きで保存し、製造先から変更提案が来たら電気・機械条件への影響を再確認する。

5. 発注の判断に残すもの

この例では0.5mm幅の往復配線は仮の100mV予算を超え、幅1mmでも公称計算に余裕がほぼありません。幅や経路・帰路を見直し、仕上がり条件を確認するまで保留にする判断です。タイミングは仮定した同一層の条件で長さ差7.69mmに相当しますが、実際の信号仕様や層構成に置き換える作業が残ります。

レビュー票には、計算値、採用した前提、残る確認、担当、対象の版、確認日を置きます。承認するのはファイル一式とその条件です。製造先からの銅厚・層構成・線幅などの変更を、計算と無関係な調整として扱わないことが重要です。

抵抗の再計算は配線抵抗と電圧降下計算機、時間と長さの変換は遅延から長さ・長さから遅延を使います。続けて電源パターン幅、等長配線の許容差、表層と内層の遅延差を確認できます。

よくある質問

DRCが通れば発注してよいですか?
DRCは設定したルールとデータの照合です。電圧降下、熱、タイミング、機械条件、製造先の解釈、出力ファイルの版と整合は別に確認します。
配線抵抗から許容電流も分かりますか?
この計算で得るのは仮定した断面と抵抗率での抵抗、電圧降下、損失です。許容温度上昇と放熱条件を含む電流容量の評価は別に行います。

参考にした規格・資料

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